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じいちゃの愛

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 世界が、やさしい闇の光と、金の光に包まれる。

 輝きを増した世界に、皆の笑顔が、降ってくる。




 ジァルデが時空を切り裂いた、その向こうから


「ルル────!!」

 涙のレトゥリアーレが、僕を、抱きしめてくれる。





 死ななかった腕で

 レトゥリアーレを殺さなかった腕で


 最愛を、抱きしめた。









 ゼドのちっちゃな村に、闇の光と、金の光が、降り注ぐ。

 よみがえったエルフたちを抱きしめるように、精霊の樹が、やわらかに枝を伸ばした。


「ひめさま!」

「救いのひめさま!」

 勇者の村の皆の歓声に跳びあがった僕は、首を振る。


「僕の力じゃありません。
 クロと、レリアと、風磨、チチェ、エォナ、村の皆さんの力です」

 微笑む僕に、チチェとエォナが目を拭って、風磨は胸を張った後、あわあわした。


「ちょ、ちょっと着替えてきます──!!」

 前を隠しつつ走る風磨を、勇者の村の人は、誰も笑わなかった。


「ありがとな」

「泣いちゃったよ」

「ありがとう、風磨たん!」

 皆の笑顔に、目を見開いた風磨が泣きだして、チチェがぽふぽふ背を叩く。


「すげえ、かっこよかった。
 さすが、主人公だ」

「ほ、ほほほほんとに……!? やた!!」

 跳びあがって喜ぶ風磨がチチェに抱きついて、エォナの大きな栗色の瞳が吊りあがる。


「だめ!
 にいちゃは、僕のなんだから!」

 真っ赤な頬で叫ぶエォナに、皆の笑い声が降ってくる。








 ジァルデは久方ぶりに、絶海の孤島のおじいちゃんの家に里帰りした。
 僕とゼドも、お礼を言いについてゆく。

 藁ぶき屋根のちいさなお家が、僕とゼドとジァルデを迎えてくれた。


「ジァルデ……!!」

 しわの頬を涙に濡らして、おじいちゃんがジァルデを抱きしめる。

 ジァルデの瞳から零れる涙が、おじいちゃんの頬に滴った。


「……俺を、ずっと、見守ってくれて。
 命を削ってまで、たすけてくれて、ありがとう……じいちゃ」

 白く濁りゆく瞳が、歪んだ。

 声をあげて、ヨァトォは泣いた。


「何も、できんかった。
 苦しむジァルデに、何も…………!!」

 ジァルデの腕が、腰の曲がったちいさな身体を抱きしめる。 


「……じいちゃは、長だから。
 時魔を、守らなきゃだから。
 俺のせいで、かあちゃは死んで、そのせいで、とうちゃも死んだ。
 じいちゃの最愛の孫を、俺は、ふたりも殺した。
 なのに、じいちゃは、俺を愛してくれた。
 時魔の皆が、俺を殺そうとしたのに。
 じいちゃが、俺を守って。外界に逃がしてくれた」

 柘榴の瞳で、銀煤の角をきらめかせて、涙の瞳で、ジァルデが微笑む。


「ぜんぶ、視えたよ。
 時魔だから」

 ヨァトォの瞳が、揺れた。


「はぐれエルフを屠ったズァビエが力をつけて、じいちゃの力を超えて、俺を攫った。
 じいちゃが何度も俺をたすけようとしてくれたこと、ズァビエを何とか止めようと頑張ってくれたことも、視えた」

 しわの拳が、握られる。


「……力が、及ばなかった」

 悔しい涙に濡れる頬を、ジァルデの腕が、抱きしめる。


「じいちゃは、力の限り、頑張ってくれた。
 ……かあちゃが、俺を愛してくれたことも。
 とうちゃが、俺を怨まず、愛してくれたことも。
 ぜんぶ、視えた。
 だから俺は、歪まなかった」


 ジァルデが、微笑む。


「時魔に生まれて、よかった。
 じいちゃのひ孫に生まれて、よかった。
 俺を、守ってくれて、愛してくれて、ありがとう、じいちゃ」


 涙の瞳で、ジァルデがおじいちゃんを抱きしめる。

 あふれる涙で、おじいちゃんはジァルデを抱きしめた。


「……ジアを守ってくれて、ありがとう」

 ゼドが深々、頭をさげる。


「命を削ってたすけてくださって、ありがとうございました」

 僕も一緒に、頭をさげた。


「ジァルデを泣かせてみろ。
 殺してやるからな……!!」

 しわの拳を振り翳す涙のおじいちゃんに、ゼドは真っ赤になって、わたわたした。


「あ、あのあのあの、気持ちよくて死んじゃいそうになって、泣いちゃうのは……??」


 耳まで真っ赤になったジァルデが

「ぎゃあああ!!」

 叫んで

「たたたたたたたわけ──────!!!」

 おじいちゃんが噴火して、

「きゃ────!」

 僕の頬まで熱くなった。


 う、うん。
 ゼド、めちゃくちゃおっきくて、香油の効果もあって、めちゃくちゃ気持ちよさそうだからね!
 ジア、泣いて死んじゃいそうになっちゃうよね!

 ふぁあああ!
 そ、想像したら鼻血出る!!

「こら!」

 僕の頭のなかが見えたみたい。
 真っ赤なジァルデに『め!』された僕は、あわあわ笑った。



「ジアを、世界でいちばん、しあわせにする」

 もふもふの拳を握るゼドに、おじいちゃんは、白い眉を吊りあげる。


「当たり前だ!!」

 角まで真っ赤なジァルデを、おじいちゃんの腕が、抱きしめる。



「今まで苦しかったぶん、辛かったぶん、うんと、しあわせにおなり」

 涙の瞳で微笑むおじいちゃんに、ジァルデが微笑む。



「じいちゃのひ孫で、俺は、ずっと、しあわせだよ。
 これからも、ずっと」


 しわの頬を、涙が伝い落ちて、ジァルデの腕が、抱きしめた。










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