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おまけのお話
レリアの最愛 5
しおりを挟む「それで、ひめさまは、ずうっと、自分の手を嘗め回してるわけですか!」
金の混じる栗色の瞳を吊りあげた子どもはエォナという勇者らしい。
魔王と仲良しな勇者を、初めて見た。
「え、えと、こ、これは、そ、その──……」
指に唇をふれさせたままのルルが、紅い頬でもじもじしてる。
──尊い。
拝みたい。
拝んだら雰囲気ブチ壊しな気がするので、こらえた。
我ながら素晴らしい忍耐力だ。
「ぽっと出て来て、僕のひめを攫ってくなんて、許さない!」
私の腕を押し退け、ルルに『僕の』所有格を使い、ルルを抱きしめる子どもに閃いた殺意を、懸命に堪えた。
今なら殺せるとか絶対だめだ──!
「だ、大丈夫だよ、エォナ。
僕、レトゥリアーレさまのお傍には、いられないから」
「そんなの、私がゆるさない」
ぎゅううぅう。
エォナの腕を、ぺいと押し退けて、華奢なルルを抱きしめる。
この腕のなかに、閉じこめるように。
耳まで真っ赤になったルルの鼻から、血が流れ落ちるのさえ、尊い──!
「あーもー、エォナもレトゥリアーレも、待て。
ろーの鼻の血が止まらないだろ」
きゅるるる氷魔法で氷枕を作ったジァルデが、ルルの鼻を冷やしてくれる。
「ふえ。ありがとう、ジア」
ジアを見あげるルルの親愛の瞳に、隣のエォナの目が凍った。
「こっちが、真の敵みたいですね」
「全力で同意」
頷く私とエォナに睨みつけられたジァルデが、眉をあげる。
「ジア」
ふくれる魔王ゼドの呼び声に振り返ったジアは、くすぐったそうに柘榴の瞳を細めた。
「かわいーね、魔王さま」
ふわふわ赤くなったゼドが、ジァルデの手を握る。
「あ、こっちは安全牌だった」
エォナの言葉に
「全力で同意」
した。よかった。ありがとう、ゼド。
ルルの傍から離れがたくて抱っこして、帰るエォナに涙目で睨まれても居座っていたら夜になった。
帰らない私に、ジアとゼドの生温かい視線が降りそそぐ。
ごめんなさい。
帰りたくないです。
『帰れ!』叫ばれたら、しょんぼり帰る。
帰る家なんて、もうないけれど。
もごもごしながらルルを抱きしめていたら、伝説の魔導士らしいキュトが扉を開けた。
「レトゥリアーレの鼻血から、エルフ探索魔道具できたよー!」
「そ、そこは叫ばなくていい!」
お願いだから!
「泣いて縋るひめさまに、鼻血噴いて倒れたんだよ、エルフの長が!
こんな楽しいこと、全世界に拡声器で叫びたいよ!!」
「叫ぶな!!!」
耳の先まで燃えるから!
「はあ、レトゥリアーレさまの鼻血、見たかった……!」
ルルの言動が不穏だ。
キュトの瞳がものすごく楽しそうに閃いた。
「あ、映像録画してみたよ。見る?」
「見る──!!!!」
「見るなぁあああああ!!!
伝説の魔法を、鼻血に使うなぁあああああ!!!」
ありえない魔力の魔法を力業で打ち消すため、エルフの長の魔力を放出した。
……こんなことに全力使うなんて、せつない。
「え、伝説の魔法を相殺するって、エルフの長、すげえ」
すごくないよ。
ルルには絶対見せたくないけど、鼻血だって出るよ。
ルルがあんまり、可愛いから。
「……伝説の魔導士は、こんなに軽いのか」
びっくりした。
「永遠の美少年だよ☆」
目の横のちょきの意味がわからない。
キュトに魔道具まで作ってもらったルルが、エルフたちを救いたいと言ってくれる。
ルルを虐げ、殺そうとしたエルフを。
「僕のことを、たすけたいなと思いながら、たすけられなかったエルフも、いるかもしれない。
僕だって、誰かがいじめられていたら、たすけにゆく勇気は、出ない。
僕まで、いじめられるから。僕まで、殺されそうになるから。
勇気は出なかったけど、ほんとうは僕をたすけたかったエルフまで、皆殺しになるのは、いやだと思うんです」
「……ルル」
そっと、ルルのふるえる手を握る。
その冷たさを、震えを包んでから、振り払われなかったことに、泣きたくなるくらい、安堵した。
「ろー」
話せるクロが、ルルの涙を、やさしく嘗める。
泣いちゃうくらい羨ましいとか、今言ったらいけないのは解ってる。
私は、待てができる、いい子だ。
かなり心は狭いけど。
自覚はある。
でも待てもちゃんとできるから! きらわないで、ルル!
涙目だ。
ジァルデが、ゼドが、ルルの頭をわしわし撫でた。
皆に抱っこされるルルをしばらく見つめたキュトは、吐息する。
「……レトゥリアーレの意見は」
灰の思いを口にする。
「エルフを離散させたのは、確かにエルフを生かすためでもあったが。
どうでもいいと思ったんだ。
最愛のルルを、虐げ、殺そうとし、追放したエルフたちを、なぜ私が率い、守らねばならない?
私が二百年やってきたことが、たまらなく愚かしく思えた」
ずっと抱いてきた願いを、音にする。
「ルルをくるしめる、すべてのものから、ルルを、守りたい」
見開かれた星の瞳に、誓うように告げる。
「ルルのためだけに、生きたい」
そっと、ルルの手を、両の手でつつむ。
ルルの心を、つつむように
そっと、指先を、からめた。
ルルの心と、つながるように
「ルル」
きみの名を、私がつけただなんて、なんてさいわいだろう。
きみの名を紡ぐたび、心があふれて
あいしてるが、あふれてく
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