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ぴんち!

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 キュトが作ってくれたエルフ探査機は、魔力でエルフを判別し、記憶する。

 今まで逢ったエルフには反応せず、今まで逢ったことのないエルフにだけ
反応するようになっている。

 世界中に散らばるエルフを探索する魔道具は、沈黙を貫いた。

 もう、この世界には、僕たちが逢ったエルフしかいない。
 ノェスが、最後のエルフだった。


 青い顔で、レトゥリアーレがエルフの名を記してゆく。
 逢ったエルフに〇をつけ、逢っていないエルフに×をつけた。

 ×印のエルフを数える。


「……149」


 僕の厭な予感は、的中した。


「それだけエルフの心臓を喰えば、魔王になれるな」

 ジァルデの呟きが、凍える。



 ――――ヒヒヒヒヒ

 あの笑い声が、頭のなかで谺した。







 ぴんち!!!
 めちゃくちゃピンチです!!

 どうするどうするどうする――!!!

 僕、頭よくないよ。
 考えるの苦手だよ!


 わたわたした僕は、皆が回し読みして、ちょっとぼろっとなった、僕が書いた
本をもう一度読み直した。

 忘れてるところがないか、思い出したことはないか、確認しながら読み進める。


 魔王さまのお家の、いつものどかなリビングは、きゅうきゅうだ。

 ジア、魔王さま、エォナ、チチェ、キュトたん、グィザ、風磨たん、
レトゥリアーレさま、皆いるのに、この上なく心強いのに、焦りが背を
焦がした。


 僕の目が、本のうえを滑る。


 伝説の魔導士キュトたんルートは、魔法の華やかさと無双がメインだ。
 すんごい高飛車で人を見下すのが任務みたいな、むかつき度満点の
自称天才魔術士を、魔術大会で、けちょんけちょんにするのが楽しい。

 魔王と闘うのは、皆集合イベントでグィザを助けた時に、勇者の仲間になる、を
選んだ時だけだ。

 選ばなかった時は、伝説の魔法を蘇らせたり、困った人たちを助けたりして、
更に伝説の美少年と讃えられるのを謳歌する。

 魔物軍との戦闘があるのは、勇者の仲間になった時だけだ。



 異世界転生、佐鳥風磨たんルートは、俺TUEEEEがメインだ。
 びっくりするくらいのチートを引っ提げて、ものすんごく強くてムッキムキ、
人のことを罵って鼻で嗤う、王国最強騎士団長を、あっさり吹っ飛ばすのが楽しい。

 こちらも魔王と闘うのは、勇者の仲間になる、を選んだ時だけだ。

 選ばなかった場合、武術大会で勝ちあがって優勝して、おひめさまとか王子さまとかと結ばれるよ。
 相手を選べるのが最高だった!

 公式がBL(かわいー王子もしくは、かっこいー王子を選んだ場合) 



 獣人グィザルートは、もっふもふと癒しの時間! がメインだ。

 はあ!? というくらい可愛いもふもふ獣人の皆を、心ゆくまで、もふれる。

 最初の、ゾォガ帝国との戦闘が一番きつい。
 非難囂々だった、グィザが隻眼になってしまうのは、本当に泣けた。

 グィザも、魔王と闘うのは、勇者の仲間になる、を選んだ時だけだ。
 選ばなかった時は、もふもふ国で、もふもふしまくる。

 延々もふもふ!
 もふもふ最高!



 エルフの長レトゥリアーレルートは、世界で一番むかつくモブ、ルルへの復讐が
メインだが、殆どが勇者ルートと被る。

 魔物に滅ぼされた村で、ひとりぽっちになった勇者を助けるからだ。
 エルフの思い出とか、エルフ絡みのエピソードが増えて、ルルへのむかつきを
一層煽るエピソードが追加され、その分勇者ルートで闘うエピソードが削られる。

 勇者の仲間にならない選択肢はなく、必ず魔王を倒しにゆき、そこでルルに
殺されてしまう。

 回避は絶対にできなかった。
 非難囂々!!

 今思い出しても泣けてくるよ。



 勇者ルートは、勇者の村を滅ぼされたエォナが、あちこちで魔物の暴挙を
ぽこりながら魔王との最終決戦まで向かう。

 魔王と闘うことが最終目標となっているので、一番魔物と闘う。
 というか、魔物としか闘わない。

 ジァルデと魔王を守るために大切なのは、勇者ルートな気がする。
 魔王を殺すのは、どのルートでも、勇者だからだ。


 襲われた村や町、人をもう一度確認する。
 ジァルデとゼドが恐怖も織り交ぜながら魔物軍を掌握してくれているので、暴挙は起きていないはずだ。
 大体、勇者が15歳になってから旅立つので、時間軸が違う。


 と思ったけど、勇者が18歳で逢うはずのグィザに、もう逢ってる――!



 僕が、転生したから?
 クロが、生きてるから?

 時間軸は、めちゃくちゃになってる。


 勇者の村は、滅びなかった。
 起こるはずのことが、起きなかった。


 だからきっと、起きなかったことが、起きる。



 僕は、モブだ。
 頭も、あんまりよくない。


 生き残ったエルフが救えるか、わからない。

 ジアを、ゼドを救えるか、わからない。


 でも、エルフたちを、ジアを、ゼドをたすけるために、全力を注ぎたいと
思うんだ。



 僕の命にかえても、レトゥリアーレに、生きて欲しいと、願うんだ。








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