93 / 130
皆で、守る!
しおりを挟む勇者の村の人たちは、すんごかった。
ご老体も、ちっちゃな子も、殆どがチチェと一緒に走って来た。
さすがエルフの血をひく、魔法が使えて、勇者を輩出する村の人たちだ。
覗き込んでいたジァルデと一緒に、僕も仰け反る。
4次元は、時が止まってるからね。
過去をのんびり見ていても、今は大丈夫!
怪我をしていたり、病気だったり、どうしても走りたくない人たちだけを、エォナがよたよた転移させてくれる。
一緒に帰って来た風磨は、泣いてた。
『めちゃくちゃ酔った』
村の人たちも、げえげえしてた。
『いやでも、転移できたから!
エォナ、すごい!』
チチェに手放しで褒められたエォナは、ちいさな頬を真っ赤にして、とろけて笑った。
『よっしゃ!
じゃあ、避難訓練しとこう!
たぶん、何か、すげーのが来るから、来たら皆で速攻で、キュトたんの家のなかに退避!』
拳を掲げる風磨に、エォナも頷く。
『キュトたんが、入る人に応じて広がる家にしてくれています。
この家から、あまり離れないでください。
何か来たらすぐ家に入って。できたら、家から出ないで』
エォナの言葉に、勇者の村の人たちは緊張の眉で頷いた。
『なんか、きた?』
獣人さんが顔を覗かせて、チチェとエォナが、村の人を獣人さんに紹介する。
『ほええ! 獣人さんだ!』
『すげえ!』
『これ、精霊の樹か!?』
『精霊の泉か!?』
『ほぁあああ!』
『すげえ!!』
あんぐり口を開けた勇者の村の人たちは、感動が落ち着くと、皆でキュトの家のなかに戻った。
息をひそめる。
攻撃に、備えた時だった。
ズガァアアアァァアンンンン──────!!!
爆音と衝撃が、轟いた。
『ぎゃあぁあああ!!』
家のなかの皆が、跳びあがる。
世界最高峰、伝説の魔導士キュトの、渾身の魔法防御さえも揺るがせる攻撃に、風磨の目から涙が溢れた。
『こ、こここここわ……!!
ひぃいいい!!』
泣きながら、風磨がステータス画面を確認する。
スキル即死回避Lv99
風磨の目が、文字を何度も確かめた。
『み、みみみみみんな、おおお俺の後ろに────!!』
風磨は、ぶるぶる震えてる。
涙目で、たぶん股間も湿り気味だ。
でも泣きながら、風磨はキュトの家の前に立った。
『俺が、絶対、絶対、防いでやるんだから────!!』
皆を守るように腕を広げる風磨を、歪んだ闇のいかずちが襲う。
ドガギャギャギャギギギギギ──────!!
凄まじい衝撃と、耳を劈く爆音に泣く、Lv1の風磨は、死なない。
『お、おおおお俺は……お、俺は、主人公だ!!
み、みみみみ皆を、絶対、絶対、守る…………!!』
風磨の身体を取り巻くように、金の光が、舞いあがる。
風磨が翳す人さし指が、
ズガァアァアアンンンン──────!!
風磨目掛けて落ちるいかずちを、止めた。
雷撃に逆立つ髪で、泣きながら、風磨が叫ぶ。
『めちゃくちゃちびった────!!』
息をのんでいた皆が、吹きだして笑って。
チチェが風磨の隣に、並び立つ。
『だめだ、出るな────!!』
止める風磨の隣で、チチェの身体から、金の光が舞いあがる。
栗色の髪は、金の髪に。
栗色の瞳は、金の瞳に。
勇者の色をまとい、輝いた。
『俺も、闘う。
皆を、俺を、エォナを守るために』
拳を掲げるチチェを守るように、エォナがチチェの前に出た。
『僕も、闘う。
皆を、にいちゃを、守るために』
栗色の髪は、金の髪に。
栗色の瞳は、金の瞳に。
ちいさな身体から、勇者の力、金の光が噴きあがる。
『お、俺らも、闘う!』
『やってやらあ!』
『いくぞ、皆!』
勇者の村の人たちの身体から、金の光が舞いあがる。
ゴアァアアオオォオオオンンン──────!!
突き刺さる歪んだ闇のいかずちを、皆の身体から舞いあがる金の光が、止めた。
『僕たちが、未来を、変える────!!』
キュアァアアォォオ────!!
エォナが翳す手から噴く金の光が、歪んだ闇を、貫いた。
390
お気に入りに追加
2,998
あなたにおすすめの小説
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結】ここで会ったが、十年目。
N2O
BL
帝国の第二皇子×不思議な力を持つ一族の長の息子(治癒術特化)
我が道を突き進む攻めに、ぶん回される受けのはなし。
(追記5/14 : お互いぶん回してますね。)
Special thanks
illustration by おのつく 様
X(旧Twitter) @__oc_t
※ご都合主義です。あしからず。
※素人作品です。ゆっくりと、温かな目でご覧ください。
※◎は視点が変わります。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する
135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。
現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。
最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!
タッター
BL
ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。
自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。
――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。
そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように――
「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」
「無理。邪魔」
「ガーン!」
とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。
「……その子、生きてるっすか?」
「……ああ」
◆◆◆
溺愛攻め
×
明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる