もふもふ獣人転生

  *  

文字の大きさ
上 下
5 / 168

ゆうわく

しおりを挟む



 まばゆい光の先に現れたのは、似て非なる魔紋の部屋だった。
 ダタ街の転移門を擁する御殿はリトが見たことがないほど立派なものだったが、この部屋は桁が違う。
 壁は勿論、柱にまでこまやかな彫刻が施され、それらすべてが魔紋となっているのだろう、命を宿しているかのように輝いた。

 磨き抜かれた白石のうえに刻まれた魔紋が、ジゼを歓迎するようにやわらかに明滅する。

 まるでロダとおそろいのとんがり帽子を陽の髪にのっけた少年が、唇の端をあげた。

「おかえり、ジゼ」

「──なぜ真夜中の転移門に次期帝王がいる?」

 ジゼの低い声に、リトは仰け反れない身体で震えた。

 前世の知識がなくても、知っている。
 ルァル・シ・ドディアは、世界に君臨するドディア帝国の次期帝王だ。

「密偵から報告があってな、ジゼがこんな時間に緊急転移だなんて、面白いことに違いないと思って駆けつけてやったんだ」

 ふんと胸を反らしたルァルがジゼの腕のなかを覗きこむ。

「俺が来なきゃ、首が飛んでるぞ」

 細くなるルァルの陽の光の瞳に、ジゼの細い眉が寄る。

「……感謝したくなくなる、にやつき具合だな」

「イイことを思いついた」

 形のよいルァルの唇が、弓をえがいた。

「俺付きの治癒士を貸してやる。
 帝都一の腕だ。助かるやもしれぬ」

 ジゼを映す陽の瞳が閃いた。


「助かったなら、お前、俺のものになれ」


 伸ばされた指が、ジゼの顎をゆうるり撫でた。




「我が治癒士も帝都に誇る腕だ、もう到着した。
 よって辞退する」

 凍てつくジゼの瞳に、喉を鳴らしてルァルが笑う。

「残念だ」

 楽し気なルァルにジゼが嘆息した。

 熱と痙攣で朦朧としながらリトは、ルァル×ジゼが垣間見れたことにときめいた。

 死にそうなのに、ときめいてる場合じゃない。
 わかっているけど、目の前に最愛の推しと、次にすきだっためちゃくちゃかっこいー次期帝王が──!

 大すきなゲームの世界の最愛たちに、ありえぬほど酷い迷惑しか掛けていないことを思うと涙がこぼれる。
 気づいたジゼの指が、そっとリトの涙を拭ってくれた。


 ぱたぱた駆けてくる音に続き、バァン! 扉が開く。
 
「ジゼさま、只今参りました!
 まさかまさかまさかジゼさまともあろう御方がお怪我を──!?」

 乱れた栗色の髪で駆け込んだ少年が、泣きだしそうな瞳で絶叫する。

「テデ」

 全速力で駆けてきたのだろうテデは、名を呼んだジゼの視線の先を追って静止する。
 目の前に立つとんがり帽子を被った次期帝王に、緑の瞳を見開いた。

「……こ、これは、次期帝王におかせられましては、ごきげん麗しゅう……」

「お前の主に振られたところだ。
 全く全然麗しくない」

 ふんと鼻を鳴らすルァルに、ぜえぜえしながら引き攣るテデをジゼが背に庇う。

「お叱りなら、俺に」

 リトを抱えたまま膝を折るジゼに、ルァルはつまらなそうに陽の瞳を細めた。


「その氷のかんばせが崩れるところを見たかったんだがな」

 伸ばされたルァルの指が、ジゼの頬を撫でる。


「甘かったようだ」

 囁いたルァルの指はジゼの顎をなぞり、静かに離れた。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします。……やっぱり狙われちゃう感じ?

み馬
BL
※ 完結しました。お読みくださった方々、誠にありがとうございました! 志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、とある加護を受けた8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 独自設定、造語、下ネタあり。出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

異世界に召喚されて失明したけど幸せです。

るて
BL
僕はシノ。 なんでか異世界に召喚されたみたいです! でも、声は聴こえるのに目の前が真っ暗なんだろう あ、失明したらしいっす うん。まー、別にいーや。 なんかチヤホヤしてもらえて嬉しい! あと、めっちゃ耳が良くなってたよ( ˘꒳˘) 目が見えなくても僕は戦えます(`✧ω✧´)

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

かし子
BL
養子として迎えられた家に弟が生まれた事により孤独になった僕。18歳を迎える誕生日の夜、絶望のまま外へ飛び出し、トラックに轢かれて死んだ...はずが、目が覚めると赤ん坊になっていた? 転生先には優しい母と優しい父。そして... おや?何やらこちらを見つめる赤目の少年が、 え!?兄様!?あれ僕の兄様ですか!? 優しい!綺麗!仲良くなりたいです!!!! ▼▼▼▼ 『アステル、おはよう。今日も可愛いな。』 ん? 仲良くなるはずが、それ以上な気が...。 ...まあ兄様が嬉しそうだからいいか! またBLとは名ばかりのほのぼの兄弟イチャラブ物語です。

転移したら獣人たちに溺愛されました。

なの
BL
本編第一章完結、第二章へと物語は突入いたします。これからも応援よろしくお願いいたします。 気がついたら僕は知らない場所にいた。 両親を亡くし、引き取られた家では虐められていた1人の少年ノアが転移させられたのは、もふもふの耳としっぽがある人型獣人の世界。 この世界は毎日が楽しかった。うさぎ族のお友達もできた。狼獣人の王子様は僕よりも大きくて抱きしめてくれる大きな手はとっても温かくて幸せだ。 可哀想な境遇だったノアがカイルの運命の子として転移され、その仲間たちと溺愛するカイルの甘々ぶりの物語。 知り合った当初は7歳のノアと24歳のカイルの17歳差カップルです。 年齢的なこともあるので、当分R18はない予定です。 初めて書いた異世界の世界です。ノロノロ更新ですが楽しんで読んでいただけるように頑張ります。みなさま応援よろしくお願いいたします。 表紙は@Urenattoさんが描いてくれました。

ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話

かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。 「やっと見つけた。」 サクッと読める王道物語です。 (今のところBL未満) よければぜひ! 【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

処理中です...