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伝説の霊峰、ザァラバーリ
しおりを挟む「もし敵が攻めてきたら、僕の家に皆で入って。
空間拡張と、攻撃を防ぐ魔法を掛けてある。しばらくは持つはずだ。
攻撃されたら、僕にわかる。
すぐたすけにくる」
キュトの言葉に、風磨とエォナ、チチェは、厳しい顔で頷いた。
「避難訓練しましょう!」
エォナが拳を握って、風磨が目をまるくする。
「避難訓練? 知ってる?」
エォナの顔を覗き込む風磨に、エォナはちいさな胸を張った。
「ひめさまが、教えてくださったんだ!
村の皆で避難訓練してたから、魔物軍が来た時も、落ち着いて逃げられたんだよ」
榛の瞳を見開いた風磨が、微かに笑う。
「やるじゃん、ルル」
肩を叩かれた僕は、熱い頬で笑った。
「獣人の皆とやろう。
風磨、悪役な」
チチェに肩を叩かれた風磨が、真っ赤になって怒る。
「な、ななななな……! お、俺は一応、主人公だぞ!!」
「ふまたん、あくやく!」
「かっちょいー!」
ちいちゃな獣人の子どもたちに手を握られた風磨は更に、真っ赤になった。
「え、え、あ、あああのあのあの、そ、そう……?」
「ふまたん、ぽこぽこしてあげる!」
きゅう、と拳を握る兎の獣人さんに、目を♡にした風磨はくずおれた。
「お、お願いします――――♡」
レトゥリアーレの風磨を見る目まで、なまあたたかくなった。
「めええ」
『帰ってくるんだよ』
見送りに来てくれた魔山羊のお母さんを、お兄ちゃんを、お父さんを、
抱きしめる。
「いてらしゃ!」
「絶対、無事で!」
皆に見送られて、僕は、手を挙げる。
見守ってくれる精霊の樹に、深く頭をさげた。
キュトが描く魔法陣が、輝いた。
チチェが、手を挙げる。
「俺も生きるから! ひめも生きろ!」
息をのんだ僕は、微笑んだ。
「どうか、皆に、さいわいがありますように」
僕の手から、闇の力が噴きあがる。
ゼドのちっちゃな村を包んで、やわらかに輝いた。
ぱぱらっぱっぱっぱー!
ジァルデを全力でたすけたい! パーティ、僕、クロ、レトゥリアーレ、キュト、グィザ、ゼドの皆が、キュトたんの力で、伝説の霊峰ザァラバーリの麓に転移した!
「さっぶ!!!」
ガタガタ震えながら、僕は真っ白な山を見あげる。
「え、今、秋だよね?
どうしてここだけ真冬なの?
まさか、これ、ダイアモンドダスト?」
目の前できらきらする氷は、なつかしの必殺技じゃない、自然現象だ。
めちゃくちゃきれいだけど、めちゃくちゃさぶい!!
「虹の竜じゃなくて、氷の竜じゃないか――!」
叫んだ僕の隣で、キュトの魔法がひらめいた。
一瞬で、魔法の衣で、キュトが、もこもこになる。
まっしろなふわふわに埋もれるキュトは、めちゃくちゃかわいい♡
「竜に殺される前に、吹雪で死ぬ。
登山なんて、誰もしないよ」
かわいいキュトから零れる真実が、刺さる。
――――ですよね。
納得する猛吹雪だ。
氷と雪に護られた、猛々しい峰が、そそり立つ。
「え、これ、のぼ、る……?」
ジァルデをたすけにゆく前に、僕が死にそうだ――!
涙目の僕を、クロが背負ってくれ、グィザが抱えてくれた。
グィザが、歌う。
いつも話してくれる、ゼルア大陸共通語、日本語じゃない。
レトゥリアーレが使う、エルフの言葉でもない。
獣人だけが使う、不思議な言葉。
他の種族が決して真似できないのは、音域が全く違うからだ。
人の聞こえない音を発し、人の聞こえない音を聞ける。
喉を鳴らし、声を震わせ、グィザが歌う。
低く、やわらかな、甘い声が、冬の山を抜けてゆく。
ダイアモンドダストが、揺れた。
吹きつける凍気が、治まってゆく。
グィザにだけ、道を開くように、吹雪の壁が、割れてゆく。
クロに乗った僕を抱えたグィザが、踏み出した。
グィザの後ろで、吹雪が渦巻く。
一緒に来てくれた、キュトとレトゥリアーレとゼドが、遠くなる。
「ルル――――!」
悲鳴をあげるレトゥリアーレを、キュトが押さえた。
「僕たちは、麓で待ってるから!
気をつけてね!」
寒さにふるえる笑顔で、手を振ってくれる。
「頼む!」
ゼドの声に重なるように、レトゥリアーレが叫んだ。
「ルル!!」
真っ青なレトゥリアーレに、手を挙げる。
「いってきます!」
グィザが、足を踏み出した。
猛烈な吹雪の向こうに、春の野が広がった。
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