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ちっちゃいルルとレリアとクロのぼうけん
しゅっぱつ!
しおりを挟むふわふわ、レリアの長い月の髪が揺れる。
大きな蒼い瞳が、僕と同じくらいの高さで瞬いた。
「ルル?」
呼んでくれる声が、高い。
逢いたくて、でも絶対に逢うことなんてできないと思っていた、ちっちゃな子ども時代のレトゥリアーレが、目の前にいる。
「うわあん! れりあが、かわいーよう!」
ぎゅうぎゅう抱きついたら、レリアが背に腕を回してくれる。
「ルルのが、かわいー」
ぽそぽそ呟くレリアの尖った耳が、先まで真っ赤だ。
「りょーおもい!」
つややかな闇色のしっぽを、ぽふぽふ振ったクロが、うむうむ頷いてくれる。
「ひめさま! 魔王を斃すなら、僕が行きます!」
駆けてきてくれた勇者エォナに、僕は首を振った。
「勇者が行くと、闘いになっちゃうでしょう?
人間界への侵攻を思い止まって貰いたい。話し合いに行くんだ。僕が失敗したときは、一緒に闘ってくれたら、すごくうれしい」
ぎゅ、と唇を噛んだエォナが、僕の目の高さに屈んでくれる。
あのちっちゃかったエォナのほうが、ずっとおっきくなっただなんて、ジアの魔法は果てしなくチートだ。
「心配なんです、こんなにちいさいひめさまが、レトゥリアーレ殿とクロと一緒とはいえ、その、レトゥリアーレ殿もちっちゃいし……」
レリアが、ふんと胸を張る。
「ジア殿のおかげでちっちゃいが、力は同じだ」
高い声で宣言したレリアの周りに、一瞬で爆風が吹き荒れた。
飛ばされそうになったエォナが、あわあわクロにしがみついて、わたわた僕もクロにしがみついて、クロが
「ふぬぬぬぬ!」
踏ん張ってくれる。
「かわいー!」
びゅーびゅーする暴風のなか叫んだら
「えへへ」
クロのしっぽが、ぶんぶん揺れた。
「こんな感じで、私はつおい」
爆風を治め、ふんと胸を張るレリアの舌が、回ってない。
「レリア、かわいー!」
ぎゅむぎゅむ抱きしめたら、真っ赤になったレリアが背を抱いてくれた。
「……ルルのが、かわいー」
「りょーおもい!」
楽しそうにクロが僕とレリアの周りを回って、エォナは俯いた。
「……無事に帰ってきて、くださいますか?」
「きっと! エォナも、チチェと皆と、元気でね」
大きくなったエォナの手を握る。
ほんのり赤くなったエォナが、ようやく笑ってくれた。
「お気をつけて、ひめさま。危なくなったら、すぐ帰ってきてくださいね」
「ありがとう! 皆にもよろしくね!」
手を振った僕とレリアが、もふもふおっきくなってくれたクロに跨る。
「いっくよ──!」
クロの爆速が発動したら、ゼドのちっちゃな村は、あっという間に遠くなる。
「ひめさま──!」
エォナの後ろで、村の皆が、手を振ってくれる。
ジアの、ゼドの、キュトの、グィザの、風磨たんの、ネィアの、チチェの、魔山羊の皆の、獣人の皆の姿が、遠くなる。
「どうか、ご無事で──!」
ふわふわのクロの背で、大きく、大きく、手を振った。
エルフの隠れ里をクロと一緒に飛びだした時は、二度とこの里に足を踏み入れることはないと、さよならの手を振った。
でも今は、隣にレトゥリアーレがいて、僕と一緒にクロに乗っていて、ゼドのちっちゃな村に、必ず帰ると約束した。
世界一、むかつくモブだったはずなのに。
僕はなんて、しあわせなところに来たんだろう。
連れてきてくれたのは、クロだ。
皆だ。
レリアだ。
「ありがとう、クロ、レリア」
涙目で鼻を啜ったら、ちっちゃなレリアが抱きしめてくれる。
「ずっと、傍にいる」
高い声の囁きが、あまく、あまく、胸を揺らした。
爆速で駆けていたクロが、止まる。
「どこ、いくのー?」
…………………………。
解ってませんでした!
ぎゃあ!
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