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ぎゅむぎゅむ

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 きゅ、と握ったセバの手はジゼやジゼ父と違って、ペンだこのある手だ。
 長くて細い指は、お茶を淹れてくれると、うっとりするあでやかさだろう。

 リトはセバを見あげる。

「二度目、まして、リト、でし。よろし、おねが、しまし!」

 ぴょこんと跳ねる耳と尻尾と一緒に、頭をさげる。

「……うひゃー。わしゃわしゃ撫でたら、ジゼさまの髪が逆立つだろーなー」

 銀縁眼鏡の向こうの瞳が、によによしてる。
 表向きと裏向きの言葉も顔も全然違うセバは、色っぽさだけはおんなじだ。

「あの、家令ちょ、一番、えらい?」

 首を傾げるリトと一緒に、ふわふわの尻尾もぱたりと揺れる。

「……くっ! なでなでしてぇ──!」

 悶えてる。

「……えと、どぞ?」

 ギンッ
 蘇芳の目が音を立てるように切れあがった。


「それ絶対、ジゼさま以外に言うな」

「え?」

「解ったな!」

 蘇芳の髪が逆立ちそうなセバに、リトはこくこく頷いた。

「あい!」

「リト、いいか、ジゼさまとゲォルグさま以外に、髪とか耳とか尻尾とか触らせるな。絶対絶対絶対だめだ!
 ジゼさまに対する裏切りだぞ、解ったか!」

「あい!」

 ぷるぷる震えたリトは頷いた。


 裏切り、だめ、絶対。


「ジゼさまはリトが傍でちょろちょろしてるだけでいーんだろーけど、それだとジェディス家の評判が落ちる。獣人の評価もな。それはよくねえ。よって、リトには完璧な従僕になってもらう!」

「あい!」

「厳しいぞ、覚悟しろ!」

「あい!」

 ちっちゃい拳を握って、ふわふわの耳としっぽと一緒にぴょこんと頷いた。

 銀縁眼鏡の向こうの蘇芳の瞳が遠くなる。

「……いや、もー、リト、かわいーから何にもしなくていいんじゃね?」

 ぽそぽそ呟かれた言葉も、獣人の耳にはばっちり聞こえる。
 リトは首を傾げた。

「セバ、目、よく、ない?」

「あぁ、眼鏡してるだろ。どーしてもゲォルグさまにお仕えしたくて猛勉強したら目が死んだ」

 なるほど、見えてない!


「あ、あの、ゲォルグ×セバ? セバ×ゲォルグ?」

「お、俺もしたことねえのに呼び捨てするなぁアァア──!」


 真っ赤なセバに絶叫された。


 どっちかは教えてくれなかった。


 しょんぼり。







 セバの特訓は、リトの服を作るところから始まった。

 広大なジェディス家のお屋敷の一角、使用人の休憩室に、セバが呼んでくれた仕立て屋さんがやってきて、獣人のリトに目を剥いた。

「こ、こちらの方のお召し物を?」

 引き攣ってる。

「あぁ、帝国法に触れるようなことは、しねえよな?」

「も、勿論でございます! 違うのです、私ども、獣人の方のお召し物を作らせて戴いたことがございませんので、型紙や縫製に少し不安が──」

「頑張って縫ってくれ」

「かしこまりました」

 うやうやしく礼をした仕立て屋さんが、リトの身体を丁寧に採寸してくれる。
 ふわふわの尻尾に止まる仕立て屋さんの隣で、セバも唸った。

「これさ、ふわっふわのしっぽが入る穴を開けると、すんごい穴開きの尻になるぜ。どうしよ?」

 仕立て屋さんも、八の字眉だ。

「しっぽ、ちっちゃ、なる!」

 ぎゅむぎゅむ握る。

 ちっちゃくなったよ!


 えへんと胸を張るリトの向こうで、真っ赤になったセバと仕立て屋さんが胸を押さえてた。





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