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魔王さまのちっちゃな村、出現!

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「ほわぁあああああああ!!!!」

 精霊の樹のお家に感激したキュトは、鼻血を噴いて倒れた。

 きゅるるる、ジァルデが氷枕を出してくれる。
 ジア、大活躍!


「すごいな」

 感心したように、ゼドは大樹を見あげた。
 精霊の樹は、僕たちを幹のなかに入れても、へいちゃららしい。


「皆が感動してくれたから、精霊の樹も喜んでる」

 レトゥリアーレの言葉に、さやさや、翠の葉が、風に揺れる。


「……葉っぱ1枚で、屍が蘇るんだよ。
 精霊さえ宿る、ものすんごい樹なんだよ。
 伝説どころか、尊すぎる!!!
 エルフの存在意義とまで言われる、精霊の樹────!!
 この目で見られて、中に入れるなんて────!
 ありがとうございます、ありがとうございます…………!!!」

 キュトは泣き崩れた。

 泣いてくれるキュトの言葉を喜ぶように、精霊の樹が、さやさや揺れる。


「ああ、よき友となってくれるだろう」

 ふうわり微笑むレトゥリアーレに頷くように、大樹が揺れた。


「ひゃあああああ!
 ねずみに一方的にともだちになってもらってた僕の、は、はじめてのともだちが、精霊の樹────!?
 ほわぁあああああ!!」


 鼻血を噴いたキュトは、倒れた。


 本日、2度目です。


 









 ぱぱらっぱっぱっぱー!
 魔王さまのお家の隣に、伝説の魔導士のお家と、エルフの長のお家が建ちました!


 精霊の樹が、どんどん大きくなってるよ!
 辺りに清浄な大気が広がって、精霊さんたちが遊びに来てくれるようになった。

 精霊の樹の隣に、こぽこぽ湧いた泉は、精霊の泉らしい。
 飲むと不老長寿らしいよ! エルフの秘薬!

 レトゥリアーレの美貌を支える、秘密の水!
 めちゃくちゃ大事!

 いやあの、僕、しわしわのおじいちゃんなレトゥリアーレも大すきですよ。
 レトゥリアーレなら加齢臭も愛しいよ!
 だいじょうぶ、僕の最愛の推しへの愛は揺らがない!!


 胸を張る僕を見つめるレトゥリアーレの瞳がやさしくて、伸ばしてくれる手が、愛しくて。

 どきどきが、止まらなくなる。


 僕の顔は、いつも熱くて。

 クロはいつも、わふわふしながら、僕を支える準備万端でいてくれる。
 ジアの指はいつも、氷魔法完備だ。



「ほわぁあああああ────!! 伝説しかない!!」

 キュトの目はきらきらしっぱなし、潤みっぱなしだ。


 皆のために、家庭菜園も始めたよ。
 魔山羊のお母さんとお兄ちゃんのために、魔草の種もいっぱい撒いて、魔草の平原も制作中!

 精霊の泉の水を撒くと、野菜はぐんぐん育ち、実は泣くほど美味しい。
 魔草の種に泉の水を撒くと、きらきらした草が生えてきた。


「こ、これ、魔草じゃなくなった?
 お母さん、お兄ちゃん、食べれますか」

 ちょっと食べてみた魔山羊のお兄ちゃんとお母さんが、きらきらした。
 重々しく、頷いてくれる。

「めええ」

 めちゃくちゃ美味しいらしい。
 よかった!







「ひめさま────!!」

 涙目で、ぜえぜえしながら走ってきてくれるのは、勇者エォナの兄、チチェだ。

 クロの背には、勇者エォナが乗っている。


「ちちぇ、はしった。えらい。
 ろー、ほめて」

 クロがぶんぶん尻尾を振って、僕は仰け反った。

 クロが、エォナとチチェふたりを乗せるのはあんまりだからと、チチェは根性で走ってきたらしい。

 さすが、勇者兄!
 人界から魔界まで走って来るとか、根性が違う!


