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風磨の顔が、崩壊してる
しおりを挟む強い陽射しが、和らいだ。
風が、ひいやり、冷たくなる。
夏が過ぎゆき、秋が巡る。
チチェとエォナが張り切って畑を広げてくれて、ちょこっと元気な獣人さんたちや、ちょこっと仲良くなった魔王軍のお暇な魔物さんたちが手伝ってくれて、魔王のお家の後ろには、見事な畑が広がってゆく。
「はたけ!」
もぐらの獣人さんが、もこもこ畑を掘って、チチェは、いつもはふにゃんとしがちなかっこいい顔を、いかめしくした。
「め! 野菜の根が傷むから!
楽しく掘るのは、あっち!」
「ふえぇ」
め! された獣人さんがしおしおしょげて、あわあわしたチチェは、もぐらさんのちいさな頭をなでなでする。
「魔草は丈夫だから、あっちを掘ると楽しいよ。
こっちは皆のごはんだからね」
なでなでしてもらった、もぐらさんは、ぱあぁと顔を輝かせて、魔草の平原へともこもこ掘り進めた。
「だから畑を掘らないのー!」
鍬を掲げるチチェに、種を撒いていたエォナが笑う。
「にいちゃに『め!』して欲しいんじゃないのかなあ。
僕といっしょ!」
「ああもう! エォナが、かわい──!!」
もだもだしながらチチェがエォナを抱きしめて、ぎゅうぎゅうされたエォナが、お兄ちゃんの腕のなかで、とろけるように笑った。
魔山羊のお母さんとお兄ちゃん、お父さんは、もこもこしてゆく草原にちょっと目を瞬いて、
「めええ」
踏まれないようにね。
おごそかに頷いてくれた。
魔草の平原は、精霊の泉の水を浴びて、もぐらさんのもこもこにも怯まずに広がってゆく。
これから生まれるかもしれない妹や弟たちのためにも、準備万端だよ!
精霊の樹と、精霊の泉の加護のおかげか、泉の水を撒くと、野菜が物凄い速度で育ち、物凄く美味しい実をつけてくれる。
皆の頑張りで、何とか食べてゆける感じになってきた。
ほんとに村っぽくなってきたよ!
住民も充実!
すごい!
ぱちぱち拍手する僕に、村長さんっぽくなってきた魔王は、ちょっと赤い頬で笑った。
「にぎやかになったな」
ジァルデが、ほのかに笑う。
「いやか?」
首を傾げる、眉がハの字のゼドのもふもふの手を、ジァルデの手が握った。
「ゼドの隣なら、何でもいー」
真っ赤になったゼドが、ジァルデの手をぎゅうぎゅう握る。
ものすごい力だろうに、ジァルデは痛いとも言わず、とろけそうな柘榴の瞳で、ゼドを見つめた。
「ふたりのしあわせを守るために、僕、頑張る!」
獣人さんたちがちょっと落ち着いてきたので、エルフたちがピンチの時は助けにゆくよ大作戦を、再開するよ!
ダークエルフに堕ちてしまったエルフたちは残念だけれど、残されたエルフは守りたい。
チート主人公、キュトとレトゥリアーレがたすけてくれるから、きっと大丈夫だ!
グィザは、エルフを守ってくれるかな?
風磨はレベル1だったな……レベル上げると最強になるんだけど、上げる気、なさそうだな……
ちょっと見た風磨は、獣人さんの子どもたちと遊んでた。
もふもふ愛の風磨は、保父さんとしての名声を勝ち取りつつある。
子どものほうが早く回復するけど、大人はまだ辛かったりして、元気になってきた子どもを見ていてあげられないところを、風磨が遊んであげているらしい。
いや、遊んでもらっているが正しいと思うけど、めちゃくちゃかっこいー風磨の顔が♡で崩壊してるけど、あれはあれで役立ってて、物凄くしあわせそうだから、いいと思う。
僕は、物凄く強くなりたくて、ジァルデとゼドにお願いした。
ジァルデは毎日、時の止まった空間を開いてくれる。
ゼドがつきあってくれて、ものすんごい攻撃を容赦なく当ててくれる。
「何やってるの!」
目をギラギラさせたキュトと、目を吊りあげたレトゥリアーレが来てくれて、僕の特訓につきあってくれるようになった。
限界突破が四人も、僕の相手をしてくれるんだよ。
クロと一緒の攻撃と防御、クロがいない時の攻撃と防御、魔法から剣から拳まで、みっちり叩き込んでくれる。
レベルもHPもMPもスキルも何にもないから、何がどうなってるのか解らないけど、たぶん、前よりめちゃくちゃ強くなったと思う!
……希望的観測だよ。
魔山羊のお母さんのミルクが飲めないと、ほんとに死んでた。
「ありがとう、お母さん!」
「ふふん」
胸を張るお母さんは、今日もかっこいー。
過去はもう、どうすることもできないけれど。
未来は、この手がつくってゆくものだから。
ゲームの強制力は侮れないけど、きっと、未来を変えられる。
エルフが絶滅して、レトゥリアーレが僕に殺される未来を。
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