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さくっと
しおりを挟む「くぅ──!」
心配で見に来てくれたらしい両親が、木陰で泣いてる。
領地復興がんばるからね!
拳を握るノィユの隣に堂々と出てきたエヴィが、鼻を鳴らした。
「お兄さまは止めておけっていうけど、僕は甘くないから。きみの言動はすべて魔道具で記録した。陛下に奏上し、ポーテ家に対し処断を求める」
「──!」
蒼白になるネニに、エヴィは唇の端をあげる。
「これはねえ、とってもやさしい処遇なんだよ。この僕が、お兄さまを侮辱する輩の首を刎ねないなんて」
何が起こったのか、見えなかった。
ネニの首元に、エヴィが抜いた刃が突きつけられている。
「ひ──!」
「エヴィ!」
木陰から出てきたヴィルに止められたエヴィは、ふいと目を逸らす。
「ほんとうは即刻首を刎ねたいのを我慢して、陛下に告げ口でおさめようとしてるんです。お兄さまも譲歩してくださらないと困ります」
拗ねたみたいに上目遣いで見あげるエヴィがめちゃくちゃ可愛いけど、ネニの首元に剣を突きつけたままなんですけど──!
ちょっとさわったら切れるから──!
あわあわするノィユの頭のなかを読んだようにエヴィは陽の眉をあげる。
「嘗めないでくれる? ヴァデルザだよ」
ふんと鼻を鳴らしたエヴィは、真っ青なネニを見下ろした。
「恵まれた家に生まれ、不自由なく育てられ、本ばっか読んで夢物語と現実をはき違えた、ちょっとさかしい3歳児に、ヴァデルザの苦闘が解ってたまるか」
華やかなエヴィのかんばせが、凍りつく。
「おじいちゃんだからすきになったらおかしいなんて、ありえないだろ。誰かを蔑むような輩をすきになるのは、嘲りが大すきな輩だけだ」
エヴィの目が、切れあがる。
「ノィユは違う。……まあ、ちょこっとだけなら、認めて、やらなくも……ない」
ふいと目を逸らしたエヴィのまなじりが、朱い。
「うわあん! エヴィさま、ありがとうございますー!」
感激で抱きつこうとしたら
「来るな──!」
全力で止められました。
ありがとうございました。
「二度と、ツラ見せるな。殺すぞ」
ドスの効いたエヴィの声に
「だ、から、ヴァデルザは野卑だって言われるんだ──! 古参ってだけでデカい顔しやがって、ただの辺境貧乏領主じゃないか!」
おお、なんか色々剥がれて本性が現れた!
叫び返すネニの根性がすごい。本音はそういう話し方なんだね。
「は、やっと出た。分厚い猫をかぶりやがって」
唇の端をあげるエヴィはこれを見抜いていたらしい。
本性を誘い出すための演技+本気のおこみたいだけど、簡単にだまされていたノィユはしょんぼり肩を落とした。
「なんだよ! こんなの貴族の嗜みだろ。本音で誰が喋るんだ! こんな可愛いノィユが純真無垢そうにうろちょろしてたら純朴な振りして囲うに決まってるだろ!」
……純真無垢……に見えてたらしいよ……囲われる予定だったらしいよ……
「そっちだって精霊みたいな顔をして中身最低じゃないか! 血の繋がった実の兄をすきすぎて気持ち悪いって皆言ってる、この変態!」
「あーもー、本気で首飛ばしたくなってきた!」
エヴィがキレそうだよ!
「あの、すみません、ネニさま、エヴィさまは僕の大切な家族です。ヴァデルザ家は僕の大切な伴侶の家です。エヴィさまはちょっとやりすぎかもしれませんが、僕が止めてくださいとお願いしてもヴァデルザ家を嘲るあなたと、僕も二度とお会いしたくありません。ごめんなさい」
さくっとお別れを告げました!
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