上 下
59 / 102

お勉強だよ

しおりを挟む



「こちらこそ、どうぞよろしくお願い致します!」

 バチルタ家一同で頭をさげる。
 ノィユの角度もそろってきたよ。

「本日はどのような御用で」

「借金を返す知恵を得るために、図書館で領地のことをお勉強したいのです!」

 手を挙げるノィユに、両親もこくこくしてる。

「なるほど。では、誓約書に魔紋をお願いします。図書館の本を盗まず、傷つけず、汚さない、もし損壊、窃盗した場合は、弁償すると」

「ひぃい!」

 見慣れているのだろう、借用書みたいな誓約書に母がビビってる。

「だ、大丈夫だ、慎重に扱おう!」

 父が励ましてる。

「横でご飯を食べたり、お茶を飲んだり、本を無理に引っ張ったり、盗んだりしなければきっと大丈夫です!」

 胸を叩いてみた。

「丁寧に扱ってくださるなら、だいじょうぶですよ。ここに当主さまの魔紋を」

 にこにこしてくれるネニがやさしい。

「は、はい……!」

 誓約書に魔紋を請求されることに慣れているのだろう、母が涙目だ。

「はい、確かに誓約書に魔紋をいただきました。これで館内の書をすべて見ていただくことができます。バチルタ家の領地のことでしたら、何冊か心当たりがあります。ご案内しましょう」

 微笑んだネニが、館内へと導いてくれる。
 衛士さんたちが槍を掲げて見送ってくれた。

 高い天井の図書館は、ちいさな文字も見えるようにだろう、明かり採りの窓がたくさん開いて、陽の光が降りそそぐように設計されている。

 でもネメド王国の本は殆ど手書きなので、文字はほどよいサイズだ、と思う。
 磨き抜かれた白い床は、歩くとコツコツ音をたてた。

 不審な侵入者を防ぐ意図もあるのかもしれない。
 天井にまでそびえる棚には、分厚い本が隙間なく詰まっていた。

「世界中の本を集めた、ネメド王国が誇る王立図書館です。バチルタ家の領地に関する本は、こちらですね。頑張ってください」

 ネニが応援してくれた。やさしい!

「おかあさまとおとうさまは領地について熟知しておられると思いますが、僕には圧倒的に知識がありません。僕が読む間に、おかあさまとおとうさまは本を斜め読みして、知らないことがあったら書き出してください。あと、僕が解らない文字を教えてください」

「わ、わかった!」

 母がひきつってる。どうしてかな? 理由を考えるとこわいんですけど……!

「……ぼ、僕は、難しい本は、ちょっと……」

 父はたぶんノィユと同レベルだ! 理解した!

「じゃあ僕と一緒に勉強しましょう、おとうさま!」

「わ、わかった……!」

 涙目な父が、かわいい。


 分厚い本は難しい字の羅列だったので大変だ!
 涙目の父と一緒に涙目な母に教えを請い、文字を勉強しつつ本を読みこんでゆく。

「なにこの文字!」
「潰れてるよね」
「なんで東北部の資料だけがないの?」

 ノィユと両親が困っていたり、うなっていたりすると

「難しい字の本は、こちらがよくわかります」
「バチルタ家領東北部の詳細は、こちらの本が詳しいです」

 重そうな衣をずるずる引きずって、とてとてやってきたネニが、かゆいところに手が届く本を置いてくれた。

 やさしい!

 めちゃくちゃ仕事のできる3歳児!

 これがほんものだ!






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

第十王子は天然侍従には敵わない。

きっせつ
BL
「婚約破棄させて頂きます。」 学園の卒業パーティーで始まった九人の令嬢による兄王子達の断罪を頭が痛くなる思いで第十王子ツェーンは見ていた。突如、その断罪により九人の王子が失脚し、ツェーンは王太子へと位が引き上げになったが……。どうしても王になりたくない王子とそんな王子を慕うド天然ワンコな侍従の偽装婚約から始まる勘違いとすれ違い(考え方の)のボーイズラブコメディ…の予定。※R 15。本番なし。

処理中です...