最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい！

最愛の涙は、僕のしあわせ

　僕は、レトゥリアーレさまが、大すきなんだ。

　できたら、ずっと、お傍にいたい。



　レトゥリアーレさまが、生きて、笑ってくれるなら

　僕は、何だって、する。




　なのに。

　僕が、レトゥリアーレさまに、剣を向けてるとか、嘘でしょう。



　僕のなかから、歪んだ闇の力が、噴きあがる。

　真っ暗な、冷たい塊が、僕の身体を操るように、突き動かした。



　身体が、動かない。

　心が、動かない。


　硝子の向こうを見るように、届かないところで、僕の身体が、動いてく。



「ルル――――！！」

　振りかぶる僕の刃を、レトゥリアーレの剣が止める。


「ひめさま！」

　僕を止めようとしてくれるグィザを、僕の蹴りが弾き飛ばした。


「ひめ！！」

　キュトが僕を拘束する結界を、闇の魔剣が叩き斬る。


「ろー！！」

　ゼドも僕を止めてくれるのに、特訓し過ぎて、ゼドの攻撃が全部見える。


　躱した僕は、最愛のレトゥリアーレに、剣を振りかぶる。




　僕の、身体は、僕の思うとおりに、ちっとも動いてくれないのに。


　僕の目から、涙が、溢れた。


　レトゥリアーレの指が、僕の涙にふれる。



「……ともに、死ぬはずだった。
　来世も、どうか、ともに」


　レトゥリアーレの手から、剣が落ちる。

　人形の僕さえ抱きしめるように、レトゥリアーレが、腕を広げた。



　僕の刃が、レトゥリアーレの胸を刺す瞬間、


「ろ――！！」

　クロが僕に、思いきり体当たりしてくれた。

　吹き飛んだ僕は、クロにまで刃を向ける。



『死すべき者に、死を』


　頭のなかで、おぞましい声が、谺する。




　僕の唯一の、ともだちの、クロ。

　僕の最愛、レトゥリアーレさま。



　殺すなんて、絶対、しない。


　そのために、僕は、転生したんだから。




　僕を人形のように動かす、歪んだ闇の力を砕くように、命の光が、あふれゆく。

　僕の祈りが、僕の命が、金の光となって、立ち昇る。



　自由を失くした手が、一瞬怯んだ瞬間。



　僕の胸に、闇の刃を突き立てた。





「ルル――――！！」


　レトゥリアーレの悲鳴が、聞こえる。

　僕の頬に、レトゥリアーレの涙が、落ちた。


「……泣か……な、で……」


「蘇りを――！」

　叫ぶレトゥリアーレに、かすかに首を振った。


「僕が……生き、たら……また……レト、アーレさ、ま……殺そ……と、する。
　だ、から……僕、は……この、まま……」


　ごぼりと、口から、血が溢れた。
　噎せ返る血の匂いに、目が眩む。


「僕、に……レ、……リ……ア……殺さ……せ、な……で……」


　僕を癒そうとしていたレトゥリアーレの手が、止まった。

　癒しの光を湛えたキュトの手が、落ちる。





　レトゥリアーレさま。



　あなたを殺して、ルルは死んだ。


　あなたを生かして、ルルと僕は、死ぬ。




　ルルが、掴みたかった未来を、僕は、一緒に掴んだよ。




　レトゥリアーレの胸で、レトゥリアーレの手を握って、僕は死ぬ。


　レトゥリアーレの涙が、うれしい。

　僕のために、泣いてくれる。


　それだけで僕は、鼻歌と一緒に、死出の路を歩くから。



　泣かせて、ごめんなさい。

　でも、僕は、レトゥリアーレが生きてくれて、うれしい。



　レトゥリアーレの指を握る手から、力が抜ける。


　レトゥリアーレを見つめる目から、光が、消えてゆく。



「ルル――――！！」



　悲鳴と、涙で、抱きしめられたときだった。





「ほうほう、これはこれは。
　ぴーんち！　じゃの」


　ほっほっほ。


　突然現れた、笑うおじいちゃんに、皆が固まった。