【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  

文字の大きさ
上 下
75 / 119

ヴィルの、しあわせな悩み

しおりを挟む



 ヴィルには、切実な悩みができた。

 ノィユが、やきもちをやいてくれない。

 悋気なんて、みっともなくて情けないものだと思っていたけれど、トートと仲良く話したり笑ったりしているノィユを見るだけで、燃える爪で喉を引っかかれるような、心の臓に焼ける杭が打ちこまれるような痛みが走る。

 たしかに痛くて、苦しいのに、それはどこかあまい陶酔をにじませた。


 ノィユを想う気持ちが、この切なさを連れてくる。

 そう思うと、胸を裂く熱を遥かに超える、とろけるようにあまやかな、ノィユを慕う気持ちに包まれる。

 痛くて、苦しくて、切なくて、あまい。

 それはノィユを想う気持ち、そのものだから。

 やきもちをやくたび、ノィユを想っているのだと自覚する。


 ずっとノィユの傍にいて、ノィユに隣で笑ってほしくて、ノィユと手を繋ぐのは、ノィユを抱きしめるのは、自分じゃなきゃ、いやだ。

 独占したいと願う気持ちさえ、蜜のようにあまい。


 きっと、これが、あいしてる。



 だと思うのに。

 ノィユが、やきもちをやいてくれない。

 それは、ヴィルが想うほど、ノィユはヴィルを想っていないということで。

 ノィユは、ヴィルを愛していないのかもしれないということで。

 伴侶としては、泣いちゃう事態だと思うのだ。


 エヴィは確かに最愛の弟で、家族だ。
 エヴィが兄を想ってくれるのと同じように、弟のエヴィを大切に思ってる。
 腕枕するのだって、やぶさかではない。

 でも、こんなにくっついているのに、ノィユがやきもちをやいてくれないなんて。

 ノィユ以外の人に腕枕するなんて『伴侶失格だ!』止めてくれないなんて。

 泣いてくれないなんて。
 すねてもくれないなんて。

「最愛の弟さんを、めいっぱい甘やかしてあげてね」

 笑ってくれるなんて。

 それは、とても心ひろい、心やさしいことだと思うのに、ちっとも喜べないなんて。


「……やきもち、やかないノィユは…………俺が……すきじゃ……ない……?」

 口にしたら、泣きそうになった。


 情けない。
 みっともない。
 もういい歳なんだぞ、しっかりしろ。

 自分に言い聞かせるのに。

 3歳のノィユが、大すきな伴侶のノィユが、自分を想ってくれないことが、ぐしゃぐしゃになってしまうほど、苦しい。


「ヴィル──!?」

 ノィユが、ちっちゃな腕で抱きしめてくれる。

「あ、あのね、ヴィル、ふつうはたぶん、家族にはやきもち、やかないんだよ」

「………………え?」

 きょとんとするヴィルに、ノィユは教えてくれる。

「だって、僕とおかあさんが抱っこしてて、ヴィル、やきもち、やく?」

 ふるふるヴィルは首を振った。

「それと一緒。エヴィさまがヴィルを大すきで、くっついても、家族だから。エヴィさまにはトートさまっていう伴侶もいらっしゃるし。だからやきもち、やかないんだよ」

「……そ、う、なの、か……?」

 ぽかんと呟いたヴィルの頬が燃える。


 は、恥ずかしい。
 家族にやきもちをやいてくれないと、拗ねていただなんて。
 ノィユの愛を疑ってしまったなんて。


 いつだって、きらきらの紫の瞳で見あげてくれるのに
 いつだって、手を繋いで
 とろけるように、笑ってくれるのに

「ヴィル、だいすき」

 伝えてくれるのに


「……ご、ごめ……」

 謝ろうとしたヴィルの唇に、ノィユのちいさな指がふれる。

「ヴィルが切なくなって、心配したり、泣いちゃいそうになってくれたら、めちゃくちゃうれしい。だって、僕が、すきってことでしょう?」

 あまい声に、火照る頬で、こくりと頷く。

「夢みたい」

 とろける頬で、笑ってくれる。


「……ノィユも、俺、のこと……」

 すき?

 聞く前に、真っ赤な頬で、抱きしめてくれる。

「だいすき」

 ちゅ

 くちびるが、かさなって、鼓動が燃える。



『だいすき』

 伝えたいのに、はちきれる胸が詰まって、何も言葉にならなくて。

 だからぎゅうぎゅう、ノィユを抱きしめる。


「かなしくなったら、切なくなったら、苦しくなったら、いつでも僕に、教えてね。僕がヴィルを、しあわせにするんだから」

 胸を叩いてくれるノィユは、3歳なのに、とてもやさしくて、かっこよくて。

 うっとりする。


「……ノィユが、伴侶だなんて、夢みたい」

「僕も!」

 朱い頬で、笑ってくれる。



 ノィユより、自分のほうが、あいしてるから
 やきもちをやいて
 胸がいっぱいになって『だいすき』言えないのだとしても

 不安になって、さみしくなって、苦しくなっても


 ノィユは、俺の、伴侶だ。


 それは、なんて、あまくて、なんて、つやめいて、なんて、きらきらした

 胸をいっぱいにする

 最愛の、約束





しおりを挟む
感想 260

あなたにおすすめの小説

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

処理中です...