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あやしい人来た!
しおりを挟む「報告します!」
魔王のお家に帰った僕は、早速ゼドに報告を始める。
報連相、大事だからね。
僕、いちおう、魔王軍参謀らしいからね。
「うむ」
僕の報告を聞いたゼドは、確かめるようにジァルデを見た。
ジァルデが頷くと、ゼドも頷く。
生まれたばかりの僕の信用度がまだ足りないんだね、理解。
勇者の村の人たちみたいに、頭から信頼されるほうが心配だよ。
さみしくないよ!
「よく喋るようになったな」
もふもふのおっきな手が、頭を撫でてくれる。
「えへへ。ジアのおかげです」
ほんとは、たぶん、僕まだ赤ちゃんだよ。
「ヅァギの指示で、手下の魔物たちが動いてるみたいだ。
ギキの実は、あいつの領地が特産だ」
「潰すか」
ゼドの呟きに、ジァルデは首を振った。
「言い逃れが大得意だからな。尤もらしい理由で魔物軍を動かされたら、厄介だ。
現行犯がいーと思う」
「勇者の村が、滅んじゃう!」
僕の悲鳴に、ジァルデは唇の端をあげる。
「絶対、守るだろ?」
勇者の村を守り隊の隊長に就任した僕は、隊員に勧誘中のクロと一緒に、勇者の村を見回ることになった。
あやしい人間ぽい魔物が来たり、あやしい人間が来たり、魔物が来ていないか、調査だ。
この世界の魔物は、魔力のある生き物という意味で、色んな形の色んな種族がいる。
人間っぽいのも、人間に化けられるのもいるみたい。
ゲームでは、最後の方に出てくる魔王の直属の配下、ものすんごく強いのを魔族と呼んで区別してた。
ジァルデも、角がなければ人間っぽいよね。
すべての魔物と魔族を束ねるのが、魔王だ。
魔界には領主がいて、領土があって、魔物たちが暮らしてる。
でも人界に暮らす魔物も、精霊界に暮らす魔物もいるらしい。
魔王が支配しているのは、魔界に暮らす魔物たちだけれど、人間界のも精霊界のも魔王の言葉なら聞いてくれるという。
聞かないと、ぽこられると思ってくれてるみたいだよ。
そうじゃないのが最近増えてるらしいので!
撲滅したい!!
ジァルデとゼドのしあわせのために!!
勇者の村の人たちは、人を疑うということを知らないみたいなので、見たことのない人には近づかないでね、見掛けたら僕に相談してね、を周知するところから始めたよ。
勇者は日に日に元気になっていて、僕もうれしい。
「おひめさま」
「ちがうよ」
毎日、この会話してる気がするけど、だいじょうぶかな、勇者。
「具合はどう?」
「ちょっと、ふらつくみたい」
ちっちゃな勇者のおでこに触る。熱はないみたい。
首に触れて、脈をみる。ちょっと速い、かな。子どもは速いからね。
目を覗き込む。
ちょっと潤んでるけど、充血なし。
手を握る。
発汗なし。
「もうちょっと、解毒の薬湯を飲んで様子をみようね」
「はい、おひめさま」
「ちがうからね」
うっとり見あげる勇者の顔が赤いし、息が、ちょっと乱れてる気がする。
「チチェ、いつものエォナの様子は?」
白衣高血圧、白衣症候群、とも呼ばれるけど、診察される時って緊張しちゃって、いつもよりどきどきしたりしちゃうからね!
全然病気じゃないのに、診察の時だけ、血圧異様に上がるとか、びっくりだよ。
僕、白衣の天使じゃないけど、一応ね。
名前を教えてもらった勇者兄に、勇者の様子を聞いてみた。
呼びかけで、勇者兄って、だいぶ失礼っぽいからね。
僕、気遣いのできるモブ!
めざせ、世界一むかつくモブ脱却!
────でも、世界で2番目にむかつくモブとかも、さみしいな。
「前より、なんか、ぽーってしてる気がする」
チチェの言葉に、僕は首を傾げる。
「具合悪そうな感じ?」
「恋の病な感じ」
「元気そうだね」
僕は安堵した。
「治ったと思ったら、具合悪くなった! もあるから、気をつけて見てあげてね。
チチェも、あの果物食べたんだよね。身体、大丈夫?」
「俺も、なんか、ぽーってする」
チチェのおでこを触って、首を触って、手を握る。
熱はなし。脈は速め。発汗、ちょこっと。
真っ赤になるチチェは、確かに、ぽーっとしてるみたいだ。
「ジアにまた、薬草採ってきてもらうからね。
エォナと一緒に、お薬飲んでね」
「わ、わかった」
僕の両手を握りしめなくても、いいんだよ、チチェ。
「わん!」
クロが吠えると、あわてたみたいにチチェは手を離した。
犬っぽい振る舞いも上手なクロ、さすが僕の唯一のともだち!
「あやしい人を見かけなかった?」
僕の問いに、チチェは目を輝かせた。
「見た!」
「くわしく!」
チチェの詳しい報告によると、勇者の村に、おひめさまが出る、という噂が、僻地を駆け巡っているらしく、おひめさま見学隊みたいなツアーが組まれて、あちこちの村から、勇者の村にやって来ているらしい。
「え、迷いの森を越えて来てるの?」
それ、超人じゃない? そんなのいっぱいいるの?
仰け反る僕に、チチェは首を傾げた。
「森の手前で、『茸採りたいー! 迷いの森こわいー!』って泣いてるのがいたから、森に茸採りに行ってたパハが案内してあげたらしい。
その時、ついでに村に寄って、ひめさま見たんだって。
迷いの森の奥に、本物のひめさまが出るってすんごい噂になって、それから毎日森の前がわちゃわちゃするようになって、村の誰かが茸採りに行ったついでに、ひめさま見隊、連れて帰ってくるみたいだよ」
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「僕、ひめじゃないから」
「お忍びなんだろ、わかってるって!」
「わかってない!」
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わかった、僕がひめじゃないって言ったのが悪かった!
「僕は、男だ!」
拳を握り締めて叫んだ。
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「わかってないぃいいい!」
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