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伝説の魔導士と、卑怯に勝負!
しおりを挟むもしかして、鴨葱?
猪が白菜を背負って来ちゃった?
「あの! 伝説の魔導士なら、世界中に散ったエルフを探す、エルフ探知機作れますか!」
拳を握る僕の前の扉が、銀に瞬く。
「ふふん。
僕に勝ったら、作ってあげてもいいよお」
おおお!
さすが伝説!
「卑怯な手段は許されますか!」
「え、卑怯? 大すき!」
……尋常に勝負って言ってたけどな。
温情ありがとうございます!
「よっしゃぁああ──! いきます!」
拳を掲げた僕は、早速クロを抱き締める。
「クロ、お願いね」
全力でクロに頼る僕!
「くろ、がんばる!」
ふんふん鼻を鳴らしてくれるクロが、かわいー!
僕がクロの背に乗ると、クロはすべてを解った目で、裏口に回ってくれた。
えへへん。
魔王さまのお家には、表玄関と勝手口があるのですよ。
伝説の魔導士の弱点!
ゲームをした人なら、みんな知ってる!
いくよ、クロ!
「ひゃっはー!」
掛け声とともに、クロの爆速で突撃した僕は、伝説の魔導士の首の後ろを、こちょこちょした。
「うひょ!
ひははははは! え、待って、何、えぇえ! あ、ちょっと、それは、や、ば────!!
──……ぁっっ♡」
真っ赤になってくずおれる伝説の魔導士の、短い紫紺の髪が、ふわふわ揺れる。
紫紺の瞳は熱に潤んで、愛らしい艶を奏でた。
わあ!
生きてる!
動いてる!
永遠の美少年、伝説の魔導士、キュトだ!
ショタ大すきな皆の心を鷲掴み!
レトゥリアーレさまがいなかったら、僕、キュトたん推しだったよ。
生キュト、尊い!
思わず拝んだ。
「え、おひめさまに拝まれてる!」
キュトも、目がわるいらしい。
赤い頬で涙を拭ったキュトは、ちょっぴり甘い吐息と起き上がった。
「なんで初対面のおひめさまが、僕も知らない僕の弱点を知ってるの?」
「ひめじゃないです」
僕は、拳を握る。
「なんで?」
なぜスルー?
「前世の記憶です」
「わー、なんか、微妙な病気っぽい」
唇を尖らせる上目遣いのキュトが、可愛いんですけど!
ディスってるのに可愛いとか卑怯!
「キュトさんが、背が伸びないかと毎日めちゃくちゃ牛乳飲んでることも、ぶら下がり健康機にぶら下がりまくってることも、背が伸び~る体操を一日3回毎日してることも知ってます」
「ぎゃぁぁあああ!」
真っ赤になって、頭を抱えてうずくまるキュトが、めちゃくちゃ可愛い。
ちがう、ゲームの知識生きてるなあ!
ということは、僕はやっぱり、レトゥリアーレさまを殺すモブということだ。
うう、つらい。
しかし
「生キュトたん尊い!」
思わず拝む僕を庇うように、扉を蹴破る勢いでエォナが飛び出した。
「ひめさまを幻惑したのか、わるい魔法使いめ!」
金の髪に、金の瞳でナイフを抜くエォナに、キュトは目を見開いた。
「あれ、勇者がいる」
「めちゃくちゃかわいーでしょう!」
エォナを後ろから抱っこして、胸を張ったら、エォナは真っ赤になって、キュトはちょっと鼻を鳴らした。
「まあ、僕の次にね。
ふうん、今度の勇者はきみかあ」
紫紺の瞳に覗き込まれたエォナの瞳から、金の光が消えてゆく。
「今度の?」
「僕は長生きだからねえ。
勇者もいっぱい見てきたよ。色んなのがいたよ」
大きな紫紺の瞳が、細くなる。
「その力に、相応しい心を、養うように」
栗色の瞳を瞬いたエォナは、こくりと頷いた。
「ひめのために、頑張る」
「僕、ひめじゃないからね」
そろそろ解ろう、エォナ!
エォナの両肩を両手で掴んでみた。
栗色の目がうるうるして、ほっぺが赤くなって、ぽーっとしてる。
「……ひめさま」
うん。
わかってくれない。
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