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えへへ

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「お、おはようございます、トートさま。トート・ネァルガさま、エヴィ・ヴァデルザさま、ヴィル・ヴァデルザさまにご挨拶申しあげます。ネニ・ポーテにございます。本日も母が弟の看病にて不在のため、僕が図書館をご案内いたします。どうぞよろしくお願い申しあげます」

 礼をして口上を述べるネニに、エヴィもヴィルも瞬いた。

「……え、最近の3歳児って皆、こんななの……?」

 あんぐりするエヴィに、トートが笑う。

「ネニはとても優秀だと名高いよ。お母上より図書館を熟知してるって。……ノィユは、まあ……」

 え?
 まあ……って何? こわい!

 ぷるぷるするノィユに、トートが笑う。

「3歳でお義兄さまの伴侶になるくらいだしね。僕の義兄でもあるしね。規格外でしょ」

「………………待って。僕が、ノィユの義弟なの──!?」

 エヴィの顔が絶望になってる。

 ごめんよ! ヴィルがお兄ちゃんだから、エヴィは義弟なんだよ。トートが義弟なのも『きゃ──!』だよ!

 申し訳なく微笑んだノィユは、ちょっと照れた頬でエヴィを見あげる。


「い、いえあの、もしよかったら、お義兄さまと……」

 呼ぼうとしたノィユは

「呼ばれたくないぃいイイイ──!」

 全力で拒否されました。
 ありがとうございました。



 ぽてぽて長い衣をひきずったネニが、図書館の奥へと案内してくれる。
 上位貴族以上は、貴賓閲覧室でゆっくり本を読めるそうだ。
 ひいきだ。

 ノィユの唇が、ちょこっと尖る。

 通してくれた部屋には猫足の飴色のテーブルと椅子がしつらえられ、ゆったりくつろげるようにソファと茶器とお湯を沸かす魔道具までついていた。
 お茶菓子まで用意されてる!
 ひいきだ!

「どうぞこちらのお部屋をお使いください。ノィユに頼まれた農耕の詳しい本をお持ちしました。いちおう明日からの商品開発と流通、販売の本と、領地経営の本もご用意しています」

 木のカートに載せてネニが持ってきてくれた本に、ノィユは丁寧に頭をさげた。

「ネニさま、ありがとうございます!」

 カートに並べられた本に、エヴィもヴィルも目をまるくしてる。

「何をやる気なの?」

 不審げなエヴィに、ノィユは胸を張った。

「領地改革です!」

 拳を握ったノィユがバチルタ家領再生計画を話すと、エヴィもヴィルもぽかんとしてる。

「……最近の3歳って、こんななの……?」

「ノィユは、とくべつ、だから」

 ヴィルがはにかむように笑ってくれる。

「ヴィル、だいすき──!」

 きゅう

 抱きつくのは、おひざです。


 エヴィがぷるぷるしてる。
 ちょっと楽しいらしい。よかった。



 参考資料にと更に本を持ってきてくれたネニが、ノィユの『だいすき』とおひざ抱っこに固まった。

「……あの……ノィユは、ヴァデルザ家の皆さんと、とても、お親しい、んだね」

 ちいさな声に、ノィユは照れ照れの頬で笑う。


「ヴィルは僕の伴侶なんだよ」

「…………………………え……………………?」

 茫然とするネニに、ノィユはうれしはずかし胸を張る。


「伴侶! えへへへへ」

 ノィユの額に、ヴィルの魔紋が浮かびあがる。

 見つめたネニの顔から、色が消えた。




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