64 / 117
虹の光
しおりを挟む虹の光が、空を舞う。
ピュ――イ――――!
虹の翼をきらめかせ、はるかあなたで竜が飛んだ。
「竜だ――――――!!!」
跳びあがって喜ぶ僕と一緒に、クロもぶんぶん尻尾を振った。
「りゅーうー!」
跳ねるクロと僕と竜に、琥珀の目を輝かせたグィザが、僕を抱えなおしてくれる。
「ひめさま、離れる、死ぬ」
「わわわ、ごめんなさい!」
ぎゅう、とグィザに引っついたら、真っ赤になったグィザが頷いてくれた。
ピュ――イ――イ――――?
竜の声に、グィザが応える。
声は歌のように、やさしく春の野を揺らした。
緑の山を彩るように、白、山吹、薄紅、ちいさな春の花が風に揺れる。
見あげる頂には、雪の白がきらめいた。
虹の翼は、春の緑、こぼれる花、空の青、凍える雪、すべてを透かし、
光を放つ。
グィザにくっついたまま、クロの背から降りた僕は、おもわず、うやうやしく
頭をさげた。
輝ける威光に、自然と頭がさがる。
僕の頭に、ぽふりと何かが乗った。
グィザの手かな、と思って、顔をあげたら、僕と同じくらいの大きさの虹の竜が、虹の瞳を輝かせて僕を見つめた。
「ピュ――イィ――!!」
ほんのり赤い頬で、うれしそうに鳴いてくれる。
翼につながる虹の鉤爪を握ろうとしたら、グィザが阻んだ。
「結ばれる」
僕は、首を傾げる。
「誰と、誰が?」
「ひめさま、竜」
跳びあがった僕は、ぶんぶん首を振った。
「だ、だだだだめです――――!
た、たたた大変光栄で勿体なくうれしく存じますが、ぼ、僕には心から愛する方ががががが――――!」
あわあわする僕に、虹の竜がしょげた。
「ぴゅーいー」
「ご、ごごごごめんなさい!!
でもあの、おともだちなら!!」
グィザが、僕の言葉を隣で通訳してくれる。
「ぴゅーいー」
きゅるんとした虹の瞳で、おねだりされる。
つい、うんって言いたくなるくらい可愛いよ!!
「孕ませたい」
通訳に、仰け反って倒れ込みそうになったのを、慌てて止めた。
「だめです――――!!!」
全力で叫んだ。
「ピュ――イィ――!!」
ふん! と怒ったみたいに吐き出された鼻息で、吹っ飛んだ僕を、一瞬で駆けた
クロが受けとめてくれた。
吹き飛んだ僕に、びっくりしたみたいに翼を広げた竜が、とてとて歩いてきて
くれる。
人間は、竜に比べたら、弱っちくて軽いからね。
鼻息で吹き飛んだよ。
飛ぶのはあんなになめらかで雅やかなのに、竜は、歩くのは不慣れらしい。
愛らしい歩き方に、クロと一緒に笑って、手を広げたら、僕の腕のなかに
駆けてきた竜が、僕の頬にすりすりした。
え――!
か――わ――い――い――♡
爬虫類、ありだ!!
きらきらの鱗が、虹の光でつやつやだよ。
そっとなでたら、虹の瞳を細めて、竜が笑ってくれたみたいだ。
虹の光が、鱗にそって、ちらちら揺れる。
「わあ――!」
思わず手を叩いたら、虹の竜が歌う。
「ぴ――るぅ――るる――り――――」
不思議な旋律は、人には聞こえない、高い高い音を響かせて、世界を渡る。
身体の細胞のひとつひとつが、その声に、ふるえた。
世界が、震える。
山が、揺れた。
声が、応える。
ピュ――――イ――――イィ――――――!
虹の翼が、天に舞う。
春の野に寄り添うように、僕の百倍はある巨大な竜が、舞い降りた。
応援ありがとうございます!
150
お気に入りに追加
2,306
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる