11 / 209
おとたま降臨
しおりを挟むリトの足は随分よくなったけど、やっぱり引き摺る。
が、痛みがないので、とてもうれしい。
リトは心からテデに感謝している。
が、思いきりジゼに睨みつけられ、真っ青になったテデはぷるぷるした。
「き、奇跡的な回復です! 生きていて、歩けて、話せるだなんて、まさに奇跡です! おそらくジゼさまの魔力の賜物かと」
疑わしそうに剣呑に目を細めるジゼの月の髪をぽふぽふ撫でたのは、ジゼを二十歳くらい熟成させたらこうなるのかな、とわくわくする、うっとりするおじさまだ。
いや、おじさまとかいう言葉が申し訳なくなるくらい若い。
確か設定ではジゼは20歳の時の子だったから、今32歳だ。
ジゼ父は、中身と同い年くらいなのかなあ……
いや容色は天空の月とドブ、比較することさえ畏れ多いです!
勝手な親近感とともに見あげると、ジゼ父はほんのり唇をほころばせてくれた。
獣人を憎悪していないみたいだ。
うれしい。
ぴこりと跳ねる耳としっぽに、ジゼ父の目じりが下がり、ジゼの目は吊りあがる。
傍らのジゼの反応に、父の蒼の瞳が面白そうに閃いた。
「ふむ。この子をジゼの従僕にするのか」
月の髭を撫でるおじさまを、剣呑なままのジゼの瞳が見あげる。
「否は聞きません」
父たる侯爵が喉を鳴らした。
「畏れながら申しあげます! 下等な獣人をジゼさまの従僕とするのは、ジゼさまのご評判を地に墜とすだけでなく、ジェディス家の名誉にも泥を塗るかと!」
「子爵位以上の貴族こそがお仕えすべきです!」
「下劣な獣人などとともにお仕えできる訳がないでしょう!」
「即刻解雇を!」
憎々し気にリトを睨みつける侍従たちに、侯爵は凛々しい眉をあげた。
ジゼの氷の声が告げる。
「リトを蔑む者、忌避する者は、俺の侍従から外す。
そこの、すべて出ていけ」
睥睨に、居並ぶ侍従たちが跳びあがる。
「そんな、ジゼさま──!」
侍従の悲鳴を背に、侯爵は吐息した。
「獣人差別が帝国法で禁止されてもう三年になる。中々浸透せず憂わしい事態だ。他所の話だと思っていたが、まさか我が邸内にまで蔓延していたとはな」
侯爵は、ジゼとおそろいの蒼の目を眇める。
「帝国法に抵触した罪で即時解雇とし、退職金は支払わぬ。出てゆくがいい。
セバ、昨日までの給金は払ってやれ」
「御意」
侯爵に視線を送られた家令長セバが胸に手をあて、こうべを垂れた。
「そんな──!」
悲鳴をあげる侍従たちを、さっとやってきた侯爵邸を警護する衛士たちが連行してゆく。
見遣ることさえなく、侯爵はジゼとリトに目を落とした。
「ジゼが獣人の従僕を連れるのは、よい啓蒙になるだろう。
……しかし魔素に侵された身か」
リトの引きずる足と、回らぬ口を見つめる父に、ジゼは胸を張る。
「個性です」
侯爵の唇が、弓をえがいた。
「守ってやれるのか」
「この身に代えて」
蒼の瞳が、まっすぐ父を見あげる。
大きな手が、月の髪をわしゃわしゃ撫でた。
「よい顔をするようになった」
ふうわり眦を朱に染めたジゼの背をぽんと叩いた侯爵は、背の高い身体を折り曲げるようにリトの前に屈んでくれる。
「我が息子に仕えてくれるのか」
ピンと耳としっぽをしゃんとしたリトは、こくんと頷いた。
胸に手をあて、よろよろ膝をついたリトは、最愛を見あげる。
「命、懸け、ジゼしゃま、お守り。
終生、ジゼしゃま、お仕え」
ジゼの頬が、ふうわり、紅に染まった。
2,582
お気に入りに追加
3,868
あなたにおすすめの小説
【完結】帝王様は、表でも裏でも有名な飼い猫を溺愛する
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
離地暦201年――人類は地球を離れ、宇宙で新たな生活を始め200年近くが経過した。貧困の差が広がる地球を捨て、裕福な人々は宇宙へ進出していく。
狙撃手として裏で名を馳せたルーイは、地球での狙撃の帰りに公安に拘束された。逃走経路を疎かにした結果だ。表では一流モデルとして有名な青年が裏路地で保護される、滅多にない事態に公安は彼を疑うが……。
表も裏もひっくるめてルーイの『飼い主』である権力者リューアは公安からの問い合わせに対し、彼の保護と称した強制連行を指示する。
権力者一族の争いに巻き込まれるルーイと、ひたすらに彼に甘いリューアの愛の行方は?
【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう
【注意】※印は性的表現有ります

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は?
最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか?
人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。
よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。
ハッピーエンド確定
※は性的描写あり
【完結】2021/10/31
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ
2021/10/03 エブリスタ、BLカテゴリー 1位

俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
完結|ひそかに片想いしていた公爵がテンセイとやらで突然甘くなった上、私が12回死んでいる隠しきゃらとは初耳ですが?
七角@中華BL発売中
BL
第12回BL大賞奨励賞をいただきました♡第二王子のユーリィは、美しい兄と違って国を統べる使命もなく、兄の婚約者・エドゥアルド公爵に十年間叶わぬ片想いをしている。
その公爵が今日、亡くなった。と思いきや、禁忌の蘇生魔法で悪魔的な美貌を復活させた上、ユーリィを抱き締め、「君は一年以内に死ぬが、私が守る」と囁いてー?
十二個もあるユーリィの「死亡ふらぐ」を壊していく中で、この世界が「びいえるげえむ」の舞台であり、公爵は「テンセイシャ」だと判明していく。
転生者と登場人物ゆえのすれ違い、ゲームで割り振られた役割と人格のギャップ、世界の強制力に知らず翻弄されるうち、ユーリィは知る。自分が最悪の「カクシきゃら」だと。そして公爵の中の"創真"が、ユーリィを救うため十二回死んでまでやり直していることを。
どんでん返しからの甘々ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる