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いっしょのきもち

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「バチルタ家っていうとぉ、借金まみれの沈没貴族でしょお? どうしてぇ、おにいさまの伴侶なんてことにぃ、なったのかなぁ? 僕が家を出ちゃったからぁ、おにいさまが、ひっどい詐欺に引っかかったのぉ? ロダがいながらぁ?」

 語尾がのびるエヴィの声に、甘さは微塵もない。

 凍気しかない。

 殺気に刺されたロダの頬が、引き攣ってる。

 ぶるぶるしたノィユは、深々と頭を下げた。

 バチルタ家は貴族でも底辺だ。
 ネメド王国では貴族は厳密に家格があって、同じ家名でも本家と傍流で家格が著しく違ったりするので、憶えるのが大変だ。なので、大体ざっくり、上位貴族、中位貴族、下位貴族、と分類される。

 上位の上には王家の血も混ざる、ほぼ王族な高位貴族が存在したり、下位貴族の下に、貴族になりかけの準貴族が存在したりして、ややこしい。
 バチルタ家は下位も下位、もうすぐ貴族じゃなくなるだろう最底辺だ。
 あがる時には準貴族になるけど、落ちるときは準貴族になれなくて、即、平民だよ。

 ネメド王国では領地も爵位も王から賜るもの、没収されるもので、すべては王のご裁断だ。
 一貴族が何かすることはできないし、しようとした場合、反逆と見做されて潰される。

「おかあさま、おとうさま、領地や爵位を売却して借金を相殺することはできないのでしょうか?」

 聞いたノィユに、両親が真っ青になってカタカタした記憶はまだ新しい。3歳だからね!

「そんなこと口にするだけで反逆罪で、一族皆殺しだから──!」

 泣いてた。
 ノィユもカタカタした。


 ヴァデルザ家は長年辺境の北の最果てで敵国を押さえてきた功績を認められた、伝統ある上位貴族だ。実情はあんまり豊かじゃないのかもしれないけど、家格からすると天上と底辺くらい違う。
 エヴィはヴィルの弟君なんだから、間違いなく格上だ。

 ネメド王国の貴族は、下位の者から家格が上の者に対して声を掛けることを許されない。
 上位の者が認可して初めて、発言を許される。
 初対面のときは、尚更だ。

 だからノィユは、発言の許可を求めて深々と頭を下げ続けることしかできない。

「ふん!」

 可愛らしい鼻息が聞こえた。

「貴族の礼儀は知ってるみたいだね。無作法にも発言するなら、今ここで首を斬り落としてあげたよ」

 かわいい声で、本気の死刑宣告来ました──!

 ぷるぷるするノィユを庇うように、ヴィルが前に出てくれる。

「エヴィ」

「だってお兄さま、絶対絶対絶対絶対だまされてる! 何この子! こんな精霊みたいな目で、ぷっくりしたほっぺで、ちっちゃい手足でお兄さまを誘惑するだなんて、僕は絶対絶対絶対絶対! 許さないんだからぁアァアア──!」

 …………………………。

 なんとなく、ヴィルがどうして売れ残ってしまったのか、理解した。


 めちゃくちゃ可愛い弟が、全力で阻止してる。



 きもちわかる。

 おにいちゃん、めちゃくちゃかっこいーもんね。ありえないくらいかっこいーよね! 自分だけのおにいちゃんでいて欲しいよね!
 激しく同意!

 するけど!


 でもでもでも、ヴィルは僕の伴侶だもん──!


 きゅ、と唇を引き結んで、顔をあげる。

 伴侶になるということは、ヴィルの家族と、家族になるということだ。
 ヴィル愛の激しい弟さんとも、家族になる。

 仲良くなりたくても、きもちが同じだからこそ、反発してしまうのかもしれない。



 でも、ヴィルの伴侶は、譲れない。


 僕が、ヴィルの、伴侶だ。



 まっすぐエヴィの目を見つめてから、またすぐにこうべを垂れた。


「ふ、ふんだ! ……い、言い訳くらいは、聞いてあげても、いいけど」


 ぷっくりふくれる頬で、ぽそぽそ言ってくれるエヴィが可愛い。

 ヴァデルザ家の顔面偏差値が高すぎる。




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