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伝説、光臨

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 悲鳴と、涙で、抱きしめられたときだった。


「ほうほう、これはこれは。
 ぴーんち! じゃの」

 ほっほっほ。


 突然現れた、笑うおじいちゃんに、皆が固まった。



「は!?」

 え、レトゥリアーレさま、キレないで!


「じいちゃん!」

 キュトの言葉に、グィザが目を瞠る。


 死にかけな僕は、消えそうな記憶を探索する。

 キュトのおじいちゃん = 伝説のえっち魔導士だ!!


 おじいちゃんのおかげで、この世界は、どんな種族の者とも、どんなジェンダーの者とも愛しあえて、子どもができる世界になった。

 伝説の、愛の魔導士だ。


「じいちゃん、どうやって4次元に……」


「そこなひめが、ズァビエの造った檻を、壊した。
 ボロボロな闇の世界は、隙間だらけよ」

 魔法使いな、ぽっこり頭が膨らんだ杖を掲げて、おじいちゃんが微笑む。


「久しいな、キュト」

 大きなしわの手が、キュトの頭を撫でる。
 キュトの大きな紫紺の瞳が、泣きだしそうに揺れた。


「貴殿のおかげで、ジァルデは守られた。
 心より、感謝する」

 ゼドが、頭をさげる。
 ジァルデも一緒に、頭をさげた。


「ほほ。
 そなたを守るは、世界を守ること。
 そこなひめをたすけるは、世界を変えること」


 ひめじゃないです。

 訂正する元気は、なかった。


 おじいちゃんの皺の手が、僕の手を握る。


「儂はのう、長いこと生きておる。
 時の流れを長いこと見ていると、時の先が視えることもある。
 ひめが死ねば、レトゥリアーレも死ぬ。
 後を追うように衰弱し、ほどなく息絶える」


 微かに目を瞠ったレトゥリアーレは、微笑んだ。

 きっと、ジアの、お父さんと同じ。
 失くした最愛を追うように、息絶えてしまう者の、瞳だった。


 しゃがれた声が、告げる。



「そなたは、レトゥリアーレを、守れない」



 響く声に、指が、ふるえた。




「そなたこそが、レトゥリアーレを、殺す者」



 光の失せた僕の目から、涙が落ちた。



「ぼ、く……レ、リ……ア、に……生き……て……」


 僕を抱いたレトゥリアーレが、首を振る。



「すぐ、傍にゆく。
 生きるときも、死出の路も、きっと、ともに」



 レトゥリアーレの唇が、僕の唇にふれる。

 涙と、血の香りのする、死のくちづけが、僕の初めてのキスだなんて。



「…………レ、リア…………」


 僕が、あなたを、殺してしまう。


 ……変える、には……

 …………ああ…………もう…………意識……が……白、に…………



「世界を、守るも。
 世界を、変えるも。
 愛だ」


 おじいちゃんは、微笑んだ。


「そなたに、命を。
 そなたに、愛を」


 おじいちゃんの指が、血を溢れさせる僕の胸に、触れる。
 あふれる銀の光が、僕の血を止めてゆく。


「だ、め──……!」

 伸ばした僕の手を、レトゥリアーレの手が握る。



「ズァビエがその身に宿したは、歪められた闇の力。
 愛を捻じ曲げ、この世界を動かす力。
 エルフを滅ぼし、ひめを、レトゥリアーレを、魔王を、ジァルデを殺す力」


 おじいちゃんの銀に輝く指が、僕の額に、レトゥリアーレの、ゼドの、ジァルデの額に触れる。

 クロを見つめたおじいちゃんは、微笑んで、クロの額に触れた。



「救うのは、愛だ」


 銀に輝く杖を、おじいちゃんが掲げる。

 異空間に、銀に輝く扉が、現れた。



「めちゃくちゃ営め!」



 …………………………。


 …………あの、僕、瀕死なんですけど。


 僕、見た目16歳くらいだけど、今世は生まれたばっかりなんですけど。
 1歳にもなってないよ!
 でも中身は42歳です!
 …………合法…………?


「それ、R指定にするために、無理矢理捻じ込んだんじゃ──!」

「予定調和という」

 おじいちゃんは、親指を立てた。


「そこなエルフの長の精液は、光の魔力の塊だ。
 闇の申し子のそなたに注げば、道が見えるやもしれぬ」

 しわのかんばせで、微笑んでくれる。

 いやあの、言ってることは……きゃあぁああ────!!


「儂特製の香油を授けよう。
 そこの馬並でも、はじめてでも痛くない、伝説の香油じゃ!」


 指されたレトゥリアーレの尖った耳が、赤くなる。

 ゼドとジァルデも、赤くなった。

 キュトが納得したように、ジァルデのちいさなお尻を見つめて、頷いた。


 ──使ったんだね、わかりました。




「愛しあい、愛が溢れて、芯から生きたいと願うなら。
 それが、ふたりともになら。
 きっと、未来は拓きゆく」


 皺の手が、僕の頭を撫でてくれる。



「その先に待つのが、死でも。
 愛しあった記憶を胸に、旅立てる」


 僕は、おじいちゃんの手を握った。



「僕が、動けるようになったら……レトゥリアーレさまを、殺すんじゃ──」


「抑えるのは、そなただ」


 僕は、唇を噛む。




「死で、終わらせるな。
 もがき、あがき、苦しみ、生きろ」



 微笑んだおじいちゃんが、消えてゆく。



 僕の手のなかには、伝説の香油が残された。









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