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全権限があるそうです
しおりを挟む「ぐは……!」
悶えるセバに、リトはわたわた駆け寄った。
「セバ、くるし? テデ……!」
呼びに行こうと慌てるリトを、赤い頬でセバが止める。
「へ、平気だ」
かっこよい家令に戻るセバの隣で、仕立て屋さんも復活した。
「な、なるほど、これくらいの穴を開けるといい訳ですね、縁を補強して──」
「従僕だからな、白い衣がいいな」
「え、黒では?」
仕立て屋さんがびっくりしてる。
「ジゼさまの従僕だ。黒だなんて、ありえない」
「か、かしこまりました!」
白いほうが、華やかになるからかな?
ジゼは月の髪に蒼の瞳だから、黒も映えると思うけど……
「刺繍はジェディス家の紋章を。襟と裾だな、背面にも。とりあえず、見た人が『うぎゃあ! かわいー!』となる装束を作ってくれ」
「か、かしこまりました!」
仕立て屋さんが引き攣ってる。
クライアントの無茶振り、大変だよね!
……前世でそんな立派な職業に就いてたとは思えないけど、なんとなく。
「とりあえず幾つか案を出してくれ。ジゼさまがお決めになる。
ふわふわでひらひらでふりふりのと、しゅっとしたのは一着ずつ頼むと思う」
出た、クライアントの擬音攻撃。
……オンライン小説で見た。たぶん。
「明朝にはお持ちできるよう奮闘します」
「頼んだ」
「よろし、おねが、しまぅ!」
ぺこりと両手を前に頭を下げたら、ぎゅむぎゅむちっちゃくしていたしっぽが、ぽふんとおっきくなって、ほわほわ揺れる。
仕立て屋さんが顔を覆った。
「……獣人のお子さまというのは、こんなに……! 攻撃力が高いものなのですね……!」
……え。
殴ったりしてないよ!?
「やばいな」
セバがうむうむしてる。
「ぼ、僕、暴力、にがて……」
涙目でしょんぼりしたら、耳と尻尾もぺしゃりと垂れる。
「あぁ──!」
悶える仕立て屋さんに、やってきた靴屋さんが固まった。
こほんと咳払いしたセバに、わたわたした仕立て屋さんが丁寧にお辞儀をして帰ってゆく。
入れ替わりに入ってきた靴屋さんは、リトが獣人であることに息を呑んだものの、セバの目から放たれる殺人光線に慌てたようにリトの足を丁寧に測ってくれた。
「衣と揃えで作るから、白い革だけ用意しておいてくれ」
「かしこまりました」
靴屋さんがぷるぷるしてるのは、測ってくれる間中、しっぽがふわふわしてたからだと思う。
なでなでしちゃう!
「ごめなしあ」
「滅相もない!」
真っ赤な顔で、ぶんぶん首を振ってくれた。
「リト、ジゼさま以外に触らせるな案件は覚えているか……?」
セバの声が地を這ってる。
「あい!」
裏切り、だめ、絶対。
「しっぽは抱っこしておけ!」
「あい!」
あわあわしたリトは、きゅうっとしっぽを抱きしめた。
「はぅあ──!」
靴屋さんがうずくまる。
セバがぎゅっと胸を押さえた。
「……リト、やばい」
なんか色々だめみたいです。
しょんぼり。
バァン──!
凄い音と共に、使用人の休憩室の扉が開いた。
跳びあがったリトと靴屋さんと、完璧な微笑みになったセバが、うやうやしくあるじを出迎える。
「リトの装束に関して、全権限は、俺にある!」
拳を握るジゼに、完璧なはずのセバの肩が、ぷるぷるしてる。
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