上 下
12 / 102

はじめての夜

しおりを挟む



「あ、あの、あのあの、ヴィルさま、内緒で、しましょう、僕、大歓迎です──!」

 燃える頬で拳を握るノィユに、ヴィルの眉が哀し気に下がる。

「だめ」

 怠ることなく鍛え続けたのだろう逞しい腕が、抱きしめてくれる。


「だいじにする」

 やさしい声が、耳朶に降る。


 あたたかなぬくもりに、ヴィルの香りに、つつまれる。
 うっとり目を閉じたノィユは、そっと、ヴィルの背に腕を回した。

 ちっちゃい手では抱きしめるというより、しがみついてるみたいだけれど、それでもきゅっと抱きしめる。


「……ヴィルさまが、だいすきです」

 広やかな胸で囁いたら、抱きしめてくれる力が強くなる。


「さま、いらない」

「……え?」

「呼んで、ノィユ」


 あなたに呼ばれる僕の名が、あまく、あまく、とろけてゆくように

 僕が呼ぶあなたの名も、あなたの心を揺らすといい


 祈るように、ささやいた。


「ヴィル」


 瞳が、かさなる。
 指が、からまる。

 抱きしめて
 抱きよせて


 見あげる瞳に映るのは、あなただけ


 そっと

 そっと

 唇が、かさなる



 はじめての夜に、はじめてのキスをしました。







「はにゃ──……!」

 蕩けてくずおれるノィユを、ヴィルの逞しい腕が抱きとめてくれる。


「す、すまない、ノィユ、まだ、早かった?」

 あわあわするヴィルに、ぶんぶん首を振った。


「うれしくて、熔けちゃう」

 ぽふりと抱きついたら、安堵だろう吐息をこぼしたヴィルが、ちいさく笑う。


「……俺も」

 ぎゅ、と抱きしめてくれるヴィルを抱きしめたら、きらきら月の光をはじくように、雪の髪から雫が降りてくる。

 そっと指を伸ばしたノィユは、雫をまとう髪を指にからめて、微笑んだ。


「ヴィルの髪、乾かしてあげる」

 えへんと胸を張るノィユに、瞬いたヴィルがすまなそうに眉を下げる。

「冷たかった? ごめん」

 ふるふる首を振ったノィユはヴィルの真っ白な髪に手を伸ばす。


「ほわほわ!」

 ほわほわほわ~

 ノィユの手のひらから零れる温風が、ヴィルの髪を揺らした。

 ぼんやり記憶のある前世のドライヤーが手でできる感じだよ。
 チートな魔法とか、魔法の素質とか全然ないみたいだけど、ドライヤーはできる!
 ちょこっと便利だ。


「………………え?」

 ヴィルの藍の瞳が、まんまるだ。

「僕の魔法、変なんだよね? 母上も父上も、人前でしちゃいけませんって。でも、ヴィルは伴侶だから」

 照れ照れ熱い頬で笑ったら、ヴィルの頬も赤くなる。


「……他にも、魔法を?」

「魔術書でちょこっと練習したことあるけど、両親が3歳で練習したらだめって」

 ヴィルも頷いた。

「身体が、小さいうちは、魔力が、安定しない、んだ。危険だから、あまり、使わないほうが、いいと、言われてる。魔力の制御が、でき、なくて、暴走を、起こして、大変なことに、なることが、ある、から」


 ぽつぽつ心配そうに話してくれるヴィルが、かわいー!


「……俺、話すの、下手で……解った?」

 もっと心配そうになったヴィルに、あわあわしたノィユはぶんぶん頷く。


「わ、わかった!」

 あわあわ魔法を止めたけど、ヴィルの髪は乾いたみたいだ。よかった!





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 時々おまけのお話を更新しています。

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!

冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。 「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」 前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて…… 演技チャラ男攻め×美人人間不信受け ※最終的にはハッピーエンドです ※何かしら地雷のある方にはお勧めしません ※ムーンライトノベルズにも投稿しています

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

ゆい
BL
涙が落ちる。 涙は彼に届くことはない。 彼を想うことは、これでやめよう。 何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。 僕は、その場から音を立てずに立ち去った。 僕はアシェル=オルスト。 侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。 彼には、他に愛する人がいた。 世界観は、【夜空と暁と】と同じです。 アルサス達がでます。 【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。 随時更新です。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

処理中です...