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モブパワー全開!

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「索敵!」

 しなくても、敵ばっかりだよ。
 いくら頭の足りない僕にも、わかってるよ!


 でも、ジァルデが教えてくれた索敵魔法の凄いところは、敵の布陣の弱いところが、見えることだ。

 残念な僕にも分かりやすい親切設計!


 物理攻撃に弱いところと、魔法攻撃に弱いところ、守りの硬いところ、将の位置が、目の前に、フォンと現れる画面に、ピコピコ映し出される。
 ゲーム画面みたいなのね。

 ジァルデに見えるのは、こんなに分かりやすくないらしい。
 世界一むかつくモブ仕様なのかな?


 ヅァギの布陣をよく知るジァルデが、ありとあらゆるパターンを想定し、クロと僕で、どうやって戦線を崩壊させるかを、叩き込んでくれた。


 今日のは、魔法弱め、物理激強、前線に兵力集中、将は一番後ろで、のったり布陣だ!

 物理激強の場合は、魔法撃に弱い。
 ギキの実で、村人の魔力を封じたと思って取った作戦だろう。


「敵の背後に回り込んで、将の首を掻き斬り、敵陣の最後方から最大出力で魔法ぶっ放し作戦でいきます!」

「おー!」




 クロの足は、爆速だ。

 人が目視できる限界を、超える。
 駆けだしたら、一瞬で、敵の背後に回り込める。

 見えないから!


 魔物が驚異の動体視力を発揮するより、速い。
 ジァルデとゼドが保証してくれた。

 ゼドより速く撃ち込めるので、たぶん最速だと思う。



 クロが駆けだしたら、一瞬だ。




 鼓動が、ぶれた。

 吐息が、揺れる。



 殺しにゆく。



 圧し掛かる重みを、皆の笑顔で、祓う。




「出撃」


 かすかに震える僕の声に、確かめるように、クロが僕を見あげてくれる。

 唯一のともだちを抱きしめて、僕は頷いた。



「行こう」


 闇の魔剣に、僕の闇の魔力を流し込む。

 幾百の歳を超え、闇の魔力を屠った剣が、歓喜に輝くように、一瞬で刀身を伸ばした。

 巨大な魔剣は、驚くほど軽く、おぞましいほど、鋭い。

 僕の鼓動に合わせるように、屠る獲物を待ちかねたように、明滅する。



 冷たい柄を、握り締める。



「突撃」



 僕を見つめ、クロは頷いた。



 クロが駆ける足が、闇に溶ける。



 次の瞬間、敵の布陣の最奥の背後に躍り出た。




 刃が、一閃する。




 紙を、なでるようだった。


 血潮が飛んだ。

 将と、将を守る一個小隊の首が、吹き飛んだ。





 ────────殺した。


 指が、震えた。


 火矢を放ち、真夜中に奇襲を仕掛ける敵に、話し合いましょうなんて言っている間に、皆殺しにされる。

 わかっていても、背は震え、凍える汗が噴き出した。



 吐き気がする。



 これは、ゲームじゃない。

 殺したら、二度と、生き返らない。




 わかっていても

『ひめさま』

 笑ってくれた皆を、たすける道を、僕は選ぶ。




 僕の周りに、風が舞う。

 漆黒の光が、僕のなかから、噴きあがる。



 ヒュォァア──────!

 風が、鳴いた。


 世界から、音が消える。



 僕は、手を掲げる。

 闇が、閃いた。


 ドァアアァアアア────ォオオオオンンン──────!


 僕から溢れた、黒きいかずちが、敵を嘗めるように翔てゆく。



 ほんとはね、かっちょいー魔法の紋様を描いて、

「我が眷属たる闇のいかずちよ、我がしもべとなりて、敵を滅ぼせ。
 メゼルディギリス!!」

 かっこよく叫びたかったんだけど、ジァルデに、

「遅い!!!」

 怒られたから、泣く泣く高速詠唱を習得したよ。
 いちおう魔紋描いて、詠唱してるけど、一瞬で聞こえないよ。



 バリリリ────ババリ──ィリリリリ────!


 僕が最大出力で放った黒きいかずちが、贄を探すように敵を捕らえ、呑み込んでゆく。

 真っ黒な僕の髪は銀に輝き、僕の指から闇のいかずちが、獲物が足りないとねだるように駆けてゆく。


「……あ、悪魔の子……!」

 魔物軍の悲鳴が、いかずちに呑み込まれ、消えてゆく。



 立ちあがる者は、いなかった。


 なまぬるい風が、吹き抜けた。




「ヒヒヒヒヒ────」


 背が凍る、声がした。


 遠くから、近くから、響くように、耳に触れる。


 気配を探ろうと、解放する魔力が、僕にはもう、ない。


 ボスを倒したら、また次のボスが出てくるのは、ゲームのお約束なのに。
 目の前の軍を殲滅することばかりに気を取られて、余力を残していなかった。



 ひとりでも残したら、誰かが、殺される。



 だから、殲滅しなきゃと思って。

 全魔力を、解放した。





 血を吐いて、頑張ったのに

 この手で、たくさん、殺したのに



 世界一むかつくモブの僕は、未来を変えるなんて、できないの…………?






 ふるえる手で、クロを、抱きしめる。


 記憶の皆の笑顔が、涙に、霞んだ。








 ああ、違う。


 僕を、変えるのは、僕だ。




 僕だけが、僕を、変えられる。


 僕だけが、僕の未来を、変えられる。




 闇の魔剣を、握り締める。



『きっと、ろーを護ってくれる』

 ジァルデの微笑みを、ゼドの大きな手を、思い出す。



 絶対に、来てくれるから。



 それまで、僕が、闘う。






 丘の向こうが、蠢いた。



 僕の命の光が、魔力となって、立ち昇る。











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