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推しのお仕置き、こわい

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「ダークエルフに堕とす価値さえない。
 ルルが受けた苦しみを、そなたらに」


 レトゥリアーレの銀糸の髪が、舞いあがる。

 その爪が銀に輝いた瞬間、剣を刺されたままのエルフたちの身体が、吹き飛んだ。

 歪なほうに曲がった手足が、毒に青黒く膨れあがる。


「ぐ、ぅ、あァ──……!」

「お、前の、せい、で────!」


 僕に伸びた手を、レトゥリアーレの踵が踏んだ。



「己が罪を、その身に受けただけ。
 すべて、汝がしたことだ」


 タズェの手の骨が、レトゥリアーレの下で、砕けゆく。


「が、ぁ、ア────!」


「も、もう充分です──!」

 悲鳴をあげる僕に、キュトは眉をあげた。


「ひめさまは、やさしいね。
 でもこいつらは、死んだって変わらない。
 何度でも、ひめさまを殺そうとする。
 勝手にひめさまを憎んで、怨んでね」


 凍てつく紫紺の瞳が、地に崩れたエルフを見下ろした。


「でも、こいつらを殺したって、こいつらのしたことは、消えはしない。
 記憶のなかで何度でも蘇り、何度でも、はらわたは燃える」


 紫紺の瞳が、切れあがる。


「死ね、クソが。
 どんなに相手が最低でも、呪うたび、呪う僕こそが、穢れてく」


 目を伏せたキュトは、微かに笑った。


「でもねえ、死ねばいいのにって思う輩が、生きてるのと、死んでるのだと、死んでるほうが、ちょっとすっきりするんだよね。
 ああ、もう死んでるなって。
 地獄で楽しそうだなあって」


 キュトは、嗤った。


「だから、死ねよ、クソが」


 心臓に刺さった双剣が引き抜かれた瞬間、血が噴いた。



「きみに、罪を負わせない」


 レトゥリアーレの剣が、一閃する。

 エルフたちの首が、転がった。





 悲鳴を、必死で呑み込んだ僕は、懐から取り出した、精霊の樹の翠の葉を掲げる。

 大樹が教えてくれた、不思議な旋律を、歌う。

 転がった首と、捩じ切れて毒に侵された身体を、くっつけた。


「ま、さか──……!」

 レトゥリアーレとキュトが、目を剥いた。



 僕は、歌う。

 闇の魔力を、安らぎと癒しの、ほんとうはやさしい闇の力をありったけ籠めて、やさしい精霊の樹を思いながら、木洩れ日のような歌を、歌う。

 僕の身体が銀に輝き、翠の木の葉は金に輝いた。


 失われた命が、繋がってゆく。

 捩じ切れた手足が、毒に侵された肌が、分かれた首と身体が、蘇る。



「こいつらが生きたら、またひめさまを殺しにくる!」


 僕を止めようとするキュトに、微笑んだ。



「レトゥリアーレさまを蔑むようなクソの命を屠って、キュトたんと、レトゥリアーレさまが穢れるなんて、ゆるさない」



 愕然と目を見開いたキュトが、肩を揺らして、くつくつ笑う。
 あんぐり口を開けたレトゥリアーレは、吐息した。


「…………エルフの秘法だ。
 どこで──……ああ、精霊の樹か」

 レトゥリアーレの大きな手が、僕の頭を撫でてくれる。
 あたたかさと、くすぐったさに、笑った。


「じゃあさあ、むかつくけど、こいつらにダークエルフ堕ちの秘法を!」

 キュトの目がきらきらして、レトゥリアーレは首を振った。


「なんで僕の願いを、皆で阻むかなあ!」

 ふくれるキュトに、レトゥリアーレは見ろと、倒れ伏したエルフたちを顎で指す。



 金の光が、消えてゆく。

 蘇った肌には、毒の青黒さはない。
 だが、生きる者にはありえぬ、死人のような灰の色に変わっていた。

 清かなエルフの魔力が、消えてゆく。

 芳しかったかんばせが、熔け崩れ、歪んでゆく。
 しなやかに伸びていた手足はしなび果て、縮こまり、ぼこぼこ奇怪な瘤を作った。


 腐臭がする。



「己が行いを、その身に受けた。
 もう、ダークエルフだ。
 すべての魔力と力、思考力さえ失くした。
 人族よりも、遥かに弱き者。
 ルルを殺すことなど、引っ繰り返っても、できはしない」


 見開かれたキュトの瞳が、ギラギラした。


「ふぁあああ!
 す、すっげー!
 生、ダークエルフ堕ち! 初めて見た!
 すげえ! 汚い! 臭い! すげええぇええ!」



 ……………キュトたんが喜んでくれたので、よかった。






 僕の他者を判断する基準は、簡単だよ!


 レトゥリアーレを崇拝 = 仲間

 レトゥリアーレ大すき = 仲間だけど、ちょっと複雑

 レトゥリアーレにふつう = ちょっといや


 レトゥリアーレを嘲る = 死ね!! クソが!!!!




 えへ。
 推しがいる人なら、きっと一緒!!!

 だよね?








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