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丸投げ~!

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 ヅァギって、ゲームには、かすりもしなかったけど。
 ジァルデの言葉で初めて聞いたけど。
 僕の方が、世界一むかつくモブとして、地位を確立しちゃったけど。
 たぶん、ヅァギが、諸悪の根源!

 だって、こんなふわふわ、もふもふ、人間の子どもを拾って育ててくれる魔王さまが、人間の村、老婆から赤子まで皆殺しにする?

 勇者だけ残して、

『ヒヒヒヒヒ──! 復讐に来たその時が、お前の一族の血が絶える時だ!』

 なんて、言う?

 つぶらな瞳の、僕の頭をなでなでしてくれるゼドが、そんなこと絶対しない!


 だから絶対、えぐい輩は他にいる。

 ジァルデの言葉から、多分、ヅァギ!


「あるな」

 ジァルデは、頷いた。


「あるな」

 ゼドも、頷いた。



「で、どうする」

 ジァルデに覗き込まれた僕は、唸る。



 丸投げですね、わかります。





「ジアは、軍を動かせましゅか」

「ちょっとなら」

「魔王しゃまは」

「出せるぞ」

 僕は、ちいちゃな拳を握る。

「ジャコを、ジャコと思って放置しゅるから、やられるのでし。
 ジャコは、最初に、全力で叩き潰しゅ!
 魔王しゃまを侮る輩を、のしゃばらしぇては、いけましぇん!」

 かっこつかない上に、何言ってるかわからないよ!

 さ行、むつかしい!


「お、恐怖政治か」

 ジァルデが楽し気に唇の端をあげる。


「俺は、ほのぼの政治が──」

 つぶらな瞳の魔王に、僕はちっちゃな指を突きつけた。


「ヅァギがいなくなって、魔王しゃまに反逆する者がいなくなって、勇者がやって来ないなら、ほのぼの政治をしてくだしゃい。
 このままでは、ジアも、魔王しゃまも、殺しゃれまし!」

 ジァルデとゼドが、顔を見合わせる。


「信じるか」

 ゼドの言葉に、ジァルデが凛々しい眉をあげる。


「最初から、俺の言葉が解って、読めて、書けた。
 前世の記憶ってのがあるなら、説明できる」


 銀煤色の長い爪の手が、僕の頭を、くしゃくしゃ撫でる。


「かわいーから、信じてみちゃう?」

 笑うジァルデに、ゼドも笑った。


「ろーの言うとおり、軍を動かす。
 何もなかったら、遠足だ」


「ありがとう、魔王しゃま!」

 抱きついたら、真っ黒なゼドの顔が、赤くなる。
 ふわふわの尻尾が、ふさふさ揺れた。


「まおう、かわいー」

 きらきらの瞳のクロの頭を、赤い頬のゼドのもふもふの手が撫でてくれた。





 僕は、モブなので、意味がないと思いますが。
 これから、本気で闘うので。
 異世界転生したらやってみたかった、No1!


「しゅてたしゅ、おぷん!」

 指を掲げてみた。


 クロが、指の先を見つめてくれる。

 ジァルデの柘榴の瞳が、可哀想な子を見る目だ!


 何にも起こりませんでしたよ。
 モブだからね。くそう。


「ろー、喋るのあんま、得意じゃないだろ。ちっちぇえしな。
 戦に行くには、威厳が足りん。
 てことで、ちっとでかくなれ」

 ジァルデの銀煤の爪が、輝いた。
 銀の光が、降り注ぐ。

 ちっちゃな手足が、伸びてゆく。
 さらさら、髪まで長くなった。


「お」

 柘榴の瞳が、見開かれた。


「ろー、かわいー!」

 抱きついてくるクロを、抱きとめる。

 クロに埋もれるじゃなくて、抱きとめられた!



 世界一むかつくモブの割に、ルル、ちょこっと可愛かったからね。

 多分、レトゥリアーレが愛するためには、モブだろうと多少の顔面力が必要だと判断されたんだと思う。

 でもその微妙に可愛い顔で、憎たらしく、鬱陶しいことしか言わずに、ちょろちょろ出て来ては、いやがらせしてくんだよ。

 憎さ百倍!


 前世は残念だったので、ちょっと可愛いなら、ちょっとうれしい。
 でも憎さ百倍になりそうで、恐いけど──!


「ジア、ろーは、ちっちゃい方が──」

 不服そうなゼドが、僕を見て止まった。
 真っ黒な顔が、真っ赤になってゆく。


「戦に魔王軍参謀として連れてくなら、こっちのが威厳あるでしょ」

 ジァルデの言葉に、僕から目を逸らしたゼドが頷いた。


「あ、ああ、そう、だな」

「ろー、かわいーね」


「あ、ああ」

「ゼドも」

 ジァルデが笑って、僕も笑う。



「僕、魔王軍、参謀?」


 生まれたばっかりだよ!
 いや、前世42年あるけど、コンビニの検品速度には自信があるけど(多分)、参謀の経験はない。
 武将の野望とかのゲームも、むつかしそうで、やってない。

 僕、エルフ推しだからね。
 歴史とか戦略とか関係ないから!


「僕に参謀は、無理じゃない?」

 おお、なめらかに喋れる!
 なんかちょっと、声も低いよ。声変わりも終わってるみたい。

 軍からの報告だろうか、手紙に眉を顰めて、掌から出した青い炎で燃やしたジァルデが、僕を見た。


「ろーが出ろって言うから、進軍するんだ。
 責任取れ」


 鋭い柘榴の瞳に、僕は慌てて顔を引き締めた。



 これは、ゲームじゃない。

 捻じ曲がった腕の痛みを、覚えてる。
 ゲームの世界かもしれないけれど、ここに暮らす者にとっては、現実だ。


 進軍したら、犠牲が出るかもしれない。

 死んだら、復活なんて、できないんだ。



「わかった」

 頷いた僕の頭を、銀煤の長い爪の大きな手が、わしゃわしゃ撫でてくれる。


 僕が大きくなったから、ジァルデの手が少し小さくなった気がして、ちょっぴりさみしくなった。






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