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おまけのお話

レリアの最愛 3

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 きみが教えてくれたから、エルフを生かし、私も解放される道を考えた。
 エルフの村を、離散させる。
 襲撃され、絶滅する危険は少なくなる。
 それが灰としか思えなくなってしまった同胞たちにできる、精一杯だった。

「里を離散させ、長を辞す」

 告げたら非難も反対も囂々したが、私にはどうでもよかった。

「レトゥリアーレ!」

 ノェスが泣いて止めてくれるのに。
 その涙が心を撃たないことを、心から申し訳なく思った。

「よくしてくれたのに、すまない、ノェス」

 世界に散り散りになってゆくエルフを確認し、里を閉じた私は、魔物軍が侵攻してくるのに目を剥いた。

 ルルの言葉は、ほんとうだった。

 ほんの少し、決断が遅かったら、離散が遅かったら、エルフは絶滅していたかもしれない。

 ルルが、エルフを救ってくれた。
 自分を虐待して殺そうとした、エルフたちを。

 ……きみは、私を憎んでいる。
 それでも、エルフの命を繋いでくれた御礼を言うためなら、きみに逢えるだろうか。

 傍にゆくことは、きみを苦しめるかもしれない。
 さよならを告げた男が追ってくるなんて最低だ。
 気持ち悪いとか迷惑とかいう領域を超えてしまう。犯罪だ。

 それでも、ありがとうを伝えるだけ。

 きみに、逢いたい。
 そばに、ゆきたい。
 こえが、聞きたい。
 わらって、ほしい。

 焦がれるように熱く、吐息を奪うほどくるしく、狂気のような想いが、あふれる。

 ──あぁ、これが

 あいしてる



 エルフの長になったのは、随一の力を持っていたからだ。
 気配を察知し辿ることにかけては、右に出る者を知らない。

 この間はルルの気配が断絶していて追えなかったが、ルルは仔馬に乗って駆けていった。ゆく先を、追尾できる。

 魔界とは思えぬ、うららかな場所に、ちいさな藁葺きの家が建っていた。
 世界を圧し拉ぐような魔力は、間違いなく魔王のものだろう。

 不思議な魔力が、傍にある。
 ルルがいなくなった夜、断絶した時に香った魔力と同じ気がした。

 人間を超えるような強大な魔導士の気配もある。
 敵意を表されたら、瞬殺されるだろう。


 でも、きみが、ここにいる。

 ありがとうを、伝えるだけだ。
 憎まれても、きらわれても、それでも、もうひと目だけ、きみに逢いたい。


 扉に伸ばそうとした指が、ふるえる。


 きみに、きらわれている
 憎まれている
 突きつけられると、壊れる。


 それでも、逢いたい。


 震えの止まらない指を、伸ばそうとした時だった。

 扉が、開いた。
 ルルの茫然とした顔が、目に映る。


 ああ、きみだ。
 ずっと、ずっと、逢いたかった。


 月の光をまとうようにきらめく黒髪と、星の光を宿したように瞬く漆黒の瞳に、きみの姿に、身体の奥からとろけるような、甘い痺れが降ってくる。

 うっとり恍惚を初体験した私は、ようやく気づいた。

 家の扉を開けたら立ってた、変なエルフになってる!

 あわあわした私は、口を開く。

「や、やあ、ルル」

 やっぱり私は、あんぽんたんだ。




「……れ、レトゥリアーレさま……」

 きみが、名を呼んでくれる。
 憶えていてくれる、きみの唇が、私の名を紡いでくれる。

 泣き崩れそうになるほど、胸が熱い。

「あ、あのあの、エルフの皆さんが、魔王になりたい輩に殺されるかもしれません。
 世界に散ったエルフの皆さんを捜すために、レトゥリアーレさまの血を、ほんの少し、いただけないでしょうか」

 エルフのことを言われた気がしたけど、きみが名を呼んでくれる甘い歓喜で、よく聞こえなかった。

「……ああ、やはり、ルルなんだね。
 大きくなって──……」

 そっとのばした手に、ルルは飛び退いた。

 当たり前なのに、指先が凍える。
 心が、砕ける。

「ぼ、僕に、お触りになってはいけません!
 レトゥリアーレさまが、殺されてしまうかもしれないのです!」

 砕けていたから、今度は聞こえた。

「どうして」

「前世の記憶です。
 僕は、エルフを滅ぼし、レトゥリアーレさまを殺す者」

 荒唐無稽だとは思わなかった。
 ルルは魔物の進軍を知っていた。

 きみの言葉を疑うなんて、できない。

「これが、ろーの記憶だ。
 この世界のことが、書かれている」

 不思議な魔力をもつ魔族が差しだしてくれたのは、分厚い本だった。

 あふれる敵意とともに魔王や魔導士に瞬殺されるかと思ったら、意外にも家のなかに招いてくれた。
 座らせてくれて、お茶まで淹れてくれる。
 魔導士とともに、手書きの本を覗きこむ。

 ルルの前世の世界に存在したというげーむには、レトゥリアーレるーと、というのがあるらしい。
 私が主人公になって、物語がはじまる。
 そこには私とルルが辿る未来が書かれていた。

『あなたが一番、憎かった』

 絶望を、幾度味わえばいいだろう。
 真実はこんなにも、私を殺す。

 続く私の言葉は

『きみをずっと、愛してた』

 ………………ルルに、バレてる。

 赤子のころから、ずっとずっと愛していたことを、きみにきらわれても憎まれても、それでも愛しくて仕方なくて、傍にいきたくて、きみに逢いたくて、きみを捜すためだけにすべてを捨てた私が、きみに最初から、バレてる。


 恥ずか死ぬ……!




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