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ふところで、あたためるのです

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 皆がしてるから覚えた誓いの所作によろけたリトを、さっと伸びた手が支えてくれた。

 見あげたら、月の光の髪が、さらさら揺れる。
 氷のように澄み渡る蒼の瞳の眦が、ふうわり紅い。

 支えてくれたジゼの手を、そっと握る。

 ぎゅっと握り返してくれる指が、熱い。


「従僕の誓い、確かに聞いた。
 これよりリトを我が子息ジゼ・ディオ・ジェディスの従僕とすることを、我ドディア帝国筆頭侯爵ゲォルグ・ディア・ジェディスが承認する」

 剣を握り鍛錬を重ねたのだろう、ゲォルグのごつごつの指が、ジゼの額とリトの額にやさしくふれる。

 その瞬間、ふわりと光が舞いあがり、ジゼとリトの額にきらめく魔紋が輝いた。


「これでジゼの危機が、きみに解る。たすけてやってくれ」

 大きな手が、リトの頭を撫でてくれる。

「あい!」

 熱い頬で、ジゼを見あげる。
 しゃんとしたいのに、あまいよろこびに、ふわふわ尻尾が揺れてしまう。

「あるじしゃま」

 燃える頬で、潤む瞳で囁いたら、ジゼが両手で顔を覆った。



「……まあ、うん、色々がんばれ」

 ゲォルグの大きな手が、ジゼの肩をぽんぽんしてる。








 リトの従僕な日々が始まった!

 ジゼの傍にいていい日々だなんて、楽園だ。
 天国だ。
 ありがたい。
 拝んでしまう。

「どうした、リト」

 声変わり前の、やわらかな澄んだ声で、そうっとジゼが頭を撫でてくれる。
 熱い頬でジゼを見あげたリトは従僕の務めを果たそうとして、停止した。

「あ、あの、ジゼしゃま、お靴……」

 ジゼの靴は、真っ白な編みあげのロングブーツだ。

 めちゃくちゃかっこかわいー。
 しかし、懐に入らない!

 しょんぼりするリトの耳と尾がぺしゃりと垂れる。


「靴屋を呼べ。リトの靴を作らせろ」

 ジゼの言葉に、控えていた侍従もリトも跳びあがる。

「ち、ちがう、の。あの、ジゼしゃま、お靴、僕、ふところ、あたため。ジゼしゃま、寒く、ないょ、に!」

 懸命に話したリトに、ぽかんとしたジゼが、両手で顔を覆った。

 ジゼの執務室で控える侍従たちの肩がぷるぷるしてる。
 笑いを堪えているらしい。

「じゅ、従僕、おつとめ……まちがた?」

 泣きだしそうなリトのぺしょぺしょの耳を、ジゼの指がそうっと撫でた。


「気持ちを、うれしく思う」

「……まちがた?」

 うるうるの目で見あげたら、ジゼが唇を覆う。


「……いや、うん……その……」

 まちがったらしい。
 なのに『間違ってる! あんぽんたん!』言わないでくれるジゼが、やさしい!

 うるうるしながらしょんぼりするリトと、わたわたするジゼに、声が降る。

「ジゼさま、従僕の指導は、わたくしが」

 白シャツに黒スーツがこのうえなく似合う蘇芳の髪をなびかせ、家令長セバが胸に手をあて微笑んだ。

 名高いジェディス筆頭侯爵家の家令長を務めると聞くと、誰もが目を剥く若さだ。
 銀縁眼鏡の向こうで蘇芳の瞳が楽し気に閃いて、ちょっと月の眉をあげたジゼは吐息する。

「きちんと教えるんだぞ」

「勿論です、我がきみ」

「父上しか見えてない癖に」

 鼻を鳴らすジゼに、セバの笑みが深くなる。


「最愛の最愛は、わたくしの最愛でもあるのです」

 月の睫が瞬いて、ふいと目を逸らしたジゼの眦がほんのり赤い。


 ジゼ父とジゼの仲はとってもよいみたいだよ!
 よかった!







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