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魔王さまの、おうち
しおりを挟む見えるようになった目で見てみると、僕が魔王城と思っていたのは、魔王さまのおうち、という表現が相応しい、藁ぶき屋根の4LDKだった。
魔王と魔族の寝室(勿論ひと部屋!)と、魔族の私室、僕と犬の寝室と、魔王の執務室とLDKがついてる。
お風呂とトイレは各部屋に完備。ワンルームマンションが4部屋繋がってる感じかな。真ん中にリビングとキッチンがあって、皆で寛げるようになっている。
内装は、素朴だった。
土壁はあたたかく皆を守るようにひっそりきらめき、家のなかのすべてのものが、経てきた時を表すように、やわらかに丸みを帯びて、住む人を包んでくれる。
金ぴかの装飾なんて、ひとつもない。
柱や梁、天井に施された彫刻が、不思議な幻獣を模り、色を添えるくらいだ。
僕の憧れ、あったかいおうち、そのものだ。
「すごい、おうちだ!」
拍手する僕の隣で、クロは尻尾を振った。
「ろー、すき?」
「だいしゅき!」
さ行、むつかしい。
クロのほうが発音が上手なんですけど!
ちょっと拗ねながらも熱い頬でクロと一緒にはしゃぐ僕に、ひょっこり執務室
から顔を出した魔王の、真っ黒な耳がぴこんと揺れる。
「そ、そうか」
見えるようになった目で見た魔王は、びっくりするほど巨大な漆黒の獅子だった。
裂けた口から覗く牙と、長い爪は鋭くいかめしいが、ふわふわ、もふもふのたてがみから覗く真っ黒な瞳は、つぶらだ。
四足歩行も二足歩行も可能なのだろう、ふわふわの向こうには逞しい筋肉がなめらかに隆起していた。
「魔王しゃま、かっこかわいー!」
拍手したら、魔王が首を傾げる。
「魔王しゃま、かっこいー!」
獅子の顔が、ちょっと、赤くなった。
「そ、そうか」
ふわふわの尻尾が、後ろでふさふさ揺れた。
「おっきくなったな」
もふもふの手が、僕の頭を撫でてくれる。
「魔王しゃまと、魔族しゃんと、魔山羊のお母しゃんと、魔山羊のお兄ちゃんと、クロのおかげでし。
食べないで育ててくだしゃって、ありがとうございまし」
指をそろえて、頭をさげる。
コンビニバイトの時に習ったよ。
忙し過ぎて死にそうで、指をそろえる暇なんて皆無だったよ。
皆やってないし、ま、いっかー、で、あんまりやらなかったよ。ごめんなさい!
「うむ。これで、最大か」
魔王の言葉に、僕は首を振った。
「えと、このくらいまでは伸びるといいなと思いましゅ」
椅子によじ登り、テーブルによじ登り、170cmくらいまで背伸びした僕に、魔王の目がまるくなる。
「そんなに大きくなるのか」
「えと、これくらいは伸びるかな」
控えめに、160cmにしてみた。
こっちの世界の人間の身長が分からないよ!
僕を見つめた魔王は、頷いた。
「伸び方、止め。
これでよし」
「え?」
「これが、最大。
わかったな」
ぽふぽふ頭を撫でられた僕は、唸る。
「え、えと、ご飯食べてると、伸びると思いまし」
「では、喰うな」
引き攣った。
おずおず、進言してみる。
「食べないと、死ぬと思いまし」
「うーむ」
唸る魔王に、顔を覗かせた魔族が笑う。
「ちっちゃいの、かわいーね、魔王さま」
「うむ!」
「でも人間は、すーぐ大きくなっちゃうんだよ」
「つまらぬ」
「じゃあちょっと、時でも止めてみる?」
「うむ!」
魔族の銀煤の爪が輝いて、僕に銀の光が降り注ぐ。
魔山羊のお母さんのお乳を飲んでも、おっきくならなくなったみたいです。
──よろこんでくれるなら、まあ、いっか。
……た、食べられない、よね──……?
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