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はじめての(Request)

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「──っ!」

 駆けていた。

 近くに、強大な魔力がある。
 魔物だ。

 5歳のヴィルでは、到底敵わない。

 解っているのに足は駆けた。

 鳴き声の聞こえたほうへ、今にも消えてしまいそうな魔力のほうへ。

「……みー……」

「──っ!」

 ヴィルの足が、止まる。
 生まれたばかりなのだろう、ちいさな仔馬のように見える2頭の魔物が、切り裂かれ、倒れていた。
 母親は逃げたのか、仔馬を守ろうと奮闘したものの魔物の腹の中なのか、姿がない。
 ちいさなヴィルの十倍はあろう巨大な狼のような真っ暗な魔物が、仔馬の血に濡れた口で、嗤った。

『餌ガ来タ』

 魔物の声が、聞こえた気がした。

 ガクガク揺れる手足が、自分のものではないかのように、動かない。

 勇敢に戦う戦士になりたいと願っていた。
 おかあさんのような、ひとりで強大な魔物に立ち向かい、ヴァデルザ家領を護る立派な戦士になりたいと。

 そんな勇気は、どこから来るのだろう。
 圧倒的な力を前にして、どうやって立ち向かうの……?

 話すこともできない。
 おかあさんのような剣術の天賦の才もない。

「顔だけだよな」
「つまんねー」
「だっせー!」

 嗤われる自分には、何も、できな──

「……みー……」

 ちいさな、声がした。

 ヴィルが魔物に喰われて死ぬだけじゃない。
 この子たちも、死ぬ。

「あぁあァアアア──!」

 抜いた剣とともに、跳んだ。

 全身の筋肉が、爆発する。
 視界が、広がる。
 五感が、拡張する。

 燃やす命の光が、ヴィルを守るように噴きあがる。

「ギシャアァアアア──!」

 襲う魔物の爪の動きが、ゆっくり、ゆっくり、止まったように見えた。

 ──なんて、遅い。

 思った次の瞬間、ヴィルが繰りだす斬撃が、閃いた。

「……ぁ、ガ──!」

 幾太刀切り刻まれたか解らぬ魔物が、崩れ落ちてゆく。

 ドオォオォオオン──!

 魔の森が震えた。

 鳥が飛び立つ。
 ちいさな魔物が逃げてゆく。

 五感と視界が戻ってくると、引き千切られたかのように全身が軋んだ。
 5歳のちいさな身体の限界を遥かに超えた酷使に、肌が裂け、全身に血が滲んでいた。

「……みー……」

 ちいさな声がする。
 まだ、生きてる。

 おそろいの血塗れの唇で、ヴィルは久しぶりに微笑んだ。

「……よかった」

 おとうさんは治癒魔法が使える。
 治してもらおう。

 血塗れの2頭を抱きあげ、血塗れで帰ったヴィルは

「ぎゃあぁあぁァアァア──! 俺の可愛いヴィルがァアァアア──!」

 おかあさんの悲鳴と

「こ、こんなとこまで、おかあさんに似なくていいんだよ! 今すぐ回復するから!」

 泣きながら手をかざしてくれるおとうさんと

「ヴィル坊ちゃま──! 絶対魔の森におひとりでゆかれると思ってましたが、はじめてのお散歩で覚醒なさいますか──!」

 号泣するロダに迎えられた。

「先に、治して」

 2頭の魔物を差しだしたら、おとうさんが頭をなでてくれる。

「わかった。その間、ヴィルは痛いぞ」

 こくりと頷く。

「よくやった! がんばったな、ヴィル!」

 おかあさんが、泣きながら抱きしめてくれた。



「みー」

 元気になったちっちゃい魔物が、つやつやの闇の瞳で見あげてくれる。
 なでなでしたら、手に鼻をつけて、目を細めてくれる。

 かわいい

 うっとりしたけれど、ヴァデルザ家で生まれた魔物ではない、野生の魔物だ。
 魔の森に帰そうとしたけれど、ヴァデルザ邸にと戻るヴィルの後をついてきた。

「森に、帰らない?」

「みー」

「俺と、一緒に、くる?」

「みー!」

 くっついて鳴く2頭を、抱きしめた。


 額に月の白い毛があるほうが

「ツー」

 星の毛があるほうが

「ホー」


 はじめてのともだちが、できました。










──────────────

 読んでくださって、ありがとうございます!

 ロイロイ様のリクエストで『ツーとホーとヴィルの出会い』のお話でした!

 リクエストは毎日ひとつずつ更新予定です。

 楽しんでくださったら、とてもうれしいです。


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