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愛?
しおりを挟む涙と愛の世界だったのに、風磨に思いきりぶち壊されて、あんぐり口を開ける
チチェの隣で、気配で解っていたのだろうエォナが吐息する。
『あまりよい趣味ではないですよ、風磨たん』
愛らしい栗色の瞳で睨まれた風磨は、ふんと鼻を鳴らした。
『緊急事態だ!
チチェとエォナが勇者の村に行っちゃったら、獣人さんたちを守るのは俺だけ
じゃんか!
無理無理無理無理――――!!
いやだ――――!! 行かないで――――!!
って俺が泣いたら困るだろ?』
にやりと風磨が唇の端をあげる。
『全く困らず、にいちゃと村に帰ります』
エォナの断言に、風磨が泣いた。
『ち、ちっちゃい勇者が、酷過ぎる――――!!』
『まあ、本音がちょっとな』
チチェの頷きに、風磨は更に仰け反った。
『兄もひでえ!!』
ぐすぐす泣いた風磨は、鼻を啜った。
『お、俺さ、レベル1で、役立たずだけどさ、でも、主人公だから、
チートあるんだ。
スキル即死回避Lv99。
俺は、どんな攻撃を喰らっても、絶対に即死しない。
だから、どんなえぐい攻撃でも、俺が止められる』
チチェと顔を見合わせたエォナは、頷いた。
『矢面に立ってくださると』
『いやだあぁああ――――!
こ――――わ――――い――――!!』
泣きじゃくる風磨に、エォナの冷たい視線が降って、チチェはぽふぽふ風磨の背を叩いてあげた。
『って言いたいけど、言ったらだめなのは、わかってる。
絶対漏らしそうだけど、お、俺、頑張るから』
うるうるの涙目で、風磨はふるえる拳を握った。
『キュトたんの家には、魔道具がいっぱい詰まってる。
魔法防御も掛けてくれてて、空間拡張もしてくれてる。
更に、攻撃を喰らった時は、キュトたんに通報までできる!
だから、勇者の村の人たち皆を、キュトたん家に呼ぼう!』
チチェが拍手して、エォナの栗色の瞳が細くなる。
『どうやって?』
『え、俺、走って来たぞ』
きょとんとチチェが首を傾げて、エォナは深く頷いた。
『にいちゃは勇者だから!』
真っ赤になるチチェに、風磨は首を傾げた。
『あれ? ふたりともルル狙いだと思ってたのに、さっきので愛、
育まれちゃった?』
によによする風磨に、ちいさなエォナが噴火した。
『配慮!!』
真っ赤な顔でエォナが叫んで、畑仕事でごつごつになったチチェ手が、エォナの
ちいさな頭をかき混ぜた。
『俺は生まれた時からずーっと、エォナを愛してる』
直球に、深紅に染まったエォナが、しゅーしゅー湯気を噴く。
『……ぼ……僕も、にいちゃを、ずっと……あ、愛して、……る』
ぽそぽそ呟く耳まで真っ赤なエォナを、チチェの腕が抱きしめた。
『相思相愛だな!』
『いやいやいや、俺もいるから!
ふたりの世界にならないで!!
今、作戦会議!!』
ちょっと赤くなった風磨が腕を振り回して、真っ赤なエォナはチチェの腕のなかで、もごもご頷いた。
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