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おまけのお話
風磨のつがい 上
しおりを挟むゲームが大すきだったのは、リアルがしょんぼりだったからだ。
顔はいまいち。
陰キャでコミュ障。
恋人なんて、できたことなかった。
そんな俺でもゲームのなかでは勇者になれる。
レベル上げさえできれば、ラスボスを倒せて、街の人に感謝してもらえる。
ゲームの中なら、俺はかっこよくて、やさしくて、頼りになる、
主人公になれる。
リアルでは、いるのか、いないのか、解らなくても。
ゲームの中でなら、主人公になれる。
だから俺は、ゲームが大すきで。
2次元の世界に、縋ってた。
青信号で、ちゃんと横断歩道を渡ってたのに、突っ込んできた車にぶっ飛ばされて、気づいたらゲームの世界の佐鳥風磨だった。
さらっさらの榛の髪に、きらきらの榛の瞳に、ちょっと古風な感じの学ランを
着た、びっくりするくらいかっこいー本物の主人公が、俺!!!
今度こそ、人生勝ったと思った。
顔はいまいち、陰キャでコミュ障の俺は、もういない!
主人公なら、ゲームの世界は、俺のものだ。
最愛のレトゥリアーレも、俺のものだ!!
大歓喜して飛んで行ったゾォガ帝国で、グィザのイベントは終了してて、帝城は
崩れ落ちてた。
俺の愛するレトゥリアーレの隣には、クソモブの、ルルがいた。
エルフを絶滅させ、レトゥリアーレを殺す、最悪なモブ。
なのに、ゲームで見た、陰気で真っ暗な翳はどこにもなくて。
透きとおる漆黒の瞳が、輝いた。
きらきら、してた。
まるで違う次元のきらめきを纏うようだった。
ひと目見た瞬間、解ったんだ。
ああ、この世界の主人公は、ルルだ。
俺じゃない。
俺は、ゲームの世界の主人公に転生してさえ、主人公になれない。
レトゥリアーレはルルだけを見て、ルルだけを愛する。
皆がルルを、ひめさまと慕う。
俺は、顔は物凄くよくなったけど。
やっぱり陰キャで、コミュ障で。
レベル上げとか、闘いとかも、怖くて。
隅っこで、膝を抱えるしかできなかった。
ルルと、ちょっと話したけど。
ルルも、陰キャでコミュ障で、ひとりぽっちだったらしい。
最愛がレトゥリアーレなところまで、そっくりだ。
ルルは、この世界に転生してすぐにエルフにいじめられて、殺されそうに
なったのに。
勇者の村の皆を救おうと鍛錬を重ね、剣を振り翳し、数多の命を背負い、
数多の命を救った。
ああ、主人公だ。
思った。
俺には、できない。
俺は、頑張ろうとすることさえできなくて。
隅っこで膝を抱えていたら、しましまの虎の尻尾が、ふわふわ揺れた。
「ふまたん、あそぶ?」
ちっちゃい虎!!
もふもふの虎!!!
胡桃色の瞳が俺を見あげて、首を傾げた。
細い髭が、ふわふわ揺れる。
「ほわあぁあああ!!」
間違いなく目を♡にして叫んだら、ほわほわの尻尾が揺れる。
「さ、さささささわって、い――?」
もだもだする俺を、気持ちわるいと言うことなく、ちっちゃな虎の獣人さんは、
頷いてくれた。
ふわふわだった。
もふもふだった。
あったかくて、やさしい匂いがする。
「――――……っ」
涙が、あふれた。
たぶん、異世界に来たこととか、主人公になったのに、主人公になれないこととか、ビビリで何にもできないこととかが、くやしくて、さみしくて、かなしくて、
ぐちゃぐちゃになったんだと思う。
ちいさな虎の獣人さんは、俺の頭を、ぽふぽふ、撫でてくれた。
「ふまたん、ふまたんで、いい」
胡桃色の前足は、あったかくて、やさしかった。
「…………俺は、主人公なのに。
陰キャで、コミュ障で……転生したって、何にも、変われない。
ルルは、あんなに変わったのに」
ぽろぽろ零れる涙を、ふわふわの尻尾が、拭ってくれる。
「かわれなくても、いい」
胡桃の瞳が、透きとおる。
「がんばって、がんばって、がんばってもだめなとき、おやすみ。
くるしくて、くるしくて、くるしくてたまらないとき、かわれなくて、いい。
はてのない、やみのそこも。
あなたのなかに、ひかり、ある」
幼い声が、胸に響く。
「…………きみは…………」
胡桃の瞳が、輝いた。
「ネィア。
グィザにいちゃ、おとと」
俺の頭をなでて、笑ってくれた。
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はじめましての方も、間隔が空いてるのにいつも見てくださる方も、
心からありがとうございます!
風磨たんのつがいが気になる、というご感想を幾つも戴いたので、風磨たんの
番外編をお持ちしました!
いつも見てくださる方、本当にありがとうございます!
応援ありがとうございます!
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