上 下
55 / 127

風磨の顔が、崩壊してる

しおりを挟む



 強い陽射しが、和らいだ。
 風が、ひいやり、冷たくなる。

 夏が過ぎゆき、秋が巡る。

 チチェとエォナが張り切って畑を広げてくれて、ちょこっと元気な獣人さんたちや、ちょこっと仲良くなった魔王軍のお暇な魔物さんたちが手伝ってくれて、魔王のお家の後ろには、見事な畑が広がってゆく。

「はたけ!」

 もぐらの獣人さんが、もこもこ畑を掘って、チチェは、いつもはふにゃんとしがちなかっこいい顔を、いかめしくした。

「め! 野菜の根が傷むから!
 楽しく掘るのは、あっち!」

「ふえぇ」

 め! された獣人さんがしおしおしょげて、あわあわしたチチェは、もぐらさんのちいさな頭をなでなでする。

「魔草は丈夫だから、あっちを掘ると楽しいよ。
 こっちは皆のごはんだからね」

 なでなでしてもらった、もぐらさんは、ぱあぁと顔を輝かせて、魔草の平原へともこもこ掘り進めた。


「だから畑を掘らないのー!」

 鍬を掲げるチチェに、種を撒いていたエォナが笑う。


「にいちゃに『め!』して欲しいんじゃないのかなあ。
 僕といっしょ!」

「ああもう! エォナが、かわい──!!」

 もだもだしながらチチェがエォナを抱きしめて、ぎゅうぎゅうされたエォナが、お兄ちゃんの腕のなかで、とろけるように笑った。


 魔山羊のお母さんとお兄ちゃん、お父さんは、もこもこしてゆく草原にちょっと目を瞬いて、

「めええ」

 踏まれないようにね。
 おごそかに頷いてくれた。

 魔草の平原は、精霊の泉の水を浴びて、もぐらさんのもこもこにも怯まずに広がってゆく。
 これから生まれるかもしれない妹や弟たちのためにも、準備万端だよ!


 精霊の樹と、精霊の泉の加護のおかげか、泉の水を撒くと、野菜が物凄い速度で育ち、物凄く美味しい実をつけてくれる。

 皆の頑張りで、何とか食べてゆける感じになってきた。

 ほんとに村っぽくなってきたよ!
 住民も充実!

 すごい!

 ぱちぱち拍手する僕に、村長さんっぽくなってきた魔王は、ちょっと赤い頬で笑った。


「にぎやかになったな」

 ジァルデが、ほのかに笑う。


「いやか?」

 首を傾げる、眉がハの字のゼドのもふもふの手を、ジァルデの手が握った。


「ゼドの隣なら、何でもいー」

 真っ赤になったゼドが、ジァルデの手をぎゅうぎゅう握る。

 ものすごい力だろうに、ジァルデは痛いとも言わず、とろけそうな柘榴の瞳で、ゼドを見つめた。



「ふたりのしあわせを守るために、僕、頑張る!」


 獣人さんたちがちょっと落ち着いてきたので、エルフたちがピンチの時は助けにゆくよ大作戦を、再開するよ!


 ダークエルフに堕ちてしまったエルフたちは残念だけれど、残されたエルフは守りたい。

 チート主人公、キュトとレトゥリアーレがたすけてくれるから、きっと大丈夫だ!

 グィザは、エルフを守ってくれるかな?
 風磨はレベル1だったな……レベル上げると最強になるんだけど、上げる気、なさそうだな……



 ちょっと見た風磨は、獣人さんの子どもたちと遊んでた。

 もふもふ愛の風磨は、保父さんとしての名声を勝ち取りつつある。

 子どものほうが早く回復するけど、大人はまだ辛かったりして、元気になってきた子どもを見ていてあげられないところを、風磨が遊んであげているらしい。

 いや、遊んでもらっているが正しいと思うけど、めちゃくちゃかっこいー風磨の顔が♡で崩壊してるけど、あれはあれで役立ってて、物凄くしあわせそうだから、いいと思う。


 僕は、物凄く強くなりたくて、ジァルデとゼドにお願いした。

 ジァルデは毎日、時の止まった空間を開いてくれる。
 ゼドがつきあってくれて、ものすんごい攻撃を容赦なく当ててくれる。


「何やってるの!」

 目をギラギラさせたキュトと、目を吊りあげたレトゥリアーレが来てくれて、僕の特訓につきあってくれるようになった。


 限界突破が四人も、僕の相手をしてくれるんだよ。

 クロと一緒の攻撃と防御、クロがいない時の攻撃と防御、魔法から剣から拳まで、みっちり叩き込んでくれる。

 レベルもHPもMPもスキルも何にもないから、何がどうなってるのか解らないけど、たぶん、前よりめちゃくちゃ強くなったと思う!

 ……希望的観測だよ。


 魔山羊のお母さんのミルクが飲めないと、ほんとに死んでた。

「ありがとう、お母さん!」

「ふふん」

 胸を張るお母さんは、今日もかっこいー。






 過去はもう、どうすることもできないけれど。

 未来は、この手がつくってゆくものだから。




 ゲームの強制力は侮れないけど、きっと、未来を変えられる。



 エルフが絶滅して、レトゥリアーレが僕に殺される未来を。











しおりを挟む
感想 182

あなたにおすすめの小説

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】もふもふ獣人転生

  *  
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。 ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。 本編完結しました! おまけをちょこちょこ更新しています。 第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...