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おまけのお話
しあわせの向こう 下
しおりを挟む「……夢じゃないかって毎日思うのは、私だ。
夢に見るんだ。ルルに憎まれ、怨まれ、ルルの剣に貫かれ、ルルを貫いて息絶える夢を」
レトゥリアーレの指が、ふるえる。
「『あなたが一番、憎かった』毎夜、ルルに告げられる」
「ごめんなさい」
抱きしめたら、レトゥリアーレのちいさな顔が、僕の髪に埋まる。
「私は、間違った。ルルを想っているなら、解らないから、壊してしまいそうだからと恐れて、誰かに世話を頼むべきじゃなかった。ルルが苦しんでいることさえ知らず、ルルを傷つけた。──二度も」
「僕がレリアに逢える喜びでつやつやだったから、解らなくて当然だよ」
笑う僕に、レトゥリアーレは首を振った。
「……ごめんなさい」
かすれる涙声に、僕はレリアを抱きしめる。
「僕の方こそ、心にもないことを言って傷つけて、ごめんなさい。
前のルルは、間違ったんだ。レリアの心に残りたくて、レリアに憶えていて欲しくて、だから『憎かった』って酷い嘘を」
僕を抱きしめるレリアの腕が、ふるえてる。
「……粉々に壊れて死んだ記憶が、離れない。
エルフを絶滅に導き、ルルに憎まれ、冤罪の魔王を斃し、生きたことが災厄だった私が、ほんとうの私なんだ」
「レリアは僕の、しあわせだった!」
蒼の瞳が、揺れる。
「傍にいられたら、鼓動が熱くて、胸がふるえて、泣きたくなるんだ。
あなたを、いつも、いつも思って。あなただけを想って。
僕は、今も、前も、しあわせでした」
背伸びした爪先で、そっと最愛に口づける。
重なるぬくもりが、あふれる気持ちを伝えてくれたらいい。
指をからめて、ぎゅ、と握る。
「あなたは、僕の、愛です」
燃える頬で、ささやいた。
ちいさなレリアのかんばせが、ぐしゃりと歪む。
泣きじゃくる、ちいさな子どもみたいなレリアを、抱きしめる。
「……やり、直したい。最初から。
都合のいい願いだって、解ってる。
でもちゃんと最初から、ルルのお世話をして、この手で慈しんで、育てて、愛したい」
ぎゅうぎゅう抱きしめられて
「気持ちだけで充分だよ」
笑った僕の服の裾を、クロが引っ張った。
「つれてきた!」
ぶんぶんクロの尻尾が振られてる。
後ろには、息子のラブシーンにちょっと赤い頬のジァルデとゼドが立っていた。
あわあわしてレリアと隣に並んだら、ジアの銀錫色の角が閃く。
「ほんとのろーは、1歳くらいだ。
戻ってみちゃう?」
ジアの銀錫の爪が輝いた。
キュアァアァアア──!
あふれる光に包まれた僕の身体が、縮んでく──!
「ふに──!」
わたわたする僕を、レリアの腕が抱きしめた。
「ルル……!」
ぎゅうぎゅう抱きしめてくれるレリアの涙に、頬が濡れる。
……1歳の幼児になっちゃった……!
