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ちっちゃいルルとレリアとクロのぼうけん
お舟です
しおりを挟む「持ってるもの?」
首を傾げた僕は、持ってきた鞄を探る。
船の渡し賃に相応しいのかどうかわからないけれど、緑の葉っぱに包んだおやつを差しだした。
「僕が焼いたお菓子だよ。どうかな?」
「おお!」
ひとつの目がきらきらしてる。
「お前は、よし。そっちは?」
首を傾げたクロが、首に巻いた包みを開いた。
ジアが持たせてくれた包みには、ご飯と怪我をしたときの包帯と傷薬が入っている。
「ごはん、たべる?」
「おお! お前も、よし。そっちは?」
残ったレリアは鞄を探った。
「……えぇと……ルルに貰ったおやつはだめ。ルルに貰った傷薬と包帯もだめ。ルルがくれた刺繍入りのはんかち? も絶対だめ!」
「なんか出せ」
うー、と唸ったレリアは、吐息した。
「じゃあ、精霊の樹の葉っぱをあげる」
「……何に使う?」
「死者を甦らせたり?」
「すげえな! でも俺には使えなさそうだぞ」
ひとつ目さんが、しょんぼりしてる。
「じゃあ特別に、エルフの加護をあげる。いいことがありますように。どうかな?」
「おお! エルフの加護か、もらった初めての魔物かもな。よし! もらう!」
微笑んだレリアの指から光が溢れて、ひとつ目さんに降り注ぐ。
「さいわいが降るように」
古代エルフ語で紡がれた言葉に、まばゆい光がきらめいた。
「おぉお!」
居合わせた皆が拍手してくれる。
照れたような朱い頬でレリアが会釈して、最愛の推しの尊さを僕は拝んだ。
クロがちいさく笑ってる。
「よし、じゃあ皆乗っていいぞ。しゅっぱーつ!」
ひとつ目さんが、櫂を掲げた。
ちいさな舟が、真っ暗な水をかき分けるように大きな河を渡る。
揺れる舟で僕とレリアとクロは河に投げ出されないよう、しっかり舟の縁を掴んだ。
見あげるほどの絶壁を抉るように貫く洞窟のなかに、飛沫とともに舟が吸い込まれてゆく。
真っ暗闇のなかで、座礁しないようにだろう、紫紺の炎が瞬いて、ゆく先を照らしてくれた。
「魔界っぽい!」
歓声をあげて手を叩いた僕に、ひとつ目さんも、乗り合わせた魔物の皆も誇らしそうに胸を張る。
揺れたクロのしっぽが固まった。
レリアが柳眉をしかめる。
「す、ごい、魔力──!」
仰け反る僕に、ひとつ目さんが笑う。
「そりゃそうだ。この先の城に、魔王さまがいるんだからな」
真っ暗な洞窟を抜ける。
明るくなるかと思ったのに、辺りは暗い。
夜になったのかと思ったら、違う。
魔界の瘴気が、天を覆っている。
雷雲がひらめき、空を刺す真っ暗な城がそびえたつ。
「ひゃー、すごいね」
感嘆する僕に
「だろ!?」
魔界の皆が誇らしそうだ。
「城まで行けば会えるんじゃねえかな。がんばれ」
川岸まで送ってくれたひとつ目さんが、手を挙げた。
おっきくなってくれたクロの背に乗った僕とレリアは、瘴気の渦を駆けてゆく。
「クロ、つらくない?」
「くろ、へーき!」
闇の光の精霊であるクロには魔界の瘴気もすさまじい魔力も大丈夫らしい。
凄まじい速さで駆けてくれるから、あっという間に天高くそびえる魔王城が近づいた。
「会ってくれるかな?」
首を傾げる僕と一緒にレリアが真っ暗なお城を見あげる。
「とりあえず、申し入れてみようか」
最初は正攻法でがんばります。
────────────
はじめましての方、いつも見てくださる方、心からありがとうございます!
HPにリンクのある2の無料期間が10月12日土曜日の17:00から10月14日月曜日の 16:59までの予定です。
次は11月とお知らせしていたのにごめんなさい!
年末にしようと思っていたらまだ設定できなかったので、前倒しすることにしました。
きつい表現があって申し訳ないのですが、無料期間にもしよかったら!
新しいお話をはじめてみたので、もしよかったら、ルルとレリアとクロと一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
ちっちゃいルルとレリアとクロの冒険も、ちゃんと終わらせられるようがんばります!
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