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だめらしい
しおりを挟む「リトを頼む」
「御意」
胸に手をあてたセバが、ジゼにうやうやしくこうべを垂れる。
まねっこしたリトも、胸に手をあて、頭をぺこりとさげた。
ぴんとした耳の下で、真っ白な尻尾がぶんぶん揺れる。
「ぎょい!」
執務室にいた侍従の皆さんが、一斉にぷるぷるして俯いた。
両手で顔を覆うジゼの耳が朱い。
……気のせいかな?
「あー、うん、リト、やばいな」
ジゼの執務室を出たセバに、いきなりダメ出しされた!
「……や、やばぃ……?」
ぺしゃりと耳と尾が垂れる。
何か間違えた?
いやなんか、間違ってるのは解ってる。
解るんだけど、中身は確かジゼ父と同じくらいのはずなんだけど、人生経験とか威厳とか貫禄とか皆無だし、脳みそも残念だし、ちっちゃい身体に引っ張られてちょっと……!
「ご、ごめなしあ……!」
あわてて頭を下げるリトの後ろで、執務室の扉が開いた。
「泣かせたら殺す」
ドスの利いた声が、ジゼの唇から零れたことにびっくりした。
ぴょこんと跳びあがったリトの涙腺が、崩壊する。
「ごめなしあ……!」
わーん!
いきなり溢れた涙が止まらない!
さすが幼児!
涙腺が突然決壊するよ!
「り、リト……! ち、違う、リトを責めたんじゃ……」
駆け寄ったジゼが躊躇うように伸ばした腕の向こうで、セバがにやにやしてる。
ギッとセバを睨みつけたジゼの腕が、ぎゅっとリトを抱きしめた。
「泣くな」
ささやきが、ふわふわの耳にふれる。
ぴくりと動いた耳が、ほわほわジゼの頬を撫でた。
「……っ!」
真っ赤になったジゼに
ぎゅう
抱きしめられる。
「あるじしゃま」
そっと、そっと、ジゼの背に、手を回す。
ふわふわ、ほわほわ、尻尾が揺れる。
「あぁ、うん、リト、やばい」
セバの呟きが突き刺さる。
色々だめらしいよ……!
ごめなしあ!
リトを従僕として教育してくれるセバは、さらさらの蘇芳の髪に、銀縁眼鏡の向こうの蘇芳の瞳が怜悧にきらめく、黒スーツに包まれた細い腰が涎ものの青年だ。
身体が回復するにつれて前世の記憶も、ちょこっと思い出してきたリトは、最愛の推しのルートを思い出す。
BLゲームではジゼ父とともに、ちらっとジゼルートに描かれただけだったが
『あのイケオジは何者!?』
『30代をおじさん言うな!』
『ちょ、家令やばい!』
『絶対デキてる!』
『イケオジ×家令!?』
『家令×イケオジだろう!』
ジゼルートのはずなのに、話題を掻っ攫ったふたりだ。
途中で切実な嘆きが入ってた気がする。
めちゃくちゃわかる。
生きて動いてるセバは、さらさら揺れる髪からいい匂いするとか、銀縁眼鏡の向こうでダダ漏れている色気が凄いとか、寸分の隙なく着込まれた黒スーツを乱したくなる細い腰とか、なんか、色々やばい。
ゲームでは
『御意』
しか台詞がなかった気がするのに、こんなにキラキラでつやつやだなんて、この世界すごい!
ぽかんとするリトの前に、セバは長身を折り曲げて屈んでくれる。
「俺はジェディス家の家令長をやってる、セバだ。よろしくな、リト」
白い手袋をとって差しだしてくれた手に、目を瞠る。
獣人と手を握ってくれる人は、いなかった。
ジゼに続いて、ふたりめだ。
ほわほわ頬が熱くなる。
耳と尻尾が、ふわふわ揺れた。
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