「ふにぃいい──!」
ぐしぐし無く僕の言葉を、クロが通訳してくれる。
「ろー、よるは、おとなになりたい!」
胸を張って言ってくれた。
ジアとゼドが真っ赤になって、レリアが噴火してる。
「……やり直したい。
私の願いを、叶えてくれる……?」
うるうるの瞳でおねだりされたら
「あい」
ぎゅっとレリアをちっちゃな手で抱きしめるしか、できない。
「ルル──!」
ぎゅうぎゅう抱きしめてくれるのが最愛の推しだなんて、絶対、絶対夢だと思うのに。
夢だなんて、絶対、いやだ。
「わかった。夜は18歳な」
「合法、大事」
ジアとゼドがうむうむしてくれる。
「ありあ、と、おか、たま、おと、たま」
ぺちぺち掌でお礼をしたら、真っ赤になったジアとゼドが顔を覆った。
「ろーが、かわいー……!」
「伸び方、やめ!」
もふもふのゼドにまた言われたよ。
「わ、私の名を、呼んでくれる……?」
「れー、あ」
きゅ、とおっきくなったレリアの指を握る。
「はぁあぁう……!」
顔を覆ったレリアがうずくまる。
「はー、ちっちぇーなー、これだと敵意もあんま湧かねーかも!」
風磨が笑って
「おぉおお! これがひめの本当の姿か──!」
キュトたんが拝んでくれて
「ひめが赤ちゃんになった──!」
チチェとエォナが走ってきた。
「ふふん」
魔山羊のおかあさんがミルクをわけてくれる。
「ああ、だめだ、今度はゆっくり成長したいらしいから」
ジアに止められた魔山羊のおかあさんが、停止した。
しょんぼり肩の落ちる魔山羊のおかあさんを、お兄ちゃんとお父さんが慰めてる。
「おかーた、ありあ、と」
ぺちりと手をたたいたら、いつもの凛々しい顔がちょっと崩れたことなどなかったかのように、おごそかに頷いてくれた。
わちゃわちゃした騒ぎに、お昼寝をしてたグィザが起きてきて、ちっちゃくなった僕に琥珀の目をまるくしてる。
遊びに来たヴァツェーリヤも僕を覗きこんで笑った。
「孕ませる?」
「絶対だめ──!」
真っ青になったレリアが僕を抱きしめる。
ぽこりとグィザがヴァツェーリヤを『め!』して、涙目のレリアを僕の手がぺちぺちする。
「れー、あ、しゅき」
尖った耳の先まで真っ赤になったレリアが、頽れた。
というわけで、朝から夕方までは1歳、夜だけ18歳な暮らしが始まりました!
いやもう、夢でしょ。
ありえないでしょ。
思うけど、でもレリアが恥ずかしそうに、うれしそうに僕のお世話をしてくれるのが、めちゃくちゃめちゃめちゃめちゃめちゃめちゃめちゃ可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて可愛くて尊死しそうです。
お手洗いはひとりで行くよ。
一歳児でもそこは頑張るぜ! な僕は、結構優秀な一歳児だと思う。
お世話をしたかったらしいレリアはしょんぼりしてた。
ごめんね。
でもそこは譲れない!
夜は、日中全然喋れなかった分、いっぱい話すかと思ったら、いちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃしてるので、あんまり話してません。
「レリア」
ちゃんと発音できて、抱きしめられて、口づけられて、肌を、ぬくもりを重ねられるさいわいを、毎晩噛み締めてます。
しあわせすぎて、溶けそう!
レリアのさみしい夢が、なくなるように。
間違ったら何度でも、いつだって、生きてる限り、やり直せるように。
「いっぱい、いっぱい、しあわせになろうね」
微笑んだつもりが
「いぱー、いぱ、しーせ、なろー」
にこにこして、ちゅう、口づける。
尖った耳まで真っ赤になったレリアが、ぎゅうぎゅう僕を抱きしめてくれる。
「まちがーて、けん、かして、も、なかなお、しよーね」
こくこく頷いたレリアが、ぎゅうぎゅう僕を抱きしめた。
「きみだけを想う」
「れーあ、だいしゅき!」
ちっちゃな僕の笑顔が、レリアの傷を癒せたらいいな。
願う僕は、今日もちっちゃな手で最愛を抱きしめる。
泣いたレリアは何度も頷いて、僕を抱きしめてくれた。
夢の『憎んでた』さえ『愛してる』に変わるまで。
ずっと、ずっと、あなたの傍で、あなたを想う。
最期の夢じゃ、いやなんだ。
レリアをしあわせにするのは、僕だから。
──────────────
最後まで読んでくださって、ありがとうございました!
とても長い間、更新も全くなかったのに読んでくださる方がいらっしゃることを、とてもとてもうれしく思っています。
2年弱ぶりの更新だったのに、たくさんの方が読んでくださったみたいで、ほんとうに吃驚しました。
ご感想も、お気に入りも、いいねも、エールも、心からありがとうございます!
夢のようにうれしいです。
ありがとうございます!
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