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3歳?
しおりを挟むヴィルのもしゃもしゃの髪と髭を見つめたロダが、さみしそうに目を伏せる。
「坊ちゃまは少し引っ込み思案でいらっしゃって、髪と髭が、こう防御壁のようになっておられて、切るのをとてもお厭いになるのです」
ロダの髪は丁寧に撫でつけられて髭も剃られているから、ロダもヴィルの髪と髭をどうにかしようと奮闘したらしい。
でも髪が防御壁になるっていう気持ちは、わかる。
あんまり相手の目を見なくていいし、目を逸らしてもあんまり目立たないし、暗くて地味って思われたほうが、人間関係が楽になる気がした。前世で。たぶん?
無理に髪を切ったり、髭を剃ったりすると、衝撃なのかもしれない。
確かに、あの輝くかんばせが近くにあると、ノィユにとっての衝撃なのは間違いない!
もしゃもしゃしてくれてるほうが、落ち着いて話せていいと思う!
「……あの、僕、3歳で、あの、ちっちゃいですけど、あの、ご満足いただけるように、えちえちもがんばりますから……! お傍においてください!」
がばあっと頭を下げたら、あまり表情の動かないヴィルが目を剥いた。
おお、えちえち通じた!
なんかえろいこと言ってる、っていう空気ってたぶん異世界でも共通みたい。
「…………は!?」
ロダの頬も、ちょっと赤い。
「ノィユさま、それはかなり違法ですので、合法になるまでお待ちくださいね。我が主が捕まってしまいます」
こくこくこくこく頷くヴィルの顔が真っ赤だ。
「え、え、だって、伴侶……」
どきどきわくわく、らぶえっち生活じゃないの──!?
「ノィユ、だめだよ、夜のは成人になってから」
父に両肩を掴まれて諭された。
「大切な伴侶を牢屋に放り込まないためにも大切なことだからね」
母にも両肩を掴まれた。
「それにしてもいつそんな知識を得たのかな? ……ノィユ、3歳だよね……?」
胡乱な目になる母にわたわたするノィユに、父が笑う。
「おかあさんに似たんだねー」
「………………は!?」
おどろおどろしい闇を背負ったおかあさん、こわい。
ヴァデルザ家の食卓は、お城の大きさに比べてこぢんまりしていた。
昔は大勢がこの砦に詰めていて、たくさんの人と一緒に食事をしていたから長大な食卓だったというが、金のかかる部隊を引きあげ、執事のロダとヴィルだけになってしまうと、ちっちゃな食卓で十分だからと、ちいさくなったらしい。
ヴィルと両親、ノィユが食卓につくと、満席だ。
「ロダの席がないね」
眉を下げるノィユに、ロダは微笑んで腰を折る。
「わたくしは給仕を」
「でもいつも、ヴィルさまと一緒に食べてるんでしょう?」
顔を見合わせたヴィルとロダが瞬いた。
「どうして?」
「使い込まれた跡が二人分あります。いつも同じ席におつきなのでしょう。ひとりの食事はさみしいです。一緒に召しあがるのは、素敵なことだと思います」
微笑むノィユに、ロダはぽつりと呟いた。
「……3歳、ですか……」
う。
ええと、前世幾つまで生きたのか、あんまり覚えてないけど、確か30代くらいの記憶がぼんやりあるから、いい歳だと思う、よ!
身体は3歳だから、詐欺じゃないということでお願いしたいです、ごめんなさい!
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