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あふれる想い
しおりを挟む「…………ルル……?」
ちいさな、声がした。
きらめく玻璃を透かすような、涼やかな声に、身体が痺れた。
振り返る僕の唇が、ふるえてる。
流れ落ちる、銀糸の髪が、風に舞う。
澄み渡る蒼の瞳が、ひらめいた。
「…………レトゥリアーレさま……」
蒼の瞳が、揺れた。
「ルル────!」
駆け寄ろうとしたレトゥリアーレの前に、ちいさなエォナが立ちはだかる。
僕を庇うように、ちいちゃな手をめいっぱい広げた。
「僕のひめに、近づくな!」
おお! かっこいー!
ちがうな。
「ひめじゃないよ」
僕の言葉は、届かない。
「ルル、その姿は?
まだ赤子のはず──……まさか、きみはほんとうに────」
悪魔の子なのか。
レトゥリアーレの唇の奥に消えた言葉が、聞こえた気がした。
「ひめを傷つける者は、ゆるさない!」
エォナがナイフを抜く。
びっくりした僕は、慌てて止めた。
「待って、エォナ。
捨てられた僕を、拾ってくださった方だよ」
栗色の瞳が、歪んだ。
「また捨てたんだろう!
僕のひめを、傷つけたな!」
飛びかかるエォナのナイフを、レトゥリアーレの短剣が受けた。
「…………きみは…………」
エォナの瞳が、金に燃える。
栗色の髪が、金に輝く。
エォナから溢れゆく金の光が、エォナを護るように煌めいた。
────勇者の覚醒だ。
え、はやくない?
勇者の村を滅ぼされて、絶望のなか、覚醒するはずなのに、あれ??
「ひめを、守る!」
エォナのナイフが、光になる。
一瞬で飛び退いたレトゥリアーレに、叫んだ。
「エルフの血が、魔物軍から狙われています!
隠れ里を移転するか、警戒を!」
僕の言葉に目を瞠ったレトゥリアーレが、手を伸ばす。
「ずっと、捜していた。
黒い瞳に、黒髪の者がいると聞いて、やって来たんだ。
ルル────!」
僕は、伸ばされたレトゥリアーレの手を見つめた。
憧れの、最愛の、推しの手だ。
その手に、手を、重ねたかった。
頭を撫でてもらいたかった。
あなたの傍で、笑いたかった。
でも僕は、きっと、あなたの傍に、いないほうがいい。
僕は、あなたを苦しめる、モブだから。
あなたを殺す、モブだから。
「…………さよなら、レトゥリアーレさま」
滲む涙をさらうように、クロが僕を乗せて駆けてくれる。
あの日とおなじ、あたたかなクロの背から、手を振った。
さいわいを祈って
大すきですを、籠めて
あふれる涙と、手を振った。
帰ってきた魔王さまのお家で、わあわあ泣いたら、ジァルデが
「殺してくるか」
柘榴の瞳を吊りあげて
「行こう」
ゼドのつぶらな瞳まで、ラスボス仕様に細められた。
「うわあん!
だって、僕、レトゥリアーレさまを殺しゅモブだから!
強制力とか、あるかもしれないから!
僕はお傍にいないほうがいいんれしゅ──!」
鼻水ダラダラで泣いたら、ジアのおっきな手が、頭をわしゃわしゃ
撫でてくれる。
「殺してくる」
「だめだめだめ!」
「すぐ殺ってくるぞ」
「だめだめだめ!」
ジアとゼドの言葉に、ぶんぶん首を振る。
「ろー」
僕の涙を嘗めてくれるクロを、抱きしめる。
もふもふ!
ふあふあ!
癒される!
それでもやっぱり、涙はこぼれた。
あなたを想うだけで、胸が裂ける。
「ふえぇえ。
世界一むかつくモブ、つらい」
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