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ふんふん

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 リトが横たわる寝台まで持ってきてくれた朝ご飯は、白い湯気が立っている。
 あたたかいスープが舌を喉をすべりおち、胃の腑を底からぬくめてくれる。

 おいしい
 いきてる
 うれしい

 だからこそ、殺された皆を思うと、涙があふれる。
 ふかふかのパンを噛み締めるたび、鼻の奥がつんとする。


「ありあと、ござまし」

 涙ながらに幾度も頭をさげるリトに、ジゼは今までの食生活を察してくれたらしい。

「たくさん食え」

 この世界では目が飛び出るほど高価な、甘いはちみつパンを、唇に押しあててくれた。

 はむ。

「……おぃひーれす、ジゼしゃま」

 火照る頬で、笑う。
 耳も、しっぽも、ふわふわ揺れる。

「……っ!」

 眦に朱を刷いたジゼが、掌で唇を覆った。


「……じ、ジゼさまに、あ、『あーん♡』してもらうなんてェエぇえ──!」

 絶望と号泣で絶叫するテデに、

「い、いまの……あー、ん……?」

 びっくりして、そうっと聞いてみた。

 ふいと逸らされたジゼの耳朶が、紅い。



 ふかふかのパンを食べ、お野菜たっぷりのスープを飲み、お肉もちょこっと齧れるようになったリトは、歩けるまでに回復した。

「た、立て、た! ジゼしゃま!」

 足は、まだちょっと動き難い。
 前から変な方にしか動かなくて困っていたけれど、さらによれよれする。

 ふかふかの寝台から立ちあがり、お見舞いに来てくれたジゼにぽてぽて駆け寄る、というより、よれよれ近づくリトに、ジゼは掌でちいさな顔を覆った。

「あ、あの……ジゼしゃま……僕、歩ける……」

 ……迷惑だったかな?

 ぺしょりとなる耳としっぽを攫うように、抱きしめられた。

「……よく、頑張った」

 囁くジゼの吐息が、ふわふわの耳に触れる。
 目の前のジゼの耳朶が、ほわほわ朱い。

「えへへ」

 朱い耳をそっとつついたら、ジゼが跳びあがって、テデの目が吊りあがる。

「こるァアあぁ──!
 ジゼさまに触れるなんて、絶対ダメダメダメダメダメだからぁあァアア──!」

 叫んだテデを、ジゼから放たれた殺人光線が射貫いた気がしたんだけど、気のせいかな?

 真っ青になったテデは、引き攣った頬で、静かに額に青筋を浮かべた。

「身分の差を考えろ。天上におはす方だぞ」

 たしなめられたリトの耳としっぽが、ぺしょりと垂れる。

「……あい」

 ジゼが唇を手で覆ってる。
 朱いお耳は覆えてないよ。


 かわいー!
 あぁ、最愛の推しが目の前に!


 うっとりしながら、ジゼのいい匂いを心ゆくまでふんふんしたリトは、そうっとちいさなかんばせを見あげる。


 最愛の推しのために、できること。
 最愛の推しのしあわせを、応援すること。

 前世の記憶が蘇ったなら、推しが愛するBLゲームの主人公と、推しをくっつけるルートを開いてあげられる!


 自分が推しとくっつきたい、なんて大それたことは勿論考えない。

 当たり前だよ、最愛の推しだよ!?
 遠くから尊く拝し奉るのです。


 それが推し!
 それこそが推し!

 節度あるファンを目指しています。



 ……でも、めちゃくちゃくっついてるけど。
 至福だけど。
 ふんふんしちゃうけど。


 ごめんよ!
 獣人だから!
 ジゼ、めちゃくちゃいい匂いするよぉおお──!





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