「チチェ、すごい!
 さすが勇者兄! えらい!」

 ぱちぱち拍手したら、チチェが真っ赤になって笑う。


「村の復興の目途がついたから、遊びに行っていいって皆が言ってくれたんだ。
 ひめは、村の様子をよく見に来てくれるけど。
 ひめが、どんなところで暮らしてるのか、ずっと、見てみたかった」

 ふわふわ紅い頬で、照れくさそうに、うれしそうに、チチェが笑ってくれる。


「ようこそ、魔王さまのお家へ」

 ふうわり笑って、きゅ、とチチェの手を握ったら、真っ赤になったチチェが、くずおれた。


「ひ、ひめさま、きらきらすぎる────!!」

 顔を覆ってうずくまるチチェに、首を振る。


「ひめじゃないよ」

 僕の言葉を全力でスルーしたらしいエォナが、畑を指して跳びあがる。


「ひめさま、畑!」

 ぐるんと首を回したチチェの目が、輝いた。


「すんごい!!」

 両手を挙げたチチェが走ってゆく。
 畑に顔を近づけて、土をひとつかみ掬い、うっとり栗色の目を細めた。


「土、ふかふか! みみずいっぱい! 腐葉土だらけ!
 すんごい!!」

 チチェの何かを押したらしいよ。
 目がギラギラしてて、キュトたんみたいになってるよ。


「ひめさまに、ちょっと逢えないだけで、変わっちゃう!」

 涙目のエォナを抱っこして、笑う。


「僕の中身は変わってないよ。大丈夫」

 ふわふわのエォナの頭を撫でたら、エォナが真っ赤になって、チチェの目がきらきらした。


「ひめさま、俺も!」

 チチェに頭を差し出された僕は、笑って、くしゃくしゃ、チチェの頭を撫でる。
 真っ赤になったチチェが、とろけて笑った。


「チチェ、畑のこと、教えて」

「任せとけ!」

 紅い頬で、チチェが胸を叩いてくれる。


「ぼ、僕も教えられます!」

 ちっちゃなエォナが胸を張る。


「おねがい」

 手を合わせて微笑んだら、チチェとエォナが崩れ落ちた。


「ひめさま、尊い────!!」


「ひめじゃないよ」

 何度でも言うよ。










 季節が、春から初夏へと移りゆく。

 日本のゲームだから、この世界にも四季があるみたいだよ。

 大樹が風にそよぎ、青々した草原の向こうで、赤い実が揺れる。
 広がる草原で駆け回るクロの目が、きらきらしてる。
 ぶんぶん振られる尻尾の向こうで、魔山羊のお兄ちゃんとお母さんが、草を食んでる。


 なんか、ちっちゃい村っぽくなってきた!

 精霊の樹のおかげで、辺りはめちゃくちゃ清々しい。
 精霊が踊ってるのが時々見えるとか、メルヘンだ!

 魔界って言われたら、嘘でしょってなる。
 魔王さまのお家って言われたら、もっと仰け反る。


「魔王さま、ジア、精霊の樹の清らかな感じ、苦しくない?」

 心配で聞いた僕に、ふたりとも首を振った。


「俺らは、魔力がめちゃくちゃ高いだけだからな。
 苦手な属性も魔力もない」

 ジァルデの言葉に、拍手する。

「ふふん」

 誇らしそうに胸を張る、もふもふゼドが、めちゃくちゃ可愛い。





 鳥の歌と、魔山羊のお兄ちゃんとお母さんのめえめえをBGMに、おともだちの精霊の樹の木陰で、キュトは複雑な魔道具をつくってくれる。


 キュトが僕の手を握るたび、レトゥリアーレが隣で目を吊りあげて、

「約束!!」

 叫ぶと、キュトは赤い頬でふくれた。


「魔道具に、ひめの魔力が必要なの!」


 めちゃめちゃぶすくれたレトゥリアーレは、エルフのための魔道具だから、と我慢してくれてるみたいだ。


 …………何を??







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