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ゆうわく
しおりを挟むまばゆい光の先に現れたのは、似て非なる魔紋の部屋だった。
ダタ街の転移門を擁する御殿はリトが見たことがないほど立派なものだったが、この部屋は桁が違う。
壁は勿論、柱にまでこまやかな彫刻が施され、それらすべてが魔紋となっているのだろう、命を宿しているかのように輝いた。
磨き抜かれた白石のうえに刻まれた魔紋が、ジゼを歓迎するようにやわらかに明滅する。
まるでロダとおそろいのとんがり帽子を陽の髪にのっけた少年が、唇の端をあげた。
「おかえり、ジゼ」
「──なぜ真夜中の転移門に次期帝王がいる?」
ジゼの低い声に、リトは仰け反れない身体で震えた。
前世の知識がなくても、知っている。
ルァル・シ・ドディアは、世界に君臨するドディア帝国の次期帝王だ。
「密偵から報告があってな、ジゼがこんな時間に緊急転移だなんて、面白いことに違いないと思って駆けつけてやったんだ」
ふんと胸を反らしたルァルがジゼの腕のなかを覗きこむ。
「俺が来なきゃ、首が飛んでるぞ」
細くなるルァルの陽の光の瞳に、ジゼの細い眉が寄る。
「……感謝したくなくなる、にやつき具合だな」
「イイことを思いついた」
形のよいルァルの唇が、弓をえがいた。
「俺付きの治癒士を貸してやる。
帝都一の腕だ。助かるやもしれぬ」
ジゼを映す陽の瞳が閃いた。
「助かったなら、お前、俺のものになれ」
伸ばされた指が、ジゼの顎をゆうるり撫でた。
「我が治癒士も帝都に誇る腕だ、もう到着した。
よって辞退する」
凍てつくジゼの瞳に、喉を鳴らしてルァルが笑う。
「残念だ」
楽し気なルァルにジゼが嘆息した。
熱と痙攣で朦朧としながらリトは、ルァル×ジゼが垣間見れたことにときめいた。
死にそうなのに、ときめいてる場合じゃない。
わかっているけど、目の前に最愛の推しと、次にすきだっためちゃくちゃかっこいー次期帝王が──!
大すきなゲームの世界の最愛たちに、ありえぬほど酷い迷惑しか掛けていないことを思うと涙がこぼれる。
気づいたジゼの指が、そっとリトの涙を拭ってくれた。
ぱたぱた駆けてくる音に続き、バァン! 扉が開く。
「ジゼさま、只今参りました!
まさかまさかまさかジゼさまともあろう御方がお怪我を──!?」
乱れた栗色の髪で駆け込んだ少年が、泣きだしそうな瞳で絶叫する。
「テデ」
全速力で駆けてきたのだろうテデは、名を呼んだジゼの視線の先を追って静止する。
目の前に立つとんがり帽子を被った次期帝王に、緑の瞳を見開いた。
「……こ、これは、次期帝王におかせられましては、ごきげん麗しゅう……」
「お前の主に振られたところだ。
全く全然麗しくない」
ふんと鼻を鳴らすルァルに、ぜえぜえしながら引き攣るテデをジゼが背に庇う。
「お叱りなら、俺に」
リトを抱えたまま膝を折るジゼに、ルァルはつまらなそうに陽の瞳を細めた。
「その氷のかんばせが崩れるところを見たかったんだがな」
伸ばされたルァルの指が、ジゼの頬を撫でる。
「甘かったようだ」
囁いたルァルの指はジゼの顎をなぞり、静かに離れた。
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