【完結】最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい!

  *  

文字の大きさ
上 下
70 / 130

愛の果て

しおりを挟む



「……ジァルデは、儂のひ孫だ。
 儂の孫たちの、可愛い子だ。
 何とか、守ってやりたかったが……守っては、やれなんだ」

 ヨァトォの言葉が、落ちる。


「……守ろうと、してくださったんですね」

 ふるえる僕の言葉に、ヨァトォは首を振った。


「──生まれたばかりでも、ジァルデは輝くように麗しかった。
 見ているだけで、魂を抜かれるようだった。
 血が濃い時魔は、いつもそうだ。
 凄まじい力と、凄まじい麗しさを誇る。
 だから我らは、禁忌とする。
 争いを封じるために」


 ヨァトォのしゃがれた声が、静かに落ちる。


「なのに、ジァルデは生まれてしまった。
 時魔の一族が、ジァルデを巡って争いになることが、生まれた瞬間に視えるような子だった。
 ここは、絶海の孤島。
 時魔が無事に生きてゆきたいなら、誰も出てゆくことは、できない。
 ジァルデが騒乱の種となるのが視えていて、置いておくことは、できなかった」


 漆黒のゼドの瞳が、歪む。


「我らは同族殺しを禁じている。
 よってジァルデは、外界に捨てられた。
 すみやかな死を願って」


 僕は、唇を噛み締めた。






 ジァルデは、愛されて、望まれて生まれてきたのに、捨てられた。

 僕は、望まれずに生まれてきて、捨てられた。


 いや、僕を産んでくれた母にも、何か事情があったかもしれない。

 暴行を受けて、中絶できなかった子なのかもしれない。
 愛されて生まれるはずだったのに、黒目黒髪、悪魔の子、災厄を呼ぶから、捨てられたのかもしれない。

 もしかしたら、悪魔の子として殺されるはずだった僕を、懸命にたすけようとして、僕を人界の端、エルフの隠れ里の近くに捨てたのかもしれない。


 ジァルデの両親の愛に触れて初めて、僕は、母を、父を想った。

 前世の記憶が大きすぎて、赤ちゃんだった今世の記憶が少なすぎて、悪魔の子として、捨てられたから。
 僕が生まれてきたのは、母と、父のおかげなのに。

 感謝することなんて、一度もなかった。


 僕が産まれた時、お母さんは、痛みに苦しみ、血を流した。
 それでも、僕を、産んでくれた。

 なのに、僕は、ちっとも、母を、思わなかった。


 握りしめた指が、ふるえる。


 
 僕も、ジァルデも、捨てられた。

 それはきっと、僕が負うべきもので、ジァルデが負うべきものだ。



 誰を怨んでも、自分が傷つくだけ。

 自分が、哀しいだけ。
 自分が、醜く歪んでゆくだけ。

 怨みも、呪いも、誰にも届くことなく、自らに降り積もり、自らを穢してく。



 わかっているのに、ジァルデの哀しい過去は、心が裂ける。

 とても、愛されて、望まれて生まれてきたジァルデだから、尚更。




 涙を拭った僕は、顔をあげる。

 ヨァトォは、目を伏せた。


「ジァルデを外に出したは、間違いだったとは、思わぬ。
 逃げ場のないこの孤島にジァルデが居たなら、もっと陰惨な目に遭っただろう。
 誰もがジァルデを望み、争い、時魔はもう滅んでいたやもしれぬ」


 組まれた皺の手が、かすかに震えた。


「──ジァルデを見た従兄が、外界に捨てられたジァルデを追いかけた。
 ひと目で、生涯を奪うような子だった」

 ヨァトォの声が、落ちる。


「暗い欲望とともに溺愛され、さらに輝かしくなったジァルデを、真っ黒な獅子が攫った。
 残された従兄は、おかしくなった。
 ジァルデを取り戻すために、エルフの血を啜り、魔王を超えると」


 レトゥリアーレの指が、震えた。


「ズァビエは、長い時をかけ、隠れ里を出たエルフを屠り、力をつけた。
 行方不明となったエルフの多くは、おそらく、ズァビエが。
 魔物軍を動かし、勇者の村を襲わせ、エルフの里を襲わせ、魔王を殺し、魔王を超えようとした」


 ヨァトォの老いに白く濁る瞳が、レトゥリアーレを見つめる。


「我らは、ズァビエを止められなかった。
 我らの同族が、エルフの一族に与えた苦しみと血を、衷心よりお詫びする」


 レトゥリアーレは、唇を噛んだ。


「──……エルフの長として、時魔の長の謝罪を受ける。
 けれど、殺されたエルフは、ノェスは、かえらない」


 ヨァトォは、頷いた。


 ただ深く、頭を下げた。









しおりを挟む
感想 187

あなたにおすすめの小説

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない

Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。 かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。 後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。 群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って…… 冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。 表紙は友人絵師kouma.作です♪

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

断罪された悪役側婿ですが、氷狼の騎士様に溺愛されています

深凪雪花
BL
 リフォルジア国王の側婿となるも、後宮の秩序を乱した罪で、リフルォジア国王の側近騎士ローレンスに降婿させられる悪役側婿『リアム・アーノルド』に転生した俺こと笹川望。  ローレンスには冷遇され続け、果てには行方をくらまされるというざまぁ展開が待っているキャラだが、ノンケの俺にとってはその方が都合がいい。  というわけで冷遇婿ライフを満喫しようとするが、何故か優しくなり始めたローレンスにまだ国王陛下を慕っているという設定で接していたら、「俺がその想いを忘れさせる」と強引に抱かれるようになってしまい……? ※★は性描写ありです。

推しのために、モブの俺は悪役令息に成り代わることに決めました!

華抹茶
BL
ある日突然、超強火のオタクだった前世の記憶が蘇った伯爵令息のエルバート。しかも今の自分は大好きだったBLゲームのモブだと気が付いた彼は、このままだと最推しの悪役令息が不幸な未来を迎えることも思い出す。そこで最推しに代わって自分が悪役令息になるためエルバートは猛勉強してゲームの舞台となる学園に入学し、悪役令息として振舞い始める。その結果、主人公やメインキャラクター達には目の敵にされ嫌われ生活を送る彼だけど、何故か最推しだけはエルバートに接近してきて――クールビューティ公爵令息と猪突猛進モブのハイテンションコミカルBLファンタジー!

処理中です...