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虹の光

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 虹の光が、空を舞う。

 ピュ――イ――――!

 虹の翼をきらめかせ、はるかあなたで竜が飛んだ。



「竜だ――――――!!!」

 跳びあがって喜ぶ僕と一緒に、クロもぶんぶん尻尾を振った。

「りゅーうー!」

 跳ねるクロと僕と竜に、琥珀の目を輝かせたグィザが、僕を抱えなおしてくれる。


「ひめさま、離れる、死ぬ」


「わわわ、ごめんなさい!」

 ぎゅう、とグィザに引っついたら、真っ赤になったグィザが頷いてくれた。



 ピュ――イ――イ――――?

 竜の声に、グィザが応える。

 声は歌のように、やさしく春の野を揺らした。


 緑の山を彩るように、白、山吹、薄紅、ちいさな春の花が風に揺れる。
 見あげる頂には、雪の白がきらめいた。

 虹の翼は、春の緑、こぼれる花、空の青、凍える雪、すべてを透かし、
光を放つ。


 グィザにくっついたまま、クロの背から降りた僕は、おもわず、うやうやしく
頭をさげた。


 輝ける威光に、自然と頭がさがる。


 僕の頭に、ぽふりと何かが乗った。

 グィザの手かな、と思って、顔をあげたら、僕と同じくらいの大きさの虹の竜が、虹の瞳を輝かせて僕を見つめた。


「ピュ――イィ――!!」

 ほんのり赤い頬で、うれしそうに鳴いてくれる。
 翼につながる虹の鉤爪を握ろうとしたら、グィザが阻んだ。


「結ばれる」

 僕は、首を傾げる。


「誰と、誰が?」

「ひめさま、竜」

 跳びあがった僕は、ぶんぶん首を振った。



「だ、だだだだめです――――!
 た、たたた大変光栄で勿体なくうれしく存じますが、ぼ、僕には心から愛する方ががががが――――!」

 あわあわする僕に、虹の竜がしょげた。


「ぴゅーいー」

「ご、ごごごごめんなさい!!
 でもあの、おともだちなら!!」


 グィザが、僕の言葉を隣で通訳してくれる。


「ぴゅーいー」

 きゅるんとした虹の瞳で、おねだりされる。

 つい、うんって言いたくなるくらい可愛いよ!!



「孕ませたい」

 通訳に、仰け反って倒れ込みそうになったのを、慌てて止めた。



「だめです――――!!!」


 全力で叫んだ。














「ピュ――イィ――!!」

 ふん! と怒ったみたいに吐き出された鼻息で、吹っ飛んだ僕を、一瞬で駆けた
クロが受けとめてくれた。

 吹き飛んだ僕に、びっくりしたみたいに翼を広げた竜が、とてとて歩いてきて
くれる。


 人間は、竜に比べたら、弱っちくて軽いからね。
 鼻息で吹き飛んだよ。

 飛ぶのはあんなになめらかで雅やかなのに、竜は、歩くのは不慣れらしい。
 愛らしい歩き方に、クロと一緒に笑って、手を広げたら、僕の腕のなかに
駆けてきた竜が、僕の頬にすりすりした。


 え――!
 か――わ――い――い――♡

 爬虫類、ありだ!!

 きらきらの鱗が、虹の光でつやつやだよ。

 そっとなでたら、虹の瞳を細めて、竜が笑ってくれたみたいだ。
 虹の光が、鱗にそって、ちらちら揺れる。


「わあ――!」

 思わず手を叩いたら、虹の竜が歌う。


「ぴ――るぅ――るる――り――――」

 不思議な旋律は、人には聞こえない、高い高い音を響かせて、世界を渡る。

 身体の細胞のひとつひとつが、その声に、ふるえた。





 世界が、震える。

 山が、揺れた。



 声が、応える。



 ピュ――――イ――――イィ――――――!


 虹の翼が、天に舞う。

 春の野に寄り添うように、僕の百倍はある巨大な竜が、舞い降りた。








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