58 / 88
おはようの(Request)
しおりを挟む春の風に、緑の草がさやさや揺れる。
気持ちのいい晴れだから。
ヴィルと一緒にピクニックに出かけたノィユは、はしゃぎ過ぎて草の原で眠ってしまったらしい。
「…………ん…………」
ぼんやり目を明ける。
もしゃもしゃの雪の髪が、春風にふわふわ揺れていた。
「……えへへ……」
にひゃりと崩れた顔で、ノィユが笑う。
お昼寝から目覚めて最初に見るのが、最愛の伴侶だなんて、極上のしあわせだ。
くぅくぅやすらかな寝息がこぼれるヴィルの唇に、ちゅうしたくなったノィユは、もごもご我慢した。
いくら伴侶になったからといって、寝込みを襲うのは、どうだろうか。
『そんな子だと思わなかった──!』
離縁されたら、泣いちゃう!
というわけで、我慢です。
お口が、もごもごする。
だいすきな人に
最愛の伴侶に
ちゅうしたい
それは、とても、とてもあまい、まっすぐな欲望で
くらくらするほど魅力的な誘惑で
我慢するいい子の3歳なノィユは、髪の先までぷるぷるです。
「ふぇ」
起きてくれたら、ちゅうしていいかな。
目覚めのちゅうは、伴侶のお約束だよね。
とくとく鳴る胸で、ヴィルの寝顔を見つめる。
チチチチ鳥が鳴いて、春の風が渡ってゆく。
草がさやさや揺れて、白い綿毛が飛んでゆく。
よく晴れた空はどこまでも青くて、向こうにはネァルガ邸が見えた。
寝ているヴィルにちゅうなんてしたら、エヴィが爆走してきそうだ。
思ったノィユは、ちいさく笑う。
もしゃもしゃの雪の髪を、そうっと撫でた。
ヴィルの眠りを邪魔しないように。
でも、ほんとは、起きてほしくて
透きとおる瞳に、自分だけを映してほしくて
いつもはきゅっと結ばれている唇が、ほどけて微笑んでくれるところが見たくて
低くやさしくあまい声で
『ノィユ』
呼んでほしくて
「ヴィル」
ささやいたら、雪のまつげが揺らめいた。
「……ん……」
ぼんやり開くまぶたの向こうで、藍の瞳がきらめいた。
「……ノィ、ユ……?」
ふわりと伸びた腕が
ぎゅう
抱きしめてくれる。
「……ノィユ」
抱きまくらみたいに抱っこされて、名を呼んでくれたら、顔がとろける。
頭のうえで、ヴィルがほんのり笑ってる。
あまい笑みが降ってくる。
「ヴィル、起きた?」
「……まだ」
もごもごつぶやいて
ぎゅう
抱きしめてくれる。
ヴィルの頬の熱が伝わるみたいに、ノィユの頬も熱くなる。
「起きたら、おはようのちゅう、するのに」
ぽそぽそつぶやいたら
「……起きた」
真っ赤な耳のヴィルの、抱っこがほどけた。
「……ちゅう……しても、いい……?」
ヴィルの紅い頬を、ちっちゃな手でつつむ。
「……聞いたら、だめ」
朱いまなじりで、抱き寄せてくれるから
ちゅう
とろけるようにあまい、おはようのちゅうをしました。
しゅーしゅー湯気を噴いて燃える頬で悶えるノィユを、ヴィルが抱きしめてくれる。
「……もっかい、寝たら、また、ちゅう、して、くれる……?」
きらきらの瞳で聞いてくれるから
「ちゅう」
ちゅ
あまい音と一緒に口づけて、燃える頬で笑った。
今日も、最愛の伴侶が、とびきり可愛いです。
────────────
読んでくださって、ありがとうございます!
∵🌊しお🌊∵様のリクエストで『主人公2人の寝起き』でした!
ふたりとも寝てたらお話にならないので(笑)ノィユに先に起きてもらいました(笑)
楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
692
お気に入りに追加
2,850
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました。
おまけのお話を更新したりします。
無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました
かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。
↓↓↓
無愛想な彼。
でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。
それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。
「私から離れるなんて許さないよ」
見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。
需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる