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オトナのお話

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「ヴィルがほんとに僕の伴侶になってくれたなんて、夢みたい」


 ほわほわする頭と、とくとく鳴る胸で、夢じゃないと確かめるみたいに、ヴィルのおっきな手を、ぎゅうぎゅう握る。

 ふわふわ朱い頬と、ふわふわ紅いまなじりで、ヴィルが手を、ぎゅうぎゅう握り返してくれる。

「……俺も」

 ささやくヴィルの耳が、真っ赤だ。


「ヴィル、だいすきー! あいしてる──!」


 ぎゅうぎゅうおひざに抱きつこうとしたら、蒼の瞳を吊りあげたエヴィに叫ばれた。


「いちゃいちゃする暇があるなら、借金をどうにかしろ──!」

 涙目でおこなエヴィに安心してもらうためにも、借金返済、がんばろー!



 いちゃらぶを炸裂させるノィユとヴィルの隣で、発言の許可を得た母が、緊張の面持ちで唇を開いた。

「あ、あの国王陛下、ヴィルさまのご厚情で、ご飯を恵んでくださり、ヴァデルザ家に住まわせてくださるとのことなのですが、借金返済を死ぬ気で頑張りますので、領地経営をヴァデルザ家から行ってもよろしいでしょうか……?」

 おそるおそる問いかける母ノチェに、ザイア陛下がぱちりと片目を瞑る。

「ヴィルと息子と一緒に、毎年王宮に遊びに来てくれるならね。……俺とのことがあって気まずかったのかもしれない、申し訳なく思っている。けれどノチェとユィクのおかげで、俺はアォナとしあわせになれたから」

 照れくさそうに微笑むザイアに、真っ赤になったアォナが目を逸らす。

「そ、そそそそんなこと、ひひひ人前で言うことじゃ──!」

 ばたばたしてるアォナが、可愛い。
 ふうわり笑ったノチェは、安堵したように吐息した。

「よかった、陛下とアォナさまがおしあわせになられて」

 隣で父ユィクもこくこくしてる。


「ヴァデルザ家のご温情に報い、借金を返せるよう、尽力します」

 胸に手をあてひざをつくノチェに、ザイアが微笑む。


「がんばって。応援してる」

 昔の恋にさよならするような、やさしい瞳だった。





「大人は大人の積もる話があるから、子どもは子どもで遊んできなさい」

 ぺいっと放り出されたノィユは、ちょっと不服だ。
 確かに身体は3歳児だけど、中身はまあまあおっちゃんだと思う。

 でも色々、イロイロあったらしい大人たちは、確かに話したいことが沢山あるのだろう。

『今どうしてるの?』から
『夜はいつも何回くらい?』
『最近嵌まってるえっちの体位は?』まで、それはもう色々と!

 皆が話してる下ネタが、めちゃくちゃ気になる──!

 えちえちな想像に思わずによによしてしまった。
 絶対3歳児の反応じゃない。


 反省したノィユは仕方なく、茜に染まりゆく王宮の庭園をお散歩中だ。

 世界の色をすべて集めたような花々が咲き乱れる庭は、とろけるような香りに満ちて、重なりあう花びらに、夕日を透かして輝く緑の葉に、吐息がこぼれる。
 無造作に植えたように見えて、計算され尽くされているのだろう、歩くごとにゆるやかに彩りを変えてゆく庭に息をのむ。

「……すごい」

 輝くような白い花びらに、そうっと指を伸ばしたら


「さわるな!」

 幼い男の子の叱責が飛んだ。




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