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黒幕

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 みんなを、たすけたい。


 なら、考えろ。

 頭よくないとか言い訳はだめだ。

 いつもあんまり使おうとしないから、びみょうなのであって、きっと僕の脳みそは、ほんとうは悪くない!!



 起きなかったことが、起きる。

 ゲームの世界に、なかったことが。


 ────ゲームの世界に、なかったこと。



 僕は、ジァルデを見あげる。

 ねじれて天を指す、かっちょいー銀煤色の角のジァルデは、ゲームの世界には、いなかった。



 起きなかったことが、起きるなら。

 きっかけは、多分、ジアだ。



 ジァルデが殺されたから、ゼドは殺して欲しくて、勇者を待った。

 ジァルデを殺しにくる輩がいる。



 ────誰が?

 ヅァギだと思っていたのに、ヅァギは斃れた。

 魔王になりたい者が、エルフの心臓を喰らった。



 ────誰が?


 絶対に、どこかに、何か、ヒントがある。


 ヒヒヒヒヒの声が、耳について離れないように。

 あいつに関する手掛かりが、どこかに。



 でないと非難囂々だよ!
 かすりもしなかった、突然最後に出て来た輩が、実は黒幕でしたーとか、皆ドン引きだよ!


 身近な皆を疑いそうになった僕は、慌てて首を振る。

 クロも、エォナも、チチェも、キュトも、グィザも、風磨も、レトゥリアーレも絶対、そんなことしない。

 魔山羊の家族みんなも、絶対違う。


 なら、僕が知らない輩だ。

 でもきっと、手掛かりがある筈だ。


 違和感を覚えたことはなかった?
 何か、おかしかったことは、なかった?


 懸命に、今までの記憶を思い出す僕のなかで、青い炎がひらめいた。


「ジア!
 手紙、燃やしてた! あれは誰から──!」


 叫ぶ僕の声に、覆い被さるように、声がした。



「ヒヒヒヒヒ────!」


 手を伸ばせば、すぐ触れられるところにいたジァルデが、掻き消えた。




「ジア──────!!」


 ゼドの悲鳴が、胸を打つ。


 のどかなリビングが、恐慌に墜ちた。



「き、消えた──!?」

 風磨が叫んで、キュトは青い顔で眉を寄せる。


「いつもの、伝説の魔法なんじゃ──」

 ゼドと僕が、首を振る。


「ジアが時空を開く感覚は、なかった!」

 ゼドの叫びに、僕は頷いた。


「何かが、来た。
 あいつだ。
 エォナの村にも来た。ノェスを殺した。
 魔王さまは、ジアに来てた手紙の相手を知ってる!?」

 ゼドのたてがみが、震える。


「……手紙?」

「ジア、時々、紙を燃やしてた。
 掌から青い炎を出して。
 僕が聞いた瞬間、ジアが消えた。
 僕のせいで────!!」

 震える僕に、ゼドの黒い瞳が、歪む。


「…………ろーの、せいじゃ……」


「ジアに来てた手紙に心当たりは!」

 叫ぶ僕に、ゼドの瞳が揺れた。


「転移魔法なら、僕が追える。
 でもこれは、魔力の痕跡さえない。転移魔法じゃない。
 ジアじゃないなら、こんなことができるのは、伝説の時魔だけだ」

 キュトの言葉に、レトゥリアーレも頷く。


「かすかに時空が歪んだ感触がした。
 時魔に心当たりは?」

 レトゥリアーレの言葉に、ゼドは、俯いた。

 ふわふわの手が、ふるえてる。


「……ジアには、幼馴染みが、いて……ずっと、ふたりで、生きてたって、聞いた。
 ────俺が、ジアを、攫った」


 誰もが、息をのむ。


「どうして言わなかった!」

 叫ぶ風磨に、ゼドは首を振る。


「あいつが、ジアを傷つけるはず、ない。
 ────俺と同じくらい、ジアを愛してる」


 今度こそ、間違いない。


「そいつは、どこに!」

 真っ青なゼドは、首を振る。


「時魔の場所は、時魔にしか、わからない」




 はい、終了──!
 とか諦めるくらいなら、僕が転生した意味ゼロ!!


「キュトたん!」

 他力を頼る気、満載の僕に、キュトは眉を顰めた。


「ジアの魔力は、研究してたよ。
 でもジアの居場所まで特定しようとする魔道具は──完成に500年はかかる」

 くずおれる僕を、レトゥリアーレが支えてくれる。


「エルフの魔力なら、私が追える。
 ノェスが、私に教えてくれる」


 レトゥリアーレの瞳に、涙が揺れる。


 僕は、レトゥリアーレの手を握った。



「どうか、ジアをたすけるために、力を貸してください」



 頷いてくれるレトゥリアーレの瞳から、涙が落ちた。









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