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両親を泣かせちゃいました
しおりを挟む目を剥いたネニが絶叫する。
「そんな、ノィユ──! ヴァデルザには金も権力も何にもない、領地だって最低だ。だまされてるんだ、こいつらは顔だけだ──!」
どうして人の言うことを聞こうとしてくれないんだろう。
会話にならないんだろう。
人を蔑んで嘲って、自分が上だと嗤って、そんな人が景品みたいに手に入れたノィユを大事にする訳がない。
手に入れた瞬間に興味を失って、踏みつけて終わりだ。
ぐーぱんちで殴りたい!
最底辺のバチルタ家がそんなことしたら、家が潰れる!
……いや、潰れたほうが借金もなくなっていいんじゃ……いや、借金だけは残るアレか──!
内心わたわたしたノィユは、キリッと顔を引き締める。
「顔だけなのは、バチルタ家です!」
「ぐぅ──!」
木陰で両親が泣いてる! ごめんよ!
ノィユは、ぐしゃぐしゃに歪んだネニの顔を見つめる。
「やさしい方だと思っていた僕が、愚かでした」
ノィユの声が、低くなる。
「もう二度とお会いしません。さようなら」
あぁあぁあぁ──!
やさしくていい人だと思ってた自分をタコ殴りにしたい!
ヴィルのもとへと歩みながらノィユはうなだれた。
人を見る目がなさすぎる。
って思ったけど、でもほんとにネニにはやさしいところだってあった。
本を選んでくれて、持ってきてくれた。
バチルタだからって出ていけと言わなかった。
いつもうれしそうに笑ってくれた。
同じ人が、すごくやさしくもなるし、すごく卑劣にもなる。
皆色んな顔があって、噴火したら酷いことを言ったりしたりしちゃうけど、あんまりすきじゃないところもひっくるめて、それでもあいしてるのか、無理なのかってことなのかもしれない。
「ヴィルのすべてが大すきだけど! 僕のせいでヴィルにもエヴィさまにも不愉快な思いをさせて、ほんとうにごめんなさい」
頭をさげたら、ヴィルが頭を撫でてくれる。
エヴィは激おこだ。
「不愉快極まりないよ! 図書館に1日来ただけで、なんで変なの引っかけてんだ!」
「も、申し訳ありませんエヴィさま! それはあの、バチルタ家の血筋といいますか……」
ノィユの母が切ない顔になってる。
「なんか変なのが来るんです……すごくやさしくしてくれて何でも相談にのってくれるから親友だと思ってたら、借金を押しつけて夜逃げするし」
父が泣いてる。
「なんでそんなのにだまされたんだろうって僕も不思議だったんですが、今やっとおかあさまとおとうさまの苦悩が解りました。すんごくいいところしか見せてくれなかったんですね!」
「うわあん、ノィユ──!」
抱きあって泣きじゃくるバチルタ家に、エヴィが遠い目になってる。
「……今回は早くに本性が解ってよかったよ」
「エヴィさまのおかげです! ほんとうにありがとうございます!」
バチルタ家一同で、きれいにそろったお辞儀を繰りだした。
ちょっと面白そうにエヴィの唇の端が上がってる。
「陛下に告げ口、本気でしたいけど、注意くらいだよね。面白くない」
ふくれるエヴィに、ヴィルはちょっと首を傾げた。
「エヴィと喧嘩、トート噴火、陛下噴火、ネァルガ敵、陛下敵、ネメド王国で、将来、ないと、思う」
……絶対に敵に回してはいけない人に喧嘩を売ったようです。
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