上 下
26 / 88

おひざだよ

しおりを挟む



「ぼ、僕もついてく! お兄さまがだまされてないか、ちゃんと見届けるんだから!」

 ぎゅうう、とヴィルの腕に縋りつけるエヴィがうらやましい。

 ノィユが抱きつくのは、おひざだ。

「ヴィルにも、エヴィさまにも、トートさまにも、ロダさんにも、決して嘘はつきません! ありのままを正直にお話しします」

 エヴィに対抗するように、ノィユにおひざを抱っこされたヴィルが、真っ赤な顔を覆ってる。


「エヴィ、僕らはお邪魔だよ」

 なだめるようにエヴィの腰にさりげなく回そうとしたトートの腕が、素晴らしい速度でエヴィに叩き落とされてる。


「邪魔なのはトートだけだもん──!」

「エヴィ──!」

 伴侶漫才が楽しい。


「心と、言葉が、裏腹な、エヴィを、ずっと、慈しんで、愛してくれて、ありがとう」

 微笑むヴィルに

「お義兄さまにお礼を言われることではありませんから──!」

 叫ぶトートの耳が赤い。
 こっちもツンデレみたいだよ。

 ロダがによによして、ネァルガ家の衛士の皆さんもにこにこしてる。


「エヴィが行くなら、僕も行きます」

 ヴィルに対抗するように前に出るトートに、エヴィが細い眉をしかめた。

「えー、トートは来なくていいよ。僕がお兄さまといちゃいちゃしてるところ、そんなに見たいの?」

「エヴィ──!」

 トートが号泣してる。

 エヴィがほんのり楽しそうだ。
 ちょっとトートが可哀想になってきたよ。



 衛士さんが馬をもう1頭連れてきてくれて、馬車もひと回り大きな6人乗りになって、皆で王宮に向かうことになりました。

 ノィユはおまけ枠で、馬さんたちが頑張って牽いてくれるらしい。
 きゅうきゅうになっちゃうので、ヴィルのおひざ抱っこだ。

 ほんのり赤い頬で抱っこしてくれるヴィルと、とろけて笑うノィユに

「きぃいイィイイ──!」

 エヴィの愛くるしいかんばせが、ものすごいことになってる。
 ロダがによによして、トートもちょっぴりうれしそうだ。

 エヴィとトート、お似合いみたいだよ!


 高位貴族と上位貴族と一緒に馬車に乗ることになった両親が、青くなってカタカタしてる。
 馬車でも一番隅っこの下座を死守してる。ロダにも譲りたくないみたいだよ。

 ネメド王国では、伴侶を持つことによって、個人の家格が上がったり下がったりはしないのだけれど、ネァルガ家当主の伴侶となったエヴィは、ちょっと配慮されて、ヴァデルザ家当主のヴィルより上座に就くことになるらしい。

「僕がお兄さまより上だなんて、天地がひっくり返っても、ありえないから!」

 しゃっとエヴィがヴィルより下座の、ヴィルの隣に座ろうとするので

「じゃあ僕もお義兄さまを立てて」

 微笑んだトートが、ちゃっかりエヴィの隣の下座に座ってしまう。

「………………」

 一番上座に座っていいのかな、という顔をしたヴィルをよそに、エヴィの隣でにこにこしたトートが手を挙げた。

「出してくれ」

 御者さんが応えて、馬さんが走り出す。

 緑豊かな帝都郊外にある広大なネァルガ家から、6人乗りの馬車で王都に向けて出発です。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました。 おまけのお話を更新したりします。

良かれと思ってうっかり執事をハメてしまった

天災
BL
 良かれと思ってつい…やってしまいました。

無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました

かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。 ↓↓↓ 無愛想な彼。 でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。 それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。 「私から離れるなんて許さないよ」 見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。 需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

そんなの聞いていませんが

みけねこ
BL
お二人の門出を祝う気満々だったのに、婚約破棄とはどういうことですか?

もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。

掃除中に、公爵様に襲われました。

天災
BL
 掃除中の出来事。執事の僕は、いつものように庭の掃除をしていた。  すると、誰かが庭に隠れていることに気が付く。  泥棒かと思い、探していると急に何者かに飛び付かれ、足をかけられて倒れる。  すると、その「何者か」は公爵であったのだ。

処理中です...