61 / 117
おかえし
しおりを挟む速攻僕に頼られて、胡乱な目になったキュトは、首を振った。
「世界の果て、ゼルア大陸の果てまでは、魔法が使える。
この先、海のうえでは、魔法は使えない。
大地の加護が、消え失せる」
「羅針盤も効かない。
雷雲の向こうに、星も陽も隠される。
沈黙の海、ドボゥゾァ。
陸の生き物にとっては、死の海だ」
レトゥリアーレの言葉に、皆の顔から色が消えた。
ゲームに、そんな怖い海はなかった!
海自体が、出て来なかったよ。
ゲームでは、ちらりとさえ出なかったジァルデ、かすりもしなかった時魔、
全く出なかったラスボス、辿りつくことさえできない、時魔の里。
がんばりたい。
がんばらなきゃ。
思う心が、くずおれる。
僕には、できないんじゃないかな。
世界一むかつくモブだし。
レベルも、スキルも、チートも、何にもないし。
頭はよろしくないし。
勇気もない。
僕が、あんなに何でもできるジァルデさえ打ちのめす敵から、ジァルデを救う
なんて。
僕が、魔王を、たすけるなんて。
無謀、だ。
泣きたくなる気持ちに、蓋をする。
「ジアは、僕を救ってくれた!
僕を生かして、育ててくれた。
僕は、ジアを救いたい――――!」
言うだけなら、誰でもできる。
実行しなきゃ、意味がないのに。
そのための策を考えなきゃ、いけないのに。
真っ白になる頭に、涙の滲む僕に、グィザが頷く。
「行こう、ひめ」
「ひめじゃないよ」
僕は、鼻を啜った。
グィザは、微かに笑う。
「キュトた、この山、飛べる?」
世界地図を指したグィザに、キュトは目を剥いた。
グィザが指したのは、世界の中央だ。
「……虹の龍が住まう、巌壁の霊峰ザァラバーリ……
――――近づく者は、皆殺しだ!」
キュトの悲鳴に、グィザは頷く。
「ナハロ、血をひく、以外」
僕は、茫然と、グィザを見あげる。
「グィザ・フォル・ナハロ。
ナハロの血を継ぐ者、グィザ」
獣人の言葉の意味を、レトゥリアーレが教えてくれる。
グィザは微笑んで、頷いた。
「昔、昔、傷ついた龍、ナハロ、たすけた。
龍、ナハロ、困た時、たすける。約束した。
でも、霊峰、遠い。
困た時、行けなかた。
ひめさま、グィザ、たすけた。
グィザ、ひめさま、たすける」
グィザの手が、僕の手を握ってくれる。
滲む涙で、ぎゅうぎゅう、グィザの手を握った。
「――でも、獣人さんたちと龍の、大切な約束だ。
ジァルデを、たすけたい。
そのために、獣人さんたちの未来まで潰すのは――――!」
唇を噛み締める僕の手を引いて、グィザが魔王の家を出る。
エルフの弔いがあったから、心配そうに集まってくれていた獣人さんたちが、
駆けつけてくれた。
「ひめさま、困る。
ナハロ、龍、約束、使う」
グィザの言葉に、顔を見合わせた獣人さんたちが、頷いた。
「ひめさま、困る。
我ら、たすける」
グィザの弟と兄が、胸に手をあて、微笑んでくれる。
「ひめさま、ぴんち。
僕ら、たすける!」
ちっちゃい獣人さんの子たちが、僕と手を繋いでくれる。
「――……僕の身で、何がお返しできるか、わかりませんが。
僕のすべての力を、獣人の皆さんのために」
胸に手をつき、膝をついた僕の頭を、グィザが撫でた。
「ひめさま、我ら、たすけた。
我ら、ひめさま、たすける」
「おかえし!」
「おかえし!」
僕と手を繋いで、笑ってくれる。
あふれる涙で、頭をさげる。
地につくほど、頭をさげた。
応援ありがとうございます!
164
お気に入りに追加
2,292
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる