最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい！

闇の光

　僕は、レトゥリアーレを、愛してる。

　おんなじくらいの気持ちで、誰からも忌まれ、呪われ、避けられる闇を、
愛したい。



　僕がクロの愛し子に選ばれたのは

　僕が、闇を愛せるからだと思う。



　ずっとひとりぽっちだった僕は、絶望を、さみしさを、努力が報われないことを、知ってる。


　ずっと厭で、哀しくて、避けてきたけど。

　隅っこで、膝を抱えた僕の闇は、いつだって、抱きしめられるのを、
待っていたんだね。



　愛せる自信が、ついたから。

　愛される自信が、ついたから。


　やっと僕も、僕の闇を、愛せるよ。



　情けなくて、みっともなくて、厭らしくて、切って捨てたい僕の闇を

　抱きしめてあげられるのは、僕だけだ。




　絶望を叫ぶ闇を、抱きしめる。

　ズァビエの、ルルの、僕の絶望を、抱きしめる。


　噴きあがる歪んだ闇が、伝説の魔導士が造ってくれた部屋を、吹き飛ばした。



「ひめ――！！」

「ろ――！！」

「ルル――――！！」


　皆の悲鳴が、遠くで聞こえる。


　手足の指先まで、冷たい憎しみで凍えさせる闇を、抱きしめる。



　キュトのおじいちゃんは、もがき、あがき、苦しみ、生きろと言ってくれた。




　僕は、もがいて、あがいて、愛して、生きたい。


　どんなくるしみも、きっと、愛に変わるから。




「泣かないで」

　果てのない絶望を、抱きしめる。



　僕の最奥に、漆黒の光が、ひらめいた。

　ちいさな光が、歪んでしまった闇をなぐさめるように、ひらひら舞う。



　ああ、わかる。

　これが、クロの、光だ。



　やさしい闇があるなんて、誰にも信じてもらえなくて、力を失い、ちいさな犬に
なるのが精いっぱいだった、闇の光だ。

　闇の魔力をすべて捧げ、魂を捧げて祈った、最期のルルの、希望の光だ。



　だから、最初から、ずっと、クロは傍にいてくれた。

　魔山羊のお母さんのミルクで魔力を回復して、話せるようになって、
大きくなって。



　いつも、いつも、僕の傍で

　ずっと、僕を、護ってくれた、光だ。




　モブガードじゃない。


　僕は、ずっと、クロに護られていたんだね。





　闇の光を唇にのせ、精霊の樹が教えてくれた歌を、歌う。

　世界の理さえ覆す、失われた命さえ蘇らせる、愛の歌を。



　膨れあがった、歪んだ闇が、揺れる。

　ちらちらきらめく漆黒の光が、おおきく、あたたかく、広がってゆく。



　深淵を照らし、痛みを、くるしみを、涙を、絶望を慰める光が、闇を包んだ。



　歪んだ闇が、軋む。


　僕がレトゥリアーレを殺した時のために、精霊の樹にお願いして
分けてもらった金の葉が、舞いあがる。

　切り離されたズァビエの首と身体に、ズァビエのお腹のなかに、金の光が、
降り注ぐ。


　ぎゅ、と唇を噛んだジァルデが、ズァビエの首と身体を、くっつけた。

　ぎゅう、と眉を顰めたゼドは、ズァビエのお腹で光る、エルフたちの心臓を
取り出した。




　哀しい絶望に、穏やかな闇の安らぎを



　くるしく終わった命に、もう一度、光を