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おまけのお話

夏です!

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 ちっちゃくなりました!

 ちっちゃい手、ちっちゃい足、ちっちゃい舌は、ものすごく久しぶりで、なんだか懐かしい。
 夏の木洩れ日が射し込む精霊の樹のお家は、ちっちゃくなった僕にもやさしい、ふかふかの床だ。

「れーあ」

 最愛の推しに、手をのばす。
 呼ばれたレトゥリアーレが、とろけるように笑ってくれる。

「ルル」

 ぎゅ、と抱きしめて、頭を撫でて、頬擦りして、この世界で一番愛しいものを瞳に映したように微笑んでくれる。

 恋人兼おとうさんなレリアは、今日もきらきらだ。

「転ぶと危ないから、抱っこしてお散歩に行こうね」

 いつも抱きあげて運んでくれる。
 なので、よちよち歩きはあんまり上達しない。
 過保護な最愛にメロメロしているのは、僕のほうだ。

 だって、近い。

 ちっちゃいので抱っこしてもらうと、レリアの輝くかんばせが、目の前にある。
 さらさらの銀の髪も、透きとおる蒼の瞳も、つやつやのほっぺも、あでやかな桜の唇も、ちょこっと手を伸ばせばふれられる。

 いつもレリアの香りに包まれていて、いつもレリアのぬくもりを感じていて、いつもレリアの指が頭をなでなでしてくれる。

 至福──!

 ちっちゃくなった僕がレリアに乗っているので、最近、クロの尻尾がしょんぼりだ。

「ろー」

 うるうるの黒の瞳で見あげられたら、ぺちぺちレリアの肩を叩いてしまう。

「れーあ、れーあ、くろ!」

「わ、わかった」

 今生の別れみたいに哀しそうな顔をする推しが、可愛すぎる。

「えへへ。れーあ、いーこ、いーこ」

 ちっちゃい手でレリアの頭をなでなでしたら

「……うん」

 はにかむみたいにレリアが笑う。
 可愛くて可愛くて食べちゃいたいけど、それは夜のお楽しみで!

「くろ!」

 ぎゅー
 抱きついたら

「ろー!」

 ふわふわの前足で抱きしめてくれる。

「せなか、のる!」

 背中を向けて屈んでくれるクロに、よいしょよいしょと跨った。
 隣のレリアが、胸を押さえて蹲ってる。
 推しが、かわいい。

「くろ、ふあふあ!」

 ぎゅー、とおっきな背に抱きついたら、うれしそうに跳ねたクロは、精霊の樹のお家を駆けだした。



 ゆっくりゆっくり、歩くみたいに走ってくれるのが、クロの全速力を知っている僕にはよくわかる。
 ちっちゃい僕が落ちないように、ちゃんとクロに掴まっているか、後ろを振り返りながら、たたんたたん、精霊の樹が護ってくれるちっちゃな村を駆けてゆく。

 ちっちゃくなったら、何もかもがおっきく見える。
 草原はジャングルだし、お花畑は巨大迷路だ。
 朝から畑仕事を頑張ってくれている、ちっちゃかったエォナでさえ、おっきい。
 チチェは、巨人だ。

「おー! おはよー、ひめ!」
「おはよう、ひめさま」

 クロの背に乗る僕の顔を覗きこんで、チチェとエォナが笑ってくれる。

「ちっちゃいなあ」
「かーわいー」

 やさしい声に、クロの尻尾がぶんぶん揺れた。

「あ、もちろんクロもかわいーぞ!」
「とびきりね!」
「えへへ」

 顔を赤くするクロが、一番かわいー。

「ろー、とぶ?」
「あい!」

 ぎゅ、と抱きついたら、クロが僕を乗せて空を翔た。
 飛べる犬なんて、クロだけだと思うな!

「くろ、かっこいー!」
「えへへ」

 赤くなるクロが、とびきりかわいー。
 眼下に広がるのは、ゼドのちっちゃな村、おっきな精霊の樹と、エォナとチチェの畑、魔山羊のおかあさんたちの魔草原と精霊の泉だ。

「くろ、くろ、なちゅだよ、みずあび!」

 クロの瞳が、輝いた。





────────────

 はじめましての方、いつも読んでくださる方、心からありがとうございます!
 暑い夏に、水遊びのお話を書いてみました。
 もうちょっと続きます。
 楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

 HPの絵も一新したので、*の絵が苦手だった方も、皆の絵を見たい方も、もしよかったら!
 お話のお話のところに掲載してあります。
 こちらに掲載のグィザの絵もこっそり変更しました(笑)


 新しいお話を、久しぶりにはじめてみました!
 12歳のクールっぽい溺愛騎士見習い×5歳もふもふ獣人の、いちゃらぶなのに多分両片想いなお話です。
 もしよかったら楽しんでくださったら、とてもうれしいです。



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