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お仕えするのです
しおりを挟むジゼのとろける匂いに、耳もしっぽもふりふりしちゃう。
きゅ、と拳を握ったリトは、ほんのり赤い眦のジゼを見あげる。
「あ、あの、あの、僕、ジゼしゃま、お役、立ち、たい、れす。あの、お傍で、働かせ、くだ、さい!」
分不相応な望みなのは、痛いほど解ってる。
獣人は、下僕だ。
人権さえない。
天下に名立たるジェディス筆頭侯爵家を継ぐことがほぼ確定のジゼに仕えることができるのは、貴族のみだ。
それでも厩番でも掃除人でも何でも使ってもらえれば、ジゼが有利なように動くことができるかもしれない。
肝心のイベントに行くルートを開くことができるかもしれない。
……なにより、ジゼの傍に、いたい。
魂を籠めたうるうるの上目遣いで懇願するリトに、ジゼは胸を押さえた。
「や、やはりジゼさま、もしかして心の臓が──!? さ、ささささ早速診察を──!」
鼻血と涎を垂らしながらジゼの胸をはだけようとするテデを、ジゼの鉄拳が吹き飛ばす。
飛んでゆくテデがうれしそうだよ。
なぜ?
こほんと咳払いしたジゼは、リトの白い髪を、そうっと撫でた。
「──では、俺の従僕に」
じゅうぼく?
従僕。下男ってこと?
頭をひねると、ちょこっと前世の知識が蘇った。
このBLゲームの世界では、家令>執事>侍従>従僕 の順に偉かったと思う。
家令は主の公務や領地経営にも携わる。侯爵の右腕となる家令長セバを筆頭に、とても頭のよい人たちだ。セバは家令長だから、他にも家令がいるんだね。さすが筆頭侯爵家。でかい。
執事は主に邸の管理の一切を任されている。
侍従は主の公務のお手伝い。
従僕は主の身の回りのお世話を担当する。
この世界では、たぶん!
なんの身分もないリトは、従僕になるのが精一杯だが、ジェディス家の従僕だなんて、大躍進だ。
じゅうぼく。
靴を磨いたり、靴を履かせたり、靴をふところであたためたりする役ね!
「よろこんで!」
最愛の推しのお靴を、ふところであたためます!
ぶんぶんする耳としっぽに、ジゼが唇を覆う。
「な、なな、なりません──! ジゼさまの従僕は子爵以上の貴族の子弟と決まって──」
「おらぬ」
ジゼの氷の目で射貫かれたテデは沈黙する。
テデの殺人光線に射貫かれたリトは、硬直した。
……従僕って、思ってるのと、違うみたい……?
食べられるようになって、立てるようになって、歩けるようになりました!
リトのふわふわの耳としっぽがぶんぶん揺れる。
「僕、元気、なりまた!」
両手を挙げたら、ジゼが両手で顔を覆った。
ちっちゃいお顔は隠れてるが、赤いお耳が隠れてない。
……気のせいかな?
12歳なのに次期当主として設えられているジゼの執務室には書棚と大きな机と座り心地のよさそうな革張りの椅子が並んでいる。
控える侍従たちは、汚らわしそうにリトを見た。
しょんぼり垂れそうな耳としっぽをぴんとして、リトは頭を下げる。
「今日、ら、ジゼしゃま、お仕え。よろ、く、おねが、しまぅ!」
一生懸命話しているつもりなのだが、どうも口が動かない。
中身イイ歳したおじさんとしては恥ずかしいが、ちっちゃい身体にあわせて、心も幼くなってる気がする。
というより、頭のなかが最愛の推し一色で、他に何も考えられないよ!
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