13 / 189
ふところで、あたためるのです
しおりを挟む皆がしてるから覚えた誓いの所作によろけたリトを、さっと伸びた手が支えてくれた。
見あげたら、月の光の髪が、さらさら揺れる。
氷のように澄み渡る蒼の瞳の眦が、ふうわり紅い。
支えてくれたジゼの手を、そっと握る。
ぎゅっと握り返してくれる指が、熱い。
「従僕の誓い、確かに聞いた。
これよりリトを我が子息ジゼ・ディオ・ジェディスの従僕とすることを、我ドディア帝国筆頭侯爵ゲォルグ・ディア・ジェディスが承認する」
剣を握り鍛錬を重ねたのだろう、ゲォルグのごつごつの指が、ジゼの額とリトの額にやさしくふれる。
その瞬間、ふわりと光が舞いあがり、ジゼとリトの額にきらめく魔紋が輝いた。
「これでジゼの危機が、きみに解る。たすけてやってくれ」
大きな手が、リトの頭を撫でてくれる。
「あい!」
熱い頬で、ジゼを見あげる。
しゃんとしたいのに、あまいよろこびに、ふわふわ尻尾が揺れてしまう。
「あるじしゃま」
燃える頬で、潤む瞳で囁いたら、ジゼが両手で顔を覆った。
「……まあ、うん、色々がんばれ」
ゲォルグの大きな手が、ジゼの肩をぽんぽんしてる。
リトの従僕な日々が始まった!
ジゼの傍にいていい日々だなんて、楽園だ。
天国だ。
ありがたい。
拝んでしまう。
「どうした、リト」
声変わり前の、やわらかな澄んだ声で、そうっとジゼが頭を撫でてくれる。
熱い頬でジゼを見あげたリトは従僕の務めを果たそうとして、停止した。
「あ、あの、ジゼしゃま、お靴……」
ジゼの靴は、真っ白な編みあげのロングブーツだ。
めちゃくちゃかっこかわいー。
しかし、懐に入らない!
しょんぼりするリトの耳と尾がぺしゃりと垂れる。
「靴屋を呼べ。リトの靴を作らせろ」
ジゼの言葉に、控えていた侍従もリトも跳びあがる。
「ち、ちがう、の。あの、ジゼしゃま、お靴、僕、ふところ、あたため。ジゼしゃま、寒く、ないょ、に!」
懸命に話したリトに、ぽかんとしたジゼが、両手で顔を覆った。
ジゼの執務室で控える侍従たちの肩がぷるぷるしてる。
笑いを堪えているらしい。
「じゅ、従僕、おつとめ……まちがた?」
泣きだしそうなリトのぺしょぺしょの耳を、ジゼの指がそうっと撫でた。
「気持ちを、うれしく思う」
「……まちがた?」
うるうるの目で見あげたら、ジゼが唇を覆う。
「……いや、うん……その……」
まちがったらしい。
なのに『間違ってる! あんぽんたん!』言わないでくれるジゼが、やさしい!
うるうるしながらしょんぼりするリトと、わたわたするジゼに、声が降る。
「ジゼさま、従僕の指導は、わたくしが」
白シャツに黒スーツがこのうえなく似合う蘇芳の髪をなびかせ、家令長セバが胸に手をあて微笑んだ。
名高いジェディス筆頭侯爵家の家令長を務めると聞くと、誰もが目を剥く若さだ。
銀縁眼鏡の向こうで蘇芳の瞳が楽し気に閃いて、ちょっと月の眉をあげたジゼは吐息する。
「きちんと教えるんだぞ」
「勿論です、我がきみ」
「父上しか見えてない癖に」
鼻を鳴らすジゼに、セバの笑みが深くなる。
「最愛の最愛は、わたくしの最愛でもあるのです」
月の睫が瞬いて、ふいと目を逸らしたジゼの眦がほんのり赤い。
ジゼ父とジゼの仲はとってもよいみたいだよ!
よかった!
2,185
お気に入りに追加
3,496
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました
十夜 篁
BL
初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。
そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。
「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!?
しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」
ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意!
「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」
まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…?
「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」
「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」
健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!?
そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。
《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件
白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。
最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。
いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる