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おまけのお話

風磨のつがい 下

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 ネィアが、獣人さんの子どもたちを紹介してくれたから。
 俺は、もふもふの獣人さんたちに、遊んでもらえるようになった。

「……ひとりじゃ、何にもできなかった」

 しょげる俺に、ネィアの胡桃の尻尾が揺れる。


「ひとり、なんでもできる、きっと、つまんない」

 きっと、ひとりで何でもできるのだろう、ちいさなふわふわの身体に漲る知力を
見つめて、ちいさく笑う。


「ネィア、つまんない?」

 ネィアは笑った。


「にいちゃ、ぼく、たすけてくれる。
 ぼく、しあわせ」

 やさしい笑みに、目を伏せる。


 あったかい家族とか。
 恋人とか。
 子どもとか。

 他の誰かの、しあわせを聞いて、胸が潰れる俺は、心がとても狭くて、
とても汚くて、とても、かなしい。

 とても、さみしい。


 握った俺の拳に、あったかい胡桃の前足が重なった。


「ぼく、いる」

 ちいさな前足が、抱きしめてくれる。


「ふまたん。
 ぼく、いるよ」


 ちいさな身体で、あふれる涙を、抱きしめてくれた。





 最初に見たものを、親と思って慕う雛の気持ちが、ほんのり解る。


 陰キャでコミュ障で、変わる勇気もない、努力もできない俺に、
最初にやさしくしてくれたのが、ネィアだった。


 ネィアのためなら。

 どんなことも、できるかもしれない。


 ちっちゃな前足に包まれて泣きながら、はじめて、思った。







 ルルは最終決戦に挑み、ちっちゃな勇者エォナと勇者兄チチェと俺は、
お留守番になった。

 何にもないことを祈ったけど、そんな甘い世界じゃなかった。

 ものすごく怖くて、もうほんとに真剣にちびったけど、俺にはチートがあるから。
 レトゥリアーレの本気の一撃さえ、俺は止められた。
 そこはちゃんと、主人公チートだった。


 俺にあるのは、チートだけ。

 HP1になっても、決して死なない、チートだけ。


 傷ついて、人型にもなれなくて、どこにもゆくところがない獣人さんたちを
守るために。

 ネィアを、守るために。

 何にもない俺に、やさしくしてくれたネィアを、守りたくて。


 吹き飛ばされても、吹っ飛ばされても、えげつない歪んだ闇のいかずちの前に
立った。


「ふまたん……!」

 ネィアが、後ろで泣いてくれたら。


 俺は、前に立てるよ。




 ズガアァアアアンンン――――――――!!

 襲い来るいかずちの前に立つなんて、狂気だけど。


 吹き飛ばされても、吹き飛ばされても、俺は死なない。

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになって、全身の感覚が無くなっても、HP1のままだ。

 どんなに歯を食い縛って頑張っても、俺にできることは、
闇のいかずちを止めるだけ。


 主人公のルルが来るまでの、時間稼ぎしか、できないけど。
 それが、俺の、せいいっぱいだけど。


 ドギャギャギャギャギャ――――――――!!!

 凄まじいいかずちに、視界は真っ白に霞み、すべての感覚が吹き飛んだ。

 見えない目で、動かない身体を、引きずった。



「皆を、ネィアを、絶対、守る!」


 叫んだら、ネィアは、泣いてくれた。

 いつもやさしい声を、悲鳴みたいな涙声にして、泣いてくれた。



 心から、俺のために、泣いてくれてる。

 ネィアの声が、ふるえてる。

 おっきな胡桃の瞳も、ふわふわの胡桃の尻尾も、今の俺には、見えないけど。

 ネィアが俺のために泣いてくれてるの、わかるよ。



 …………生きてて、よかった。



 さみしかった前世も。

 やっぱりさみしかった今世も。

 ネィアの涙に、ぜんぶ溶ける。




 ああ、俺は、ネィアを守るために、生まれてきたんだ。


 何にもない俺にも、やさしいネィアを守るために。





 めちゃくちゃちびったし、足はガクガクだし、情けなくて、かっこわるかった。
のに。

 誰も、俺を嗤わなくて。


「風磨たん、ありがとう」

 ルルは、泣いて、抱きしめてくれた。


「よくやった」

 レトゥリアーレが微笑んでくれる。


「ふまたん、ありがとー!」

 獣人の皆さんが、泣いてくれる。


「ふまたん……!」

 ネィアが、泣いてくれる。



 がんばれた俺のことを、皆がほめてくれる。
 喜んでくれる。

 それは、すごく、すごくうれしい。
 ありがとう。


 でも、でも。
 がんばれない俺を、抱きしめてくれたネィアが、いちばんすき。


「……ネィアたん」

 ぎゅうきゅう、抱きしめたら、ふわふわの前足で、ぎゅうぎゅう、
抱きしめてくれた。






 運命のつがい。

 俺に、いるのかどうか、わからない。



 でも、もし、いるのなら。

 胡桃のやさしい虎がいい。

 ふわふわの尻尾で涙をぬぐってくれる、ほわほわのちっちゃな前足で
抱きしめてくれる、ネィアたんがいいなと、思うんだ。













――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


読んでくださって、心からありがとうございます!

ふまたんはきっと、しあわせになります。


次はクロの番外編ですー!


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