上 下
36 / 88

オトナのお話

しおりを挟む



「ヴィルがほんとに僕の伴侶になってくれたなんて、夢みたい」


 ほわほわする頭と、とくとく鳴る胸で、夢じゃないと確かめるみたいに、ヴィルのおっきな手を、ぎゅうぎゅう握る。

 ふわふわ朱い頬と、ふわふわ紅いまなじりで、ヴィルが手を、ぎゅうぎゅう握り返してくれる。

「……俺も」

 ささやくヴィルの耳が、真っ赤だ。


「ヴィル、だいすきー! あいしてる──!」


 ぎゅうぎゅうおひざに抱きつこうとしたら、蒼の瞳を吊りあげたエヴィに叫ばれた。


「いちゃいちゃする暇があるなら、借金をどうにかしろ──!」

 涙目でおこなエヴィに安心してもらうためにも、借金返済、がんばろー!



 いちゃらぶを炸裂させるノィユとヴィルの隣で、発言の許可を得た母が、緊張の面持ちで唇を開いた。

「あ、あの国王陛下、ヴィルさまのご厚情で、ご飯を恵んでくださり、ヴァデルザ家に住まわせてくださるとのことなのですが、借金返済を死ぬ気で頑張りますので、領地経営をヴァデルザ家から行ってもよろしいでしょうか……?」

 おそるおそる問いかける母ノチェに、ザイア陛下がぱちりと片目を瞑る。

「ヴィルと息子と一緒に、毎年王宮に遊びに来てくれるならね。……俺とのことがあって気まずかったのかもしれない、申し訳なく思っている。けれどノチェとユィクのおかげで、俺はアォナとしあわせになれたから」

 照れくさそうに微笑むザイアに、真っ赤になったアォナが目を逸らす。

「そ、そそそそんなこと、ひひひ人前で言うことじゃ──!」

 ばたばたしてるアォナが、可愛い。
 ふうわり笑ったノチェは、安堵したように吐息した。

「よかった、陛下とアォナさまがおしあわせになられて」

 隣で父ユィクもこくこくしてる。


「ヴァデルザ家のご温情に報い、借金を返せるよう、尽力します」

 胸に手をあてひざをつくノチェに、ザイアが微笑む。


「がんばって。応援してる」

 昔の恋にさよならするような、やさしい瞳だった。





「大人は大人の積もる話があるから、子どもは子どもで遊んできなさい」

 ぺいっと放り出されたノィユは、ちょっと不服だ。
 確かに身体は3歳児だけど、中身はまあまあおっちゃんだと思う。

 でも色々、イロイロあったらしい大人たちは、確かに話したいことが沢山あるのだろう。

『今どうしてるの?』から
『夜はいつも何回くらい?』
『最近嵌まってるえっちの体位は?』まで、それはもう色々と!

 皆が話してる下ネタが、めちゃくちゃ気になる──!

 えちえちな想像に思わずによによしてしまった。
 絶対3歳児の反応じゃない。


 反省したノィユは仕方なく、茜に染まりゆく王宮の庭園をお散歩中だ。

 世界の色をすべて集めたような花々が咲き乱れる庭は、とろけるような香りに満ちて、重なりあう花びらに、夕日を透かして輝く緑の葉に、吐息がこぼれる。
 無造作に植えたように見えて、計算され尽くされているのだろう、歩くごとにゆるやかに彩りを変えてゆく庭に息をのむ。

「……すごい」

 輝くような白い花びらに、そうっと指を伸ばしたら


「さわるな!」

 幼い男の子の叱責が飛んだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました。 おまけのお話を更新したりします。

良かれと思ってうっかり執事をハメてしまった

天災
BL
 良かれと思ってつい…やってしまいました。

無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました

かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。 ↓↓↓ 無愛想な彼。 でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。 それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。 「私から離れるなんて許さないよ」 見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。 需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

そんなの聞いていませんが

みけねこ
BL
お二人の門出を祝う気満々だったのに、婚約破棄とはどういうことですか?

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

掃除中に、公爵様に襲われました。

天災
BL
 掃除中の出来事。執事の僕は、いつものように庭の掃除をしていた。  すると、誰かが庭に隠れていることに気が付く。  泥棒かと思い、探していると急に何者かに飛び付かれ、足をかけられて倒れる。  すると、その「何者か」は公爵であったのだ。

処理中です...