43 / 127
推しのお仕置き、こわい
しおりを挟む「ダークエルフに堕とす価値さえない。
ルルが受けた苦しみを、そなたらに」
レトゥリアーレの銀糸の髪が、舞いあがる。
その爪が銀に輝いた瞬間、剣を刺されたままのエルフたちの身体が、吹き飛んだ。
歪なほうに曲がった手足が、毒に青黒く膨れあがる。
「ぐ、ぅ、あァ──……!」
「お、前の、せい、で────!」
僕に伸びた手を、レトゥリアーレの踵が踏んだ。
「己が罪を、その身に受けただけ。
すべて、汝がしたことだ」
タズェの手の骨が、レトゥリアーレの下で、砕けゆく。
「が、ぁ、ア────!」
「も、もう充分です──!」
悲鳴をあげる僕に、キュトは眉をあげた。
「ひめさまは、やさしいね。
でもこいつらは、死んだって変わらない。
何度でも、ひめさまを殺そうとする。
勝手にひめさまを憎んで、怨んでね」
凍てつく紫紺の瞳が、地に崩れたエルフを見下ろした。
「でも、こいつらを殺したって、こいつらのしたことは、消えはしない。
記憶のなかで何度でも蘇り、何度でも、はらわたは燃える」
紫紺の瞳が、切れあがる。
「死ね、クソが。
どんなに相手が最低でも、呪うたび、呪う僕こそが、穢れてく」
目を伏せたキュトは、微かに笑った。
「でもねえ、死ねばいいのにって思う輩が、生きてるのと、死んでるのだと、死んでるほうが、ちょっとすっきりするんだよね。
ああ、もう死んでるなって。
地獄で楽しそうだなあって」
キュトは、嗤った。
「だから、死ねよ、クソが」
心臓に刺さった双剣が引き抜かれた瞬間、血が噴いた。
「きみに、罪を負わせない」
レトゥリアーレの剣が、一閃する。
エルフたちの首が、転がった。
悲鳴を、必死で呑み込んだ僕は、懐から取り出した、精霊の樹の翠の葉を掲げる。
大樹が教えてくれた、不思議な旋律を、歌う。
転がった首と、捩じ切れて毒に侵された身体を、くっつけた。
「ま、さか──……!」
レトゥリアーレとキュトが、目を剥いた。
僕は、歌う。
闇の魔力を、安らぎと癒しの、ほんとうはやさしい闇の力をありったけ籠めて、やさしい精霊の樹を思いながら、木洩れ日のような歌を、歌う。
僕の身体が銀に輝き、翠の木の葉は金に輝いた。
失われた命が、繋がってゆく。
捩じ切れた手足が、毒に侵された肌が、分かれた首と身体が、蘇る。
「こいつらが生きたら、またひめさまを殺しにくる!」
僕を止めようとするキュトに、微笑んだ。
「レトゥリアーレさまを蔑むようなクソの命を屠って、キュトたんと、レトゥリアーレさまが穢れるなんて、ゆるさない」
愕然と目を見開いたキュトが、肩を揺らして、くつくつ笑う。
あんぐり口を開けたレトゥリアーレは、吐息した。
「…………エルフの秘法だ。
どこで──……ああ、精霊の樹か」
レトゥリアーレの大きな手が、僕の頭を撫でてくれる。
あたたかさと、くすぐったさに、笑った。
「じゃあさあ、むかつくけど、こいつらにダークエルフ堕ちの秘法を!」
キュトの目がきらきらして、レトゥリアーレは首を振った。
「なんで僕の願いを、皆で阻むかなあ!」
ふくれるキュトに、レトゥリアーレは見ろと、倒れ伏したエルフたちを顎で指す。
金の光が、消えてゆく。
蘇った肌には、毒の青黒さはない。
だが、生きる者にはありえぬ、死人のような灰の色に変わっていた。
清かなエルフの魔力が、消えてゆく。
芳しかったかんばせが、熔け崩れ、歪んでゆく。
しなやかに伸びていた手足はしなび果て、縮こまり、ぼこぼこ奇怪な瘤を作った。
腐臭がする。
「己が行いを、その身に受けた。
もう、ダークエルフだ。
すべての魔力と力、思考力さえ失くした。
人族よりも、遥かに弱き者。
ルルを殺すことなど、引っ繰り返っても、できはしない」
見開かれたキュトの瞳が、ギラギラした。
「ふぁあああ!
す、すっげー!
生、ダークエルフ堕ち! 初めて見た!
すげえ! 汚い! 臭い! すげええぇええ!」
……………キュトたんが喜んでくれたので、よかった。
僕の他者を判断する基準は、簡単だよ!
レトゥリアーレを崇拝 = 仲間
レトゥリアーレ大すき = 仲間だけど、ちょっと複雑
レトゥリアーレにふつう = ちょっといや
レトゥリアーレを嘲る = 死ね!! クソが!!!!
えへ。
推しがいる人なら、きっと一緒!!!
だよね?
556
お気に入りに追加
2,938
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。
石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。
雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。
一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。
ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。
その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。
愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる