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夢の先(Request)

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 夢のなかで、夢だとわかる夢だった。

 だって、いつものヴァデルザ邸の寝台に横たわるノィユの手足が大きい。
 朝の光に照らされた指は筋張っていた。
 大人の手だ。
 みずみずしいというよりは、ちょっと枯れかけていて、なんだか前世の手に似ている。

「なつかしい」

 こぼれた声が、低い。
 いつもの幼く高い声ではない、声変わりはとうに済んだ大人の声だった。
 前世の声に、似ている気がした。
 今はもう遠い地球で生きた日々が、ぼんやりとノィユの前を通り過ぎてゆく。

「ノィユ……!?」

 驚いた声に、瞬いた。

 ヴィルがいる。

 伸ばされた手を掴んで、笑った。
 一緒に老いるのかと思ったら、ヴィルは36歳のままだ。

「僕、同い年くらいになった?」

 茫然とノィユを見つめたヴィルが、こくりと頷く。
 もしゃもしゃの雪の髪の向こうの藍の瞳を細めるヴィルの耳が、赤い。

「……きれいだ、ノィユ」

 きょとんとしたノィユは、照れくさく熱い頬で笑う。

「ヴィルがそう言ってくれたら、うれしい。おじさんになっちゃったけど」

 手からおじちゃんと判断したけれど、鏡に映る姿はぼんやりと揺れていた。

 ああ、夢だ。

 だから、ヴィルと同い年くらいになって。

 だから、ヴィルに、ふれられる。


「ヴィル」

 どれだけヴィルを想っているのか滲むような、恥ずかしくなるほど、とろけるようにあまい声だった。

 手を引いて、抱き寄せる。

 3歳の自分には絶対にできないことが、こんなにも簡単で。
 倒れ込んでくるヴィルの逞しい背を、抱きしめる。

「……はやく、大人になりたいよ」

 ヴィルのうなじに顔をうずめて囁いたら、真っ赤な耳で、ヴィルがもごもごしてる。
 もしゃもしゃの髪と、もしゃもしゃの髭がくすぐったい。
 ヴィルの髪をやさしく梳く指が長くて、大きくて、自分の指なのに、うれしくて。筋肉に覆われているのにほっそりしているヴィルの腰を抱き寄せる腕に、力が籠もる。

「ヴィル」

 とさりと白い寝台に押し倒したら、ヴィルの藍の瞳がまるくなる。

 夢だから。

「ずっと、ずっと、したかった」

 とろける声でささやいて、そっと、唇を重ねた。

 耳まで真っ赤になったヴィルが起きあがろうとするのを、身体を重ねるように止める。

「……ノィユ……?」

「夢だから、しようよ、ヴィル」

 最愛の伴侶を、押し倒して、笑う。

 3歳のノィユにできないことが、夢のなかだと、こんなに簡単だ。

「ヴィルがとろけるまで、可愛がってあげる」

「──っ」

 耳まで紅いヴィルを抱きしめて、ほしくてたまらない唇を重ねた瞬間、目が覚めた。



「………………え…………?」

 ちっちゃい手だった。
 幼く、高い声だった。

「ふに──! 最高にいいところだったのにぃいイイ──!」

 夢のなかと同じヴァデルザ邸の寝台にちっちゃな拳を打ちつけたら、隣のヴィルがびっくりしたように起きあがる。

「あ、あ、ごめんなさい! ちょ、ちょっと、すんごいいい夢を見てたんだけど、途中で終わっちゃって──」

 あのヴィルの腰を、しゃくって抱っこできたのに!
 ヴィルを押し倒して、ぽふってできたのに!

 ちっちゃい指と、ちっちゃい身体では、何にもできない。

 ヴィルの胸にくっつくのが精々だ。

「ふぇえ」

 すんすん鼻を鳴らして抱きついたら、ヴィルがぽふぽふしてくれる。

 耳も、ほっぺも真っ赤だけど、どうしたのかな?


「……あ、あの……ノィユ……あの、おっきく、なったら……」


「ヴィルがとろけるまで可愛がってあげるからね──!」


 ぎゅうぎゅう抱きついたら、真っ赤なヴィルが、しゅうしゅう噴火してた。


「はやくおっきくなりたいよ」

 切なくささやいたら


「……ち、ちっちゃい、ままでも……」

 真っ赤なヴィルの腰が引けてる。

 おかしい。








────────────

 読んでくださって、ありがとうございます!

 Lotus様のリクエストで、年齢差が近くなった同じ夢を見たノィユとヴィルが翌日、同じ夢を見てると思ってなくてドキドキしてるお話でした!

 楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